こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

文献紹介

【文献紹介】Ptpn21がHSCの細胞の形の維持に関与

今回はAbstractのみです。 Ni F, Yu WM, Wang X, et al. Ptpn21 Controls Hematopoietic Stem Cell Homeostasis and Biomechanics. Cell Stem Cell. 2019 Apr 4;24(4):608-620.e6. 造血幹細胞(HSC)にはタンパク質チロシンホスファターゼであるPtpn21が高度に…

COVID-19に関する最近の論文あれこれ

南江堂から送られてくるNEJM Group発行の『NEJM Journal Watch』の中で目に付いた記事の紹介。 COVID-19ワクチンと有害事象との真の関連を明らかにするのは困難な可能性がある 元文献はこちら↓ Li X et al. Characterising the background incidence rates o…

HSCとカルシウム

まず細胞とカルシウムの関係について。 細胞内のカルシウム濃度変化は様々な生理機能に関わっています。 カルシウムは細胞内の小胞体内に貯蔵されており、必要に応じて放出されたり、回収されたりします。ちなみにミトコンドリアもカルシウムを貯蔵したり放…

エピジェネティクスとは

こちらは過去に大学で聞いた講義の内容を参考にしています。 以下に出てくる紙が折りたたまれるたとえもそのときに聞いて分かりやすいと思ったものを紹介しています。 エピジェネティクスはエピゲノム、エピジェネティックな、などとも呼ばれますが、Wikiped…

【文献紹介】性ステロイドホルモンブロックでリンパ球造血能が回復

Khong DM, Dudakov JA, Hammett MV, et al. Enhanced hematopoietic stem cell function mediates immune regeneration following sex steroid blockade. Stem Cell Reports. 2015 Mar 10;4(3):445-58. 加齢に伴い免疫能が低下し、様々な疾患にかかりやすく…

【文献紹介】慢性感染はDnmt3a欠損の効果を後押ししクローン造血を誘発する

Hormaechea-Agulla D, et al. Chronic infection drives Dnmt3a-loss-of-function clonal hematopoiesis via IFNγ signaling. Cell Stem Cell. 2021 Mar 16:S1934-5909(21)00108-9. Abstract 加齢に伴うクローン造血Clonal hematopoiesisは、悪性腫瘍や心血…

Dnmt3aとは

勉強したことのメモ。 Dnmt3a DNMT3A(DNA (cytosine-5)-methyltransferase 3A)は、DNA中の特定のCpG配列のシトシンに対するメチル基の転移を触媒する酵素であり、ヒトではDNMT3A遺伝子にコードされる[5][6]。この過程はDNAメチル化と呼ばれる。 出典:Wiki…

【文献紹介】内皮由来間質細胞は造血骨髄ニッチ形成に寄与する

文献紹介。AbstractとBMSCの簡単な解説のみ。 Kenswil KJG, Pisterzi P, Sánchez-Duffhues G, et al. Endothelium-derived stromal cells contribute to hematopoietic bone marrow niche formation. Cell Stem Cell. 2021 Apr 1;28(4):653-670.e11. Abstrac…

【文献紹介】DNA損傷応答ホスファターゼPPM1Dの阻害はにより腫瘍増殖が抑制される

Uyanik, B., Goloudina, A.R., Akbarali, A. et al. Inhibition of the DNA damage response phosphatase PPM1D reprograms neutrophils to enhance anti-tumor immune responses. Nat Commun 12, 3622 (2021). Introduction 悪性腫瘍の発生と進行には自然免…

ナノ粒子とCRISPR/Cas9システムを利用した遺伝子治療

調べたことのメモ。 まずCRISPR/Cas9システムとはゲノム編集技術の1つであり、ガイドRNAとCas9ヌクレアーゼという2つの役者がカギとなっている。ガイドRNAがCas9を目的の場所まで連れていき、Cas9ヌクレアーゼがゲノムを切断し、ゲノム編集が行われる。DNAを…

【文献紹介】加齢に伴ってHSC機能は低下するが巨核球前駆細胞機能は増強する

読んだ文献のメモ。 Poscablo DM, Worthington AK, Smith-Berdan S, Forsberg EC. Megakaryocyte progenitor cell function is enhanced upon aging despite the functional decline of aged hematopoietic stem cells. Stem Cell Reports. 2021 Jun 8;16(6)…

【文献紹介】骨髄ニッチにおける加齢に伴うIGF1低下がHSC老化に関与している

読んでみた文献のメモ。 Young K, Eudy E, Bell R, et al. Decline in IGF1 in the bone marrow microenvironment initiates hematopoietic stem cell aging. Cell Stem Cell. 2021 Apr 7:S1934-5909(21)00123-5. マウスやヒトにおける造血幹細胞HSCの老化は…

【文献紹介】潰瘍性大腸炎患者ではクローン造血発生率が上昇

読んでみた文献のメモ。 Zhang CRC, Nix D, Gregory M, Ciorba MA, et al. Inflammatory cytokines promote clonal hematopoiesis with specific mutations in ulcerative colitis patients. Exp Hematol. 2019 Dec;80:36-41.e3. 血液悪性腫瘍に見られる遺伝…

失神で受診するPE

今回は臨床関連記事。調べたことのメモです。 失神にて入院した患者の17.3%でPEあり。 PE以外の失神説明原因を有していた患者に限定しも12.7%でPEあり。 ★PE患者に有意に多かった症状 ・呼吸数 > 20/min ・脈拍>100/min ・収縮期圧<110mmHg ・DVT 上記の中で…

【文献紹介】加齢ショウジョウバエの精子産生減少のメカニズム~生殖細胞系列幹細胞の分裂減少~

Cheng, J., Türkel, N., Hemati, N. et al. Centrosome misorientation reduces stem cell division during ageing. Nature 456, 599–604 (2008). 成体幹細胞の機能低下は組織の老化に寄与すると考えられるが、根本的メカニズムは不明のまま。 筆者らはキイ…

【文献紹介】EGFRシグナル伝達経路阻害でG-CSFによるHSC末梢血動員が増加

造血幹細胞HSC関連の論文の紹介。 Ryan, M., Nattamai, K., Xing, E. et al. Pharmacological inhibition of EGFR signaling enhances G-CSF–induced hematopoietic stem cell mobilization. Nat Med 16, 1141–1146 (2010). https://doi.org/10.1038/nm.2217…

【文献紹介】神経血液マーカーは高齢マウスでの死亡率に関与

新しく創刊された雑誌であるNature agingに掲載されている記事を軽く読んでみました。 Article Published: 11 February 2021 A neuronal blood marker is associated with mortality in old age Stephan A. et al Nature Aging volume 1, pages218–225 (2021…

【文献紹介】タンパク質合成増加に伴うプロテオーム品質低下は造血幹細胞機能低下につながる

Cell reports誌に掲載されている造血幹細胞関連の文献で引用数が多いものをPic upしてみます。簡単に、、 まずこの文献に出てくるプロテオームとは、、、 プロテオーム (Proteome) とは、ある生物学的な系において存在しているタンパク質の総体である。生物…

【文献紹介】骨髄由来成長因子MYDFGは血管内非障害や動脈硬化を軽減させる効果がある

本日も文献紹介ですが、軽めに行きます。 RESEARCH ARTICLEHEALTH AND MEDICINE Myeloid-derived growth factor inhibits inflammation and alleviates endothelial injury and atherosclerosis in mice View ORCID ProfileBiying Meng1,2, Yixiang Li3, Yan…

【文献紹介】好酸球増多によるCCL6分泌ががん転移を促進する

本日も文献紹介ですが軽めに行きます。 RESEARCH ARTICLEIMMUNOLOGY Eosinophilic inflammation promotes CCL6-dependent metastatic tumor growth View ORCID ProfileFei Li1,†, View ORCID ProfileXufei Du1,†, View ORCID ProfileFen Lan1,†, View ORCID …

CRISPR offシステム

ノーベル賞を受賞した遺伝子編集技術CRISPR/Cas9と異なるアプローチで遺伝子発現を調節するCRISPR offシステムについて、抄読会で扱いましたので紹介します。タイトルは「CRISPR offシステム」としていますが、自分の勉強のため、背景などの説明が主になりま…

【文献紹介】重症先天性好中球減少症の遺伝子編集による治療

CRISPR関連の文献を紹介してみます。先天性好中球減少症を遺伝子編集にて治療するというものです。 CLINICAL AND TRANSLATIONAL REPORT| VOLUME 28, ISSUE 5, P833-845.E5, MAY 06, 2021 Dissecting ELANE neutropenia pathogenicity by human HSC gene edit…

【文献紹介】HSCの冬眠

Stem Cell Report誌のMost readです。 文献紹介に入る前に背景の解説です。 造血幹細胞HSCの「冬眠=hibernation」という言葉が最初に使われたのは私の知る限りYamazaki et al.の2006年の論文↓ Yamazaki S, et al. Cytokine signals modulated via lipid raf…

後方循環系脳梗塞への血管内治療は有効か?

今日は臨床系の文献紹介です。簡単にいきます。 Endovascular Therapy for Stroke Due to Basilar-Artery Occlusion May 20, 2021N Engl J Med 2021; 384:1910-1920DOI: 10.1056/NEJMoa2030297 なぜこの文献が目に留まったかについて、脳卒中に対する血管内…

神経幹細胞(Neural Stem Cell)とは

興味を持ったので少し調べてみました。 以前の記事でも示した通り、幹細胞にはいくつかの種類がある。 胚性幹細胞(ES細胞)、成体幹細胞、iPS細胞が主なもの。 出典:藤田保健衛生大学医学部応用細胞再生医学講座ホームページ 造血幹細胞も神経幹細胞も成体幹…

【文献紹介】TGFβは化学療法ストレス後の造血活性化からの復帰を促す

文献紹介です。 Brenet F, Kermani P, Spektor R, Rafii S, Scandura JM. TGFβ restores hematopoietic homeostasis after myelosuppressive chemotherapy. J Exp Med. 2013 Mar 11;210(3):623-39. 生涯にわたって血球細胞を産生する造血幹細胞(HSC)のほとん…

【文献紹介】ヒトiPS細胞からのミクログリア誘導

Stem cell reportsのMost readを軽く紹介してみます。 Chen SW, Hung YS, Fuh JL, Chen NJ, Chu YS, Chen SC, Fann MJ, Wong YH. Efficient conversion of human induced pluripotent stem cells into microglia by defined transcription factors. Stem Cel…

決定木分析 Decision tree

講義で習ったことのメモ。 決定木分析 Decision tree 木の形の図を用いて分類や回帰、意思決定を行う方法。 はじめに1つの文献をご紹介。 Best M, Katamba A, Neuhauser D. Making the right decision: Benjamin Franklin's son dies of smallpox in 1736. Q…

【文献紹介】マウス肝臓内にヒト赤血球を循環させることが可能に

抄読会で扱った論文の解説。今回はコラムっぽい形式にしてみました。 ***************************** マウスは、様々なヒトの疾患のモデルとして古くから用いられてきた。 繁殖が簡単で短期間に増殖することができるなど、研究対象として扱いやすく、また見…

医療統計:タモキシフェンと乳がん

医療統計にかんするセミナーのメモです。 タモキシフェンと乳がん 乳がん治療において術後の化学療法がしばしば行われる。 中でもホルモン剤の1つであるタモキシフェンは昔から用いられてきた。→タモキシフェンは乳がん再発を予防するか?Abe O. Breast Canc…