こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

HSCとカルシウム

まず細胞とカルシウムの関係について。

 

細胞内のカルシウム濃度変化は様々な生理機能に関わっています。

カルシウムは細胞内の小胞体内に貯蔵されており、必要に応じて放出されたり、回収されたりします。ちなみにミトコンドリアもカルシウムを貯蔵したり放出したりする機能を持っています。(これをカルシウムストアといいます。)

 

小体内のカルシウム濃度は0.1-1mM

細胞質やミトコンドリア内のカルシウム濃度は100nM

(Hajnóczky et al., 2003)

 

様々な生理機能に関わると書きましたが、例えば小胞体からカルシウムが放出され、それをミトコンドリアが取り込むことによってアポトーシスが起きます。

 

ミトコンドリア内のカルシウム濃度が上がるとアポトーシス誘導因子が放出されるわけです。(Orrenius et al., 2003)

 

次に造血幹細胞(HSC)とカルシウムの関連について述べていきます。

 

過去の報告によるとカルシウム濃度が変化すると以下のようになる。

細胞内のカルシウム濃度↑→ミトコンドリア膜電位↑→HSC分裂誘発(分化)

【細胞内】5-FU処理など周囲の細胞の細胞周期が止まるような処理をすると、細胞外のアデノシン濃度が減少し、これが細胞内カルシウム濃度上昇とHSCのミトコンドリア膜電位上昇につながる。

【細胞外】Caチャネルブロッカーを培養液に添加し、細胞内カルシウム濃度が上昇しすぎないようにするとミトコンドリア膜電位が低く維持され、HSCが分化しないまま維持されるが、これまでの培養法(培養液中のカルシウム濃度が高い状態)では、ミトコンドリア膜電位が上昇してしまい、HSCは分化してしまう。

Umemoto T, Hashimoto M, Matsumura T, Nakamura-Ishizu A, Suda T. Ca2+-mitochondria axis drives cell division in hematopoietic stem cells. J Exp Med. 2018 Aug 6;215(8):2097-2113.

 

この翌年にさらに詳しい内容の論文も別ジャーナルで発表された。

  • HSCのカルシウム濃度は低く維持されている。
  • これは解糖系を燃料としたカルシウム排出ポンプのおかげである。
  • カルシウム濃度が低いことによってタンパク質分解酵素の1つであるカルパイン活性が抑制され、TET酵素が安定化する。これがHSC維持に関与している。

Luchsinger LL, Strikoudis A, Danzl NM, Bush EC, Finlayson MO, Satwani P, Sykes M, Yazawa M, Snoeck HW. Harnessing Hematopoietic Stem Cell Low Intracellular Calcium Improves Their Maintenance In Vitro. Cell Stem Cell. 2019 Aug 1;25(2):225-240.e7.