こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】慢性感染はDnmt3a欠損の効果を後押ししクローン造血を誘発する

Hormaechea-Agulla D, et al.

Chronic infection drives Dnmt3a-loss-of-function clonal hematopoiesis via IFNγ signaling.

Cell Stem Cell. 2021 Mar 16:S1934-5909(21)00108-9.

 

Abstract

  • 加齢に伴うクローン造血Clonal hematopoiesisは、悪性腫瘍や心血管疾患の危険因子。
  • DNMT3A体細胞変異はクローン造血のドライバーの1つ。(クローン造血でしばしばみられる遺伝子変異。)
    →しかし変異獲得から実際にクローン造血に至るまでには数十年の開きがある。
    →遺伝子だけではなく環境要因の関与もあるであろう。
  • 筆者らはDNMT3A変異造血幹細胞HSCが感染によって選択的に増殖するようになるかを調査。
  • Dnmt3a HSCをWTマウスに移植。このマウスに慢性マイコバクテリウム感染を起こさせる。
  • INFγをマウスに注射するとクローン造血を模倣できる。感染中は二次性のストレス誘発性のアポトーシス低下によるものと考えられる。
  • ヒトでも同じように慢性感染によるINFγシグナル伝達が、DNMT3A喪失によるクローン造血を後押しする可能性があることを示唆している。

Introduction

  • 2014年に異なる3つのグループから、高齢者においては末梢血における遺伝子変異細胞がかつて報告されていたより高頻度で存在しており、これは遺伝子変異HSC(性質が変化したHSC)が骨髄でクローン性に増殖していることを示しているのではないかと発表。
    クローン造血と呼ばれ、近年注目を集めている。
  • 70代で15%に見られると報告される。
  • 血液腫瘍リスクが13倍に増加、それだけではなく心血管疾患や脳卒中も増加する。
  • これらのHSCはある特定の遺伝子変異を獲得したHSCが選択的に増殖することによると考えられる。
  • 上記のように様々な疾患に関与することから、クローン造血のメカニズムを解明することは、公衆衛生的観点から見て非常に重要である。
  • クローン造血に関与する遺伝子はすでにいくつかわかっているが、遺伝子だけが関与するわけではない。
  • 最も頻度の高い遺伝子変異であるDNMT3変異は、50歳までに多くの人が獲得していると報告されている。実際にクローン造血がみられるのはもっと後(数十年先)なのになぜ?
  • またDNMT3A変異は多くの場合、表現型に影響を与えない。(定常状態では)
    環境要因がクローン造血発症に関与しているのではと予測できる。
  • 過去の研究ではクローン造血は喫煙や喫煙関連慢性肺疾患と関与していることが報告されている。→環境要因がクローン造血を後押ししている?
  • また、クローン造血においてはTet2変異がしばしば観察されるが、これは炎症のドライバーでもある。TNFαやIL-6などの炎症刺激は野生型と比較してマウスにおけるTet2クローン拡大を促進するとの報告もある。
  • DNMT6Aは他の遺伝子変異と比較して6倍も頻繁にみられるにもかかわらず、これにこれに関連した環境因子は明らかになっていない。
  • 喫煙や年齢などのとの関連を見ると、炎症がDNMT3A変異HSCのクローン増殖を促進する役割があるのでは?と筆者らは考えた。
  • 筆者らは過去の研究で、INFγを介した持続的免疫応答が誘発されるマイコバクテリウムアビウム感染慢性炎症モデルマウスを作成した。→全身性炎症によってHSC枯渇が促進されるなど、慢性炎症時のHSC反応を再現できることを過去に報告している。(HSCが喪失すると静止状態のHSCが減り、分化と二次性ストレス誘発性のアポトーシスが増加するためHSC枯渇につながってしまう。)
  • この過去の研究からDnmt3a-/-HSCは分化能が低下し、自己複製能が上昇することがわかっている。
  • これを利用し、筆者らは、Dnmt3a機能喪失クローンが炎症という環境要因から選択圧を受けるかを検証する。

Results

  • 慢性感染は、マウスにおいてDnmt3a機能喪失クローンの増殖を促進する。
    ・ヒトにおけるDnmt3a機能喪失を近似するマウスモデルで実験。
    ・Dnmt3aマウスHSCをWT recipientに移植→このマウスにM.aviumを感染させると移植したDnmt3a-/- HSCが骨髄中で増加。(plpC非依存的)

    ・他の血球も確認したところMPPの増加もみられた。しかし巨核球前駆細胞、マクロファージ、単球、B/Tリンパ球の増加は見られず、Dnmt3a機能喪失によってMPPで分化が止まっている可能性が示唆された。
    ・ヒトでおこるDnmt3a変異の多くはヘテロであることからDnmt3a+/-の場合も調べた。
    脾臓のHSC調査でHSC自身が感染しているわけではないことが分かった。
  • 慢性感染はマウス末梢血においてDnmt3a-/-クローン造血を促進する。
  • Dnmt3a-/-HSCは、感染によって分化と二次性ストレス誘発アポトーシスが減少する。
    感染によるDnmt3an機能喪失細胞のクローン増殖のメカニズムを調査据えるためにWTとDnmt3a-/-HSCの感染ストレスに対する反応の違いを調査。
    ・筆者らは過去の研究でM.avium慢性感染中にHSCは分裂するが、これは自己複製低下と分化促進を伴っており、これが最終的にHSC枯渇につながる可能性があると報告している。
    ・感染時のHSC挙動を調べるため、マウスにplpC処理をしてDnmt3a機能喪失を誘発させ、その4週間後にM.aviumを感染させた。さらに4週間後にHSCを調査。
    ・その結果、HSCのFrequencyや死細胞率はControlと差がなかった。しかしDnmt3a機能喪失マウスでは貧血がみられた。
    ・また、二次性ストレス誘発アポトーシスDnmt3a-/-マウスでは減少
    数理モデルを適応し、
    Dnmt3aの二次ストレス誘発性アポトーシスの分化能力と速度の低下などを計算してみると、慢性感染による炎症性ストレスはDnmt3a-/-HSCクローンが選択的に拡大するという予測が建てられた。
    (少数Dnmt3a-/-HSC集団がのその他大多数のWT HSCを凌駕し増殖するという結果であった)
    ・実際にDnmt3a機能喪失マウスとコントロールマウスのHSC枯渇までの期間を実験で見てみると、3カ月の時点でHSC数はDnmt3a機能喪失マウスの方が多かった。→Dnmt3a機能喪失マウスの方が感染下においてHSC枯渇しにくい。慢性感染下においても自己複製能を保持できる。
  • ヒトもマウスもDnmt3a変異造血前駆細胞は、炎症ストレスにより分化能と連続継代時の増殖能が低下する。
    ・Dnmt3a-/-HSCは高INFγ濃度の際に生存率が改善(コロニー数が増加)、低濃度ではコロニー形成能はControlより劣るが分化能はControlより制限された。→生存にメリットあり。
    ・ヒトCD34+造血前駆細胞でもこれが当てはまるか検証→ヒトにおいてもやはりDnmt3a欠損で分化が制限される。
    ・連続継代実験から、Dnmt3a-/-の自己複製能が上がることを確認。
  • Dnmt3a機能喪失はHSC反応を鈍らせる。
    ・サイトカインプロファイリングを実施すると、Dnmt3aマウスもWTマウスと同じように、IL-6やTNF-αふぁ生成される。
    ・Ifngr1-/-かつDnmt3a-/-マウスではM.avium感染時のHSC増加が起きない。→Dnmt3aが働くにはIFNγ経路が必要。また同時にDnmt3a-/-だけでは不十分という意味でもある。(50代ごろにDnmt3a変異が起きるだけではクローン造血は起きない)
    ・しかし次にDnmt3a-/-マウスにウイルスを感染させてみても、同じ反応は得られず。(Controlと変わらず)→すべてのタイプの感染でクローン造血は起こるわけではない。
    ・1か月間毎日IFNγ製剤を打ち続けると…クローン造血起きる。→持続的なINFγシグナル伝達が、Dnmt3a-/-マウスにおけるクローン造血の必要十分条件であることを示している。
    ・このメカニズムをより詳細に調べるためにRNA seqを実施。
    ・筆者らが過去に報告しているIFNγ経路に関与している因子Batf2を欠損もDnmt3a機能喪失状態を一部模倣する。
  • Dnmt3a-/-HSCにおいて分化促進因子は高度にメチル化されている。
    ・Dnmt3aはそもそもde novoメチルトランスフェラーゼ→DNAのメチル化を制御=DNAのOn/Offをエピジェネティックに制御。
    ・慢性感染時のクローン造血促進もエピジェネティックな調整を受けているかも?
    ・WTとDnmt3a-/-マウスを比較すると、KOによってメチル化が亢進している箇所と低下している箇所があったが、Batf2、Jun、Fosなどのプロモーターはメチル化が上昇していた。

 

【文献紹介】TRAF6は造血幹細胞の恒常性維持に重要

Fang J, et al.

TRAF6 Mediates Basal Activation of NF-κB Necessary for Hematopoietic Stem Cell Homeostasis.

Cell Rep. 2018 Jan 30;22(5):1250-1262.

 

文献に出てくる因子の簡単な紹介

 

★NF-κB(エヌエフ・カッパー・ビー、核内因子κB、nuclear factor-kappa B)

転写因子として働くタンパク質複合体。急性炎症、慢性炎症、アポトーシスなど多くの生理現象に関与している。普段は細胞質に存在しているが、感染などで樹状細胞が活性化されると核内に移動し、炎症性サイトカインなどの炎症反応に必要なさまざまな遺伝子を活性化させ炎症反応を誘導する。炎症反応の開始と進行に非常に重要な役割を果たすが、一方で過剰に活性化してしまうとアレルギー疾患や炎症疾患、自己免疫疾患の発症につながってしまうことが分かっている。また、NF-κBのアポトーシスを防ぐ作用や炎症を促進する作用が発がんにも関与することが分かっており、様々なタイプのがんがNF-κBを恒常的に発現していることが報告されている。

 

参考文献:

炎症と消化器発癌 - J-Stage

https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/100/8/100_2269/_pdf

炎症反応を制御する新たな分子を発見
-過剰な炎症反応が起きないようにする仕組みの一端を解明-

https://www.riken.jp/press/2015/20151218_3/index.html

 

★TRAF6 (TNF receptor-associated factor 6)

シグナル伝達因子であり、ユビキチンリガーゼ活性(E3活性)を有するアダプター分子である。NF-κBシグナル伝達経路において重要な役割を果たす。NF-κBと同様に様々な生理機能に関与しており、骨代謝、免疫・炎症反応、胸腺構築、リンパ節や汗腺などの器官形成に関わると報告されている。

 

参考文献:

シグナル伝達因子TRAF6による骨代謝及び免疫・炎症反応の制御機構の解明

https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/events/gakuyukai/archive_post_291.html

 

本文の要旨は以下の通り。

  • 造血幹細胞(HSC)の恒常性維持のためにNF-κBの活性化が重要であることが報告されているが、どのように関与しているかは明らかでない。
    →NF-κBシグナル伝達経路において重要な役割を果たすTRAF6に今回注目し、この役割を調査。
  • Traf6を欠損させるとHSCの自己複製能が低下し、適応免疫や自然免疫シグナル伝達経路に変化が生じる。マウスの早期死亡造血不全も明らかとなった。
  • Traf6の欠損により、HSC静止状態が失われ、HSCプールの早期枯渇につながる。
  • 上記の反応はTRAF6活性化とNF-κBの活性化を仲介するIKKβが機能しなくなることによって生じる。
  • 以上より、TRAF6は造血幹細胞の恒常性維持に重要である。

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上記分家により引用

 

コロナワクチン変異株に有効?

今わかっている範囲の変異株に対しては結構有効そうです。

山名伸弥先生がまとめていくださっています。

www.covid19-yamanaka.com

 

しかしウイルスは常に新たな変異を繰り返していきますから、有効でない型がいつ出てきても不思議はないようです。

 

NEJMに掲載された記事を1つ紹介します。

 

Hacisuleyman E, Hale C, Saito Y, et al.

Vaccine Breakthrough Infections with SARS-CoV-2 Variants.

N Engl J Med. 2021 Jun 10;384(23):2212-2218.

  • 2回のワクチン接種を受けた患者417人を調査。→ワクチン接種後に感染した患者2人同定。
  • 両者ともにワクチンが正常に免疫を負荷していることは確認できたが、COVID-19感染症の症状があり、PCR検査でも陽性となった。
  • 2人の女性はいずれも変異型であった。

100%の予防はもちろん不可能ですから400人ほどの中で感染者2人というのは十分に少ないように個人的には思います。しかし観察期間が長くなればもう少し変わってくるかもしれませんので、やはり注意が必要そうです。

免疫と老化の関連

抄読会で扱った論文のメモです。

 

Yousefzadeh MJ, et al.

An aged immune system drives senescence and ageing of solid organs.

Nature. 2021 Jun;594(7861):100-105. 

 

生命科学で言うところの「老化」は一般的に言われている老化とは少し異なっており、しばしばSenescence(細胞老化)という言葉が使われている。

 

加齢: aging

時間経過のこと。ヒトでは暦年齢、マウスなどの動物では週齢や日齢になる。

 

細胞老化: senescence ※こちらの意味でagingという言葉が使われることもある

細胞増殖が不可逆的に停止した状態。年齢や週齢ではなく、p16, p21, p53(老化細胞のマーカー)などの発現量で決定される。同じ年齢でも臓器の機能や生理機能が人によって異なるように、同じだけ時間が経過しても同じように細胞増殖停止が起こるわけではない。増殖が停止したからといってアポトーシスするわけではないので、いらない細胞がどんそん体に蓄積していってしまう。これが臓器機能・生理機能の低下、すなわち老化につながっているのではないかと考えられている。

 

紫外線、ストレス、慢性炎症、放射線

→DNA損傷→senescence(細胞増殖停止)

→老化細胞蓄積→生理機能低下

という感じ

 

老化細胞マーカーであるp16を発現している細胞をアポトーシスさせると、老化関連疾患が抑制されるとの報告あり。

Baker DJ, Wijshake T, Tchkonia T, LeBrasseur NK, Childs BG, van de Sluis B, Kirkland JL, van Deursen JM. Clearance of p16Ink4a-positive senescent cells delays ageing-associated disorders. Nature. 2011 Nov 2;479(7372):232-6.

 

他にも老化細胞のアポトーシスを標的としたsenolytic drugはいくつか報告あり。

f:id:teicoplanin:20210609185815j:image

 

で、今回の文献の内容です。

  • 筆者らは免疫老化に着目。加齢に伴い…
    1.正常な免疫応答が低下
    2.慢性炎症や自己免疫応答の亢進
    がみられる。→これに最も関与しているのはT細胞
    胸腺は1歳から退縮し始め、40代ではT細胞数は新生児の1/3になってしまうなどT細胞は加齢の影響を最も受けやすいとされている。
    →免疫の老化が全身の老化に関与しているのでは?
  • リンパ系臓器でのみErcc1という遺伝子の発現を抑制
    →Ercc1抑制によりDNA損傷を修復できなくなる。
    →つまりリンパ系器官のみ老化するようなマウスを作成した。
  • 進行性の白血球減少がみられ、中でもB細胞ではなくT細胞が減少する。
  • T細胞老化マーカーであるPD1陽性細胞が増加
  • また自然免疫・獲得免疫の低下もみられれた。
    免疫細胞の老化が促進されいていることが分かった。
  • リンパ系器官だけではなく、Ercc1が抑制されていないはずのリンパ系器官の老化もみられた。(腎臓、肝臓、すい臓など各種臓器の採血値が上昇→様々な臓器の障害がErcc1ノックアウトマウスで多いという結果に)
    さらにはリンパ系器官のみの老化モデルのはずなのに、コントロールと比して寿命も短縮
  • また、オスの方が老化促進が早く、免疫老化感受性がオスの方が高いことが示唆された。

【結論】

免疫細胞はDNA損傷に脆弱であり、DNA損傷蓄積が老化につながる。
→これが全身の老化にもつながる。
→これを標的とした薬を作れば、加齢による慢性疾患発症を抑え、元気な高齢者を増やせるのではないか?

ナノ粒子とCRISPR/Cas9システムを利用した遺伝子治療

調べたことのメモ。

 

まずCRISPR/Cas9システムとはゲノム編集技術の1つであり、ガイドRNACas9ヌクレアーゼという2つの役者がカギとなっている。ガイドRNAがCas9を目的の場所まで連れていき、Cas9ヌクレアーゼがゲノムを切断し、ゲノム編集が行われる。DNAを底に運べば遺伝子の挿入も可能となる。

 

これを遺伝性疾患の治療に応用することができる。

 

遺伝性疾患の多くは、遺伝子に傷がついてしまって起こるので、それを修正することができれば疾患を直せるのではないか、というのが遺伝子治療である。

 

CRISPR/Cas9システムによる遺伝子編集を患者さんの体の中で起こし、間違ってしまっている遺伝子をもとに戻すのである。

 

しかしここで問題となるのが、Cas9、修正対象の遺伝子に連れていくガイドRNA、ゲノムへ挿入するDNAドナーをどうやって細胞まで効率的に届けるか?という点である。

 

古典的には、このように特定の物質を生体内に運搬するのにはウイルスが用いられてきたが、ウイルスは安全性の懸念が残り、また運搬量も限られる。ただでさえCRISPR/Cas9システムは非常に効率の高い編集技術ではない(Off target変異=目的でない遺伝子の変異が多い)にも関わらず、運搬法も効率的でないとなるとさらに編集効率が悪くなってしまう。

 

そこで登場した運搬法の1つがナノ粒子である。COVID-19ワクチンに利用されているのもナノ粒子である。

 

ナノ粒子に関してはいくつか過去記事があります。

 

teicoplanin.hatenablog.com

 

teicoplanin.hatenablog.com

 

上記のブログ記事から引用↓

物質を直径1-100ナノメートル(nm)の粒子にしたもの。化学・物理学・地質学・生物学など多くの分野に置ける研究対象。

出典:Wikipedia

 

近年、薬剤を体内に運ぶ方法としてナノ粒子を用いる方法が研究されている。

 

今回はCRISPR/Cas9システムとナノ粒子を組み合わせた遺伝子治療に関する文献を2つ紹介。

 

1.CRISPR/Cas9システムとナノ粒子を用いたデュシェンヌ型筋ジストロフィー遺伝子治療

Lee, K., Conboy, M., Park, H.M. et al. 

Nanoparticle delivery of Cas9 ribonucleoprotein and donor DNA in vivo induces homology-directed DNA repair. 

Nat Biomed Eng 1, 889–901 (2017).

 

これは日本語解説ページがあるのでそれを引用。

CRISPR装置のウイルスによらない効率的な送達

Niren Murthyたちは、CRISPR要素を1つ1つの金ナノ粒子の周囲にまとめて保護ポリマーで覆うことができること、そしてそのナノ粒子がCRISPR要素をさまざまな種類の細胞へ効率的に送達することを明らかにした。また、相同組換え修復(DNA切断酵素Cas9が生じた二本鎖DNA切断を修復する最も正確な機構)によって遺伝子編集が行われること、そしてデュシェンヌ型筋ジストロフィー治療を行うマウスの筋組織のオフターゲット編集レベルが最小限であったことも示している。

出典:Nature Japan ”Nature Biomedical Engineering”

 

2.CRISPR/Cas9システムとナノ粒子を用いた高コレステロール血症の治療

 

Rothgangl T, Dennis MK, Lin PJC, et al.

In vivo adenine base editing of PCSK9 in macaques reduces LDL cholesterol levels.

Nat Biotechnol. 2021 May 19.

 

脂質ナノ粒子(Lipid nanoparticle=LNP)を用いて、LDLレセプター分解を促すPCSK9をノックアウトする。(LDLレセプターが分解されなくなり、LDLを多く吸収できるようになることによって高コレステロール血症が改善する。)

  • マウス肝臓においてアデニン塩基編集を通してPCSK9を不活性化すると血中LDLが低下する。
  • LNPを用いた送達の場合、Pcsk9 mRNAの上昇は24時間以内になくなる。(後世に残らない。)
  • Off target変異率を調べてみると、AAV8(ウイルスベクター)の場合、導入後6週間ほどしてもある程度の割合のOff target変異あり。しかしLNPの場合は48時間後のOff target変異率は高いが17日後にはすでに検出できない程度まで低下。
  • サルでの実験でも(上記まではマウスで実験)、Off target変異は少ない。
  • ウイルスを用いない一過性のDeliveryベクターを用いた治療は臨床応用可能かもしれない。

 

【文献紹介】加齢に伴ってHSC機能は低下するが巨核球前駆細胞機能は増強する

読んだ文献のメモ。

 

Poscablo DM, Worthington AK, Smith-Berdan S, Forsberg EC.

Megakaryocyte progenitor cell function is enhanced upon aging despite the functional decline of aged hematopoietic stem cells.

Stem Cell Reports. 2021 Jun 8;16(6):1598-1613.

  • 高齢者では免疫応答能力が低下し、心血管障害や骨髄性疾患の増加が報告されている。
  • これら老化による機能障害は造血幹細胞HSCの老化による機能低下と並行して起こる。老化した細胞は宿主へのホーミングと生着能力が劣る。
  • しかしこれまでのHSC機能評価は骨髄球、Bリンパ球、Tリンパ球の生着率によって主に議論されてきた。つまり白血球の再構成能力が中心で、赤血球細胞や血小板に関してはあまり注目されてこなかった。
  • 筆者らは、赤血球と血小板(Plt)賛成の定量的測定と評価を実施した。
    巨核球形成に関する加齢の影響に関して予期せぬ発見があった。

【論文の前半は高齢HSCの再構成能低下、高齢ニッチが若齢HSCの再構成能を損なうなどといった過去の研究でも報告されている内容が多いためResultの後半を紹介】

  • 高齢マウスHSCに観察された最もsevereな変化は巨核球形成の変化。
  • 血小板も巨核球前駆細胞も高齢マウスでは数も頻度も増加。
  • 若齢巨核球前駆細胞と高齢巨核球前駆細胞をin vitroで3日間培養
    高齢の方が2.5倍多く増殖…高齢巨核球前駆細胞の方が増殖能力が優れているかも?
  • 今度は若齢巨核球前駆細胞と高齢巨核球前駆細胞を若齢レシピエントマウスに移植してみた。→高齢巨核球前駆細胞の方が高い血小板再構築能を示した。
    若齢巨核球前駆細胞は血小板うち7.4%を再構築
    高齢巨核球前駆細胞は血小板のうち34%を再構築
  • 高齢巨核球前駆細胞の移植は赤血球細胞や顆粒球細胞のキメリズム上昇にも寄与。血小板とともに移植後数週間は上昇し、その後徐々に減少した。
    巨核球前駆細胞は老化によって、増殖能と再構築能が上昇する。
  • 高齢巨核球前駆細胞と若齢巨核球前駆細胞の違いをGene ontologyで調査。
    →高齢の方で増殖に関する遺伝子が高度に濃縮。その他、細胞接着、炎症、ミトコンドリア調節に関するカテゴリーも高齢と若齢で違いあり。
    ※加齢に伴う血小板機能変化にミトコンドリア活性が関与しているというこれまでの報告と一致。
  • RNA-seqの結果も機能分析で観察された挙動を裏付けている。
  • 高齢者において巨核球前駆細胞や血小板が増加しているのは、高齢者で血栓症が多いことと関連している可能性がある。

 

 

【文献紹介】骨髄ニッチにおける加齢に伴うIGF1低下がHSC老化に関与している

読んでみた文献のメモ。

 

Young K, Eudy E, Bell R, et al.

Decline in IGF1 in the bone marrow microenvironment initiates hematopoietic stem cell aging.

Cell Stem Cell. 2021 Apr 7:S1934-5909(21)00123-5.

 

  • マウスやヒトにおける造血幹細胞HSCの老化は、若齢マウスとの比較で語られる。
  • 老化による変化として、HSC数(頻度)の増加、リンパ球系前駆細胞の減少、骨髄系に分化しやすいHSCの増加などが報告されている。
  • この変化には骨髄ニッチの変化が関与しているだろうということが分かっている。老齢ニッチを標的とした治療アプローチはHSC老化現象を活性化する。また、老齢HSCを若齢ニッチにおくと上記に挙げた老齢HSCの変代表的変化の1つである骨髄系に分化しやすいHSCの増加が減弱する。

 

  • 様々な週齢・月齢のC57BL/6Jオスマウスを解析。
    →9~12ヵ月齢マウス(ヒトで言う36~45歳に相当)で、骨髄細胞割合が増加するなどHSC老化の徴候がみられた。中年までのこのような老化の特徴がみられ始める。
  • 関連のある分子変化を特定するために若齢、中年、高齢マウスのLT-HSCでRNAシークエンスを実施した。
  • 中年期以降と若齢マウスでは特徴が異なっていた。過去の研究でも報告されている通り、骨髄関連のLT-HSC signatureが豊富でリンパ球関連LT-HSC signatureが減少していた。
  • 発現に差がある遺伝子をクラスター化すると、TNF-αシグナル伝達、免疫系、炎症反応のサイン豊富なクラスターの発現が加齢とともに増加していることが分かった。→炎症反応は進行性で年齢とともに累積する可能性が高い。
  • mTORC1シグナル伝達、コレステロール恒常性に関与する遺伝子クラスターは中年以降で発現が減少していた。
  • 中年期以降のニッチに若齢マウスHSCを移植すると骨髄系に偏った造血が誘発される。(これは過去の研究でも報告されている。)
  • RNAシークエンスをしてみると、中年HSCを若齢ニッチに移植することで骨髄分化や免疫応答に関連する遺伝子の発現が低下し、一方で代謝制御因子やPI3K/Aktシグナル伝達、細胞周期に関連する遺伝子の発現が上昇することが分かった。
    →つまり、系統バイアス、代謝、PI3K/Aktシグナル伝達、細胞周期のどれかが、中年LT-HSCを若齢ニッチに移動させた際に機能を活性化するのに関与している可能性があることを示唆している。
  • さらなる精査のため、中年期の多能性前駆細胞から単一細胞RNA-seqデータをとり解析した。Ingenuity PathwayAnalysisに入力し、中年期骨髄ニッチにおける関連のある上流調節因子を調査
    IGF2の増加、NRG1・IGF1・TGF-β1・EGF減少の関与を示唆
    -----------------------------
    IPA(Ingenuity® Pathway Analysis)とは
    マイクロアレイ・RNA-seq・プロテオーム・メタボロームなど様々な形式のデータから既知のパスウェイ・上流因子・毒性/疾患との関連を探索するためのソフトウェアです。
    Rhelixa IPA受託解析サービスHPより引用
    -----------------------------
  • 以下の点から、上記の中からさらに還元型IGF1加齢に伴う減少に注目
    1.ニッチの非造血細胞で特異的に発現していたのはIgf1とIgf2のみ
    2.中年マウスと若齢マウスを比較するとIGF2は変わらないがIGF1の減少は確認できた。
    3.間質細胞におけるIgf1高発現がみられた。

    4.IGF1の主な受容体であるIgf1rが造血前駆細胞で発現していた。
    5.Igf1は中年マウスMSCで減少がみられた。
  • 若齢マウスHSCをIgf1条件付きKOマウスに移植→移植後にKO
    →骨髄系細胞の増加、リンパ球系細胞の減少がみられた。
    IGF1シグナル伝達経路低下で骨髄系に偏った造血を引き起こす。
  • ではIGF1↑で中年期以降のマウスのLT-HSCを活性kあできる?
    骨髄細胞の持続的な減少とリンパ系細胞の増加をもたらした。
    IGF1によってHSCの老化の特徴をレスキューできる。
  • IGF1によってmTORシグナル伝達、ミトコンドリア機能、代謝、細胞周期に関連のプロセスが強化されることがRNA-seqで分かった。
  • ミトコンドリア活性がIGF1によって活性化する。

 

  • IGF1は人においては60歳を超えると徐々に低下していく。
  • IGF1先天性欠損症や全身性の減少は寿命を延ばすことができる。
    (ストレスに対する細胞応答を改善し腫瘍および細胞老化の発生率を減少させることができる)
  • これまではnature’s way of sustaining the aging individualと考えられてきた。
  • 我々の研究は高齢者におけるIGF1刺激の有効性を示唆しているが、発がんやインスリン抵抗性のリスクを高めることなくこの利点を利用するにはさらなる研究が必要。
  • 今回報告したIGF1刺激やmTORシグナル伝達経路活性化、ミトコンドリア代謝活性化を若年期から利用できれば、健康な造血機能を高齢になっても維持できる可能性がある。