読んでみた文献のメモ。
Young K, Eudy E, Bell R, et al.
Decline in IGF1 in the bone marrow microenvironment initiates hematopoietic stem cell aging.
Cell Stem Cell. 2021 Apr 7:S1934-5909(21)00123-5.
- マウスやヒトにおける造血幹細胞HSCの老化は、若齢マウスとの比較で語られる。
- 老化による変化として、HSC数(頻度)の増加、リンパ球系前駆細胞の減少、骨髄系に分化しやすいHSCの増加などが報告されている。
- この変化には骨髄ニッチの変化が関与しているだろうということが分かっている。老齢ニッチを標的とした治療アプローチはHSC老化現象を活性化する。また、老齢HSCを若齢ニッチにおくと上記に挙げた老齢HSCの変代表的変化の1つである骨髄系に分化しやすいHSCの増加が減弱する。
- 様々な週齢・月齢のC57BL/6Jオスマウスを解析。
→9~12ヵ月齢マウス(ヒトで言う36~45歳に相当)で、骨髄細胞割合が増加するなどHSC老化の徴候がみられた。中年までのこのような老化の特徴がみられ始める。 - 関連のある分子変化を特定するために若齢、中年、高齢マウスのLT-HSCでRNAシークエンスを実施した。
- 中年期以降と若齢マウスでは特徴が異なっていた。過去の研究でも報告されている通り、骨髄関連のLT-HSC signatureが豊富でリンパ球関連LT-HSC signatureが減少していた。
- 発現に差がある遺伝子をクラスター化すると、TNF-αシグナル伝達、免疫系、炎症反応のサイン豊富なクラスターの発現が加齢とともに増加していることが分かった。→炎症反応は進行性で年齢とともに累積する可能性が高い。
- mTORC1シグナル伝達、コレステロール恒常性に関与する遺伝子クラスターは中年以降で発現が減少していた。
- 中年期以降のニッチに若齢マウスHSCを移植すると骨髄系に偏った造血が誘発される。(これは過去の研究でも報告されている。)
- RNAシークエンスをしてみると、中年HSCを若齢ニッチに移植することで骨髄分化や免疫応答に関連する遺伝子の発現が低下し、一方で代謝制御因子やPI3K/Aktシグナル伝達、細胞周期に関連する遺伝子の発現が上昇することが分かった。
→つまり、系統バイアス、代謝、PI3K/Aktシグナル伝達、細胞周期のどれかが、中年LT-HSCを若齢ニッチに移動させた際に機能を活性化するのに関与している可能性があることを示唆している。 - さらなる精査のため、中年期の多能性前駆細胞から単一細胞RNA-seqデータをとり解析した。Ingenuity PathwayAnalysisに入力し、中年期骨髄ニッチにおける関連のある上流調節因子を調査
→IGF2の増加、NRG1・IGF1・TGF-β1・EGF減少の関与を示唆
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※IPA(Ingenuity® Pathway Analysis)とは
マイクロアレイ・RNA-seq・プロテオーム・メタボロームなど様々な形式のデータから既知のパスウェイ・上流因子・毒性/疾患との関連を探索するためのソフトウェアです。
Rhelixa IPA受託解析サービスHPより引用
----------------------------- - 以下の点から、上記の中からさらに還元型IGF1加齢に伴う減少に注目
1.ニッチの非造血細胞で特異的に発現していたのはIgf1とIgf2のみ。
2.中年マウスと若齢マウスを比較するとIGF2は変わらないがIGF1の減少は確認できた。
3.間質細胞におけるIgf1高発現がみられた。
4.IGF1の主な受容体であるIgf1rが造血前駆細胞で発現していた。
5.Igf1は中年マウスMSCで減少がみられた。 - 若齢マウスHSCをIgf1条件付きKOマウスに移植→移植後にKO
→骨髄系細胞の増加、リンパ球系細胞の減少がみられた。
→IGF1シグナル伝達経路低下で骨髄系に偏った造血を引き起こす。 - ではIGF1↑で中年期以降のマウスのLT-HSCを活性kあできる?
→骨髄細胞の持続的な減少とリンパ系細胞の増加をもたらした。
→IGF1によってHSCの老化の特徴をレスキューできる。 - IGF1によってmTORシグナル伝達、ミトコンドリア機能、代謝、細胞周期に関連のプロセスが強化されることがRNA-seqで分かった。
- ミトコンドリア活性がIGF1によって活性化する。
- IGF1は人においては60歳を超えると徐々に低下していく。
- IGF1先天性欠損症や全身性の減少は寿命を延ばすことができる。
(ストレスに対する細胞応答を改善し腫瘍および細胞老化の発生率を減少させることができる) - これまではnature’s way of sustaining the aging individualと考えられてきた。
- 我々の研究は高齢者におけるIGF1刺激の有効性を示唆しているが、発がんやインスリン抵抗性のリスクを高めることなくこの利点を利用するにはさらなる研究が必要。
- 今回報告したIGF1刺激やmTORシグナル伝達経路活性化、ミトコンドリア代謝活性化を若年期から利用できれば、健康な造血機能を高齢になっても維持できる可能性がある。