Cell reports誌に掲載されている造血幹細胞関連の文献で引用数が多いものをPic upしてみます。簡単に、、
まずこの文献に出てくるプロテオームとは、、、
プロテオーム (Proteome) とは、ある生物学的な系において存在しているタンパク質の総体である。生物学的な系とは組織や生物種、細胞の状態などを指す。複数の生物学的な系の間でプロテオームを比較することにより、生命現象を総合的に理解することが可能となる。例えばがん細胞と正常細胞のプロテオームを比較することにより、がん化の原因や治療方法を研究することに用いられる。プロテオームを扱う解析をプロテオミクスと言う。
出典:Wikipedia
また、造血幹細胞だけでなく複数の成体組織にある体性幹細胞は、タンパク質合成率が分化した細胞と比較して低いとされている。低タンパク質合成が幹細胞性維持に関与しているとも考えられている。
【参考論文】
Blanco, S., Bandiera, R., Popis, M. et al.
Stem cell function and stress response are controlled by protein synthesis.
Nature 534, 335–340 (2016).
マウスの皮膚幹細胞と腫瘍開始細胞が、それらの下流細胞、つまりより分化が進んだ細胞と比較して、合成するタンパク質が少ないと報告している。
タンパク質合成が少ない=翻訳が少ない→エラーが少なくなる→幹細胞性維持に関与
しているのではないかと考えられる。
で、次に今回の文献です。
Hidalgo San Jose L, Sunshine MJ, Dillingham CH, Chua BA, Kruta M, Hong Y, Hatters DM, Signer RAJ.
Modest Declines in Proteome Quality Impair Hematopoietic Stem Cell Self-Renewal.
Cell Rep. 2020 Jan 7;30(1):69-80.e6.
皮膚幹細胞の文献でも触れた通り、翻訳は遺伝子発現において最もエラーが生じやすいステップであり、タンパク質合成を抑え、翻訳をおさえることで翻訳エラーが減少し、これによりミスフォールドタンパク質の発生が減り、これらによってプロテオームの質が高まりHSCの幹細胞性の維持につながっているのではないかと本論文の筆者らは考えました。
そして実験の結果、タンパク質合成の増加がタンパク質の品質低下に寄与し(ミスフォールディングタンパク質が増加してしまうため)、これによってHSCの自己複製能が損なわれるなどHSC機能低下に関与していることが分かりました。またHSCのc-Mycの蓄積にも関与していることが分かり、このc-Myc蓄積もまたHSCの機能低下に関与してる可能性が示唆された。