Uyanik, B., Goloudina, A.R., Akbarali, A. et al.
Inhibition of the DNA damage response phosphatase PPM1D reprograms neutrophils to enhance anti-tumor immune responses.
Nat Commun 12, 3622 (2021).
Introduction
- 悪性腫瘍の発生と進行には自然免疫と獲得免疫が関与している。
- 面積細胞の中でも好中球は、以下の2つの方法で悪性腫瘍発生に寄与している。
①腫瘍形成初期段階では腫瘍関連好中球(TAN)が腫瘍免疫応答を抑制し、腫瘍増大を促進する。
②腫瘍細胞からの連続的な病的シグナルを受け、好中球が免疫抑制抑制を獲得し、抗腫瘍エフェクター細胞やCD8+細胞小ファイ性リンパ球NK細胞などを負に抑制する。 - 腫瘍微小環境でのp53による免疫応答の調節は、腫瘍抑制のために非常に重要であると考えられる。
- PPM1D遺伝子の産物であり、野生型p53誘導性ホスファターゼであるWip1は、金属依存性のセリン/スレオニンたんぱくホスファターゼであり、DNAダメージ因子に暴露されたのちにp53によって転写誘導される。
- これまでの研究によるとWip1がp53、ATM、MAPKなどの腫瘍抑制因子を負に調節することが分かっている。(つまり腫瘍形成を促進する)
- いくつかの癌でPPM1Dand/orWip1タンパク質が過剰発現している。そのような腫瘍ではp53は保たれているが(欠損していない)、しかし機能は低下している。
- タンパク質短縮型変異(protein-truncating variant,PTV)がPPMD1にあるとさらに予後は悪化するという報告あり。
- また、血液腫瘍や冠動脈疾患のリスクとなりうるクローン性造血(CHIP)でも同じPTVが見つかり、PPM1DがCHIPドライバー変異の1つであるということが同定された。
- しかし他のCHIPドライバー遺伝子と異なり、PPM1D変異はMDSやAMLを発症するリスクの増加とは関連していなかった。
- 本論文では、PPM1Dがヒトでもマウスでも腫瘍浸潤好中球で過剰発現しており、骨髄細胞における遺伝子欠損または化学的阻害が腫瘍形成を抑制することを示す。
Results&Discussion
- Ppm1d遺伝子条件付きKOマウスを作成し、Wips欠損マウスを作成した。
→これに皮膚がん(メラノーマ)と肺がんを発生させる。
→Wisp欠損マウスで有意に腫瘍成長が抑えられた。 - またPpm1d KOは好中球の表現型や特性を変化させた。(遺伝子的除去も科学的阻害も)
- KOマウスでは炎症性サイトカインの分泌レベルに変化あり。
KOで増加:TNFα mRNA
KOで減少:Il-4, Il-10, Mmp9, Tgfβ, Vegf mRNAs - 次にマウス全体ではなく好中球でPpm1dをKOするモデルを作った。
→やはり固形腫瘍の増殖抑制効果あり。 - KOマウスではCD4+T細胞が減少、CD8+T細胞が増加していた。
- マウスに腫瘍に浸潤したCD8+細胞はWTマウスと比較して高度に活性化されていた。
- ヒト肺がん初期では好中球は4-1BBL / 4-1BBおよびOX-40L / OX-40経路を介してCD8 + T細胞を刺激することにより、抗腫瘍反応に寄与することが分かっている。
→これを調査
→好中球におけるPpm1dの遺伝子欠損orWip1活性喪失で4-1BBLとOX-40Lの発現が増加。 - つまり
Ppm1dの遺伝子欠損orWip1活性喪失
→4-1BBLとOX-40Lの発現が増加
→CD8+T細胞の増殖
→抗腫瘍効果
というメカニズムと考えられる。 - 腫瘍抑制因子p53もまた4-1BBL(TNFSF9)とOX-40L(TNFSF4)を含むいくつかの腫瘍壊死因子スーパーファミリー(TNFSF)サイトカインの発現を調節
→これを踏まえてWip1とp53のダブルKOマウスを用いて次に実験をした。
→WT、Wips1だけKOどちらと比較しても腫瘍は大幅に増大。
→Wip1 KOで得られた抗腫瘍効果はp53もKOすると打ち消されてしまう。 - ヒトでも調査。
・肺がん患者の5人中4人はTANか腫瘍周囲組織からとった好中球のいずれかまたは両方で、PPM1A mRNAレベルが有意に上昇していた。
・メラノーマでも同様の結果。 - またマウス腫瘍モデルにおいてオキサリプラチンと5FU治療とWip1欠損好中球注する治療を併用すると腫瘍抑制効果が増大した。
- また同様に、抗PD1抗体治療とWip1欠損好中球注入治療を組み合わせると、抗PD1またはWip1欠損のみの単独療法と比較して、黒色腫腫瘍の増殖がより効果的に減少した。