Hormaechea-Agulla D, et al.
Chronic infection drives Dnmt3a-loss-of-function clonal hematopoiesis via IFNγ signaling.
Cell Stem Cell. 2021 Mar 16:S1934-5909(21)00108-9.
Abstract
- 加齢に伴うクローン造血Clonal hematopoiesisは、悪性腫瘍や心血管疾患の危険因子。
- DNMT3A体細胞変異はクローン造血のドライバーの1つ。(クローン造血でしばしばみられる遺伝子変異。)
→しかし変異獲得から実際にクローン造血に至るまでには数十年の開きがある。
→遺伝子だけではなく環境要因の関与もあるであろう。 - 筆者らはDNMT3A変異造血幹細胞HSCが感染によって選択的に増殖するようになるかを調査。
- Dnmt3a HSCをWTマウスに移植。このマウスに慢性マイコバクテリウム感染を起こさせる。
- INFγをマウスに注射するとクローン造血を模倣できる。感染中は二次性のストレス誘発性のアポトーシス低下によるものと考えられる。
- ヒトでも同じように慢性感染によるINFγシグナル伝達が、DNMT3A喪失によるクローン造血を後押しする可能性があることを示唆している。
Introduction
- 2014年に異なる3つのグループから、高齢者においては末梢血における遺伝子変異細胞がかつて報告されていたより高頻度で存在しており、これは遺伝子変異HSC(性質が変化したHSC)が骨髄でクローン性に増殖していることを示しているのではないかと発表。
→クローン造血と呼ばれ、近年注目を集めている。 - 70代で15%に見られると報告される。
- 血液腫瘍リスクが13倍に増加、それだけではなく心血管疾患や脳卒中も増加する。
- これらのHSCはある特定の遺伝子変異を獲得したHSCが選択的に増殖することによると考えられる。
- 上記のように様々な疾患に関与することから、クローン造血のメカニズムを解明することは、公衆衛生的観点から見て非常に重要である。
- クローン造血に関与する遺伝子はすでにいくつかわかっているが、遺伝子だけが関与するわけではない。
- 最も頻度の高い遺伝子変異であるDNMT3変異は、50歳までに多くの人が獲得していると報告されている。実際にクローン造血がみられるのはもっと後(数十年先)なのになぜ?
- またDNMT3A変異は多くの場合、表現型に影響を与えない。(定常状態では)
→環境要因がクローン造血発症に関与しているのではと予測できる。 - 過去の研究ではクローン造血は喫煙や喫煙関連慢性肺疾患と関与していることが報告されている。→環境要因がクローン造血を後押ししている?
- また、クローン造血においてはTet2変異がしばしば観察されるが、これは炎症のドライバーでもある。TNFαやIL-6などの炎症刺激は野生型と比較してマウスにおけるTet2クローン拡大を促進するとの報告もある。
- DNMT6Aは他の遺伝子変異と比較して6倍も頻繁にみられるにもかかわらず、これにこれに関連した環境因子は明らかになっていない。
- 喫煙や年齢などのとの関連を見ると、炎症がDNMT3A変異HSCのクローン増殖を促進する役割があるのでは?と筆者らは考えた。
- 筆者らは過去の研究で、INFγを介した持続的免疫応答が誘発されるマイコバクテリウムアビウム感染慢性炎症モデルマウスを作成した。→全身性炎症によってHSC枯渇が促進されるなど、慢性炎症時のHSC反応を再現できることを過去に報告している。(HSCが喪失すると静止状態のHSCが減り、分化と二次性ストレス誘発性のアポトーシスが増加するためHSC枯渇につながってしまう。)
- この過去の研究からDnmt3a-/-HSCは分化能が低下し、自己複製能が上昇することがわかっている。
- これを利用し、筆者らは、Dnmt3a機能喪失クローンが炎症という環境要因から選択圧を受けるかを検証する。
Results
- 慢性感染は、マウスにおいてDnmt3a機能喪失クローンの増殖を促進する。
・ヒトにおけるDnmt3a機能喪失を近似するマウスモデルで実験。
・Dnmt3aマウスHSCをWT recipientに移植→このマウスにM.aviumを感染させると移植したDnmt3a-/- HSCが骨髄中で増加。(plpC非依存的)
・他の血球も確認したところMPPの増加もみられた。しかし巨核球前駆細胞、マクロファージ、単球、B/Tリンパ球の増加は見られず、Dnmt3a機能喪失によってMPPで分化が止まっている可能性が示唆された。
・ヒトでおこるDnmt3a変異の多くはヘテロであることからDnmt3a+/-の場合も調べた。
・脾臓のHSC調査でHSC自身が感染しているわけではないことが分かった。 - 慢性感染はマウス末梢血においてDnmt3a-/-クローン造血を促進する。
- Dnmt3a-/-HSCは、感染によって分化と二次性ストレス誘発アポトーシスが減少する。
・感染によるDnmt3an機能喪失細胞のクローン増殖のメカニズムを調査据えるためにWTとDnmt3a-/-HSCの感染ストレスに対する反応の違いを調査。
・筆者らは過去の研究でM.avium慢性感染中にHSCは分裂するが、これは自己複製低下と分化促進を伴っており、これが最終的にHSC枯渇につながる可能性があると報告している。
・感染時のHSC挙動を調べるため、マウスにplpC処理をしてDnmt3a機能喪失を誘発させ、その4週間後にM.aviumを感染させた。さらに4週間後にHSCを調査。
・その結果、HSCのFrequencyや死細胞率はControlと差がなかった。しかしDnmt3a機能喪失マウスでは貧血がみられた。
・また、二次性ストレス誘発アポトーシスがDnmt3a-/-マウスでは減少。
・数理モデルを適応し、Dnmt3aの二次ストレス誘発性アポトーシスの分化能力と速度の低下などを計算してみると、慢性感染による炎症性ストレスはDnmt3a-/-HSCクローンが選択的に拡大するという予測が建てられた。
(少数Dnmt3a-/-HSC集団がのその他大多数のWT HSCを凌駕し増殖するという結果であった)
・実際にDnmt3a機能喪失マウスとコントロールマウスのHSC枯渇までの期間を実験で見てみると、3カ月の時点でHSC数はDnmt3a機能喪失マウスの方が多かった。→Dnmt3a機能喪失マウスの方が感染下においてHSC枯渇しにくい。慢性感染下においても自己複製能を保持できる。 - ヒトもマウスもDnmt3a変異造血前駆細胞は、炎症ストレスにより分化能と連続継代時の増殖能が低下する。
・Dnmt3a-/-HSCは高INFγ濃度の際に生存率が改善(コロニー数が増加)、低濃度ではコロニー形成能はControlより劣るが分化能はControlより制限された。→生存にメリットあり。
・ヒトCD34+造血前駆細胞でもこれが当てはまるか検証→ヒトにおいてもやはりDnmt3a欠損で分化が制限される。
・連続継代実験から、Dnmt3a-/-の自己複製能が上がることを確認。 - Dnmt3a機能喪失はHSC反応を鈍らせる。
・サイトカインプロファイリングを実施すると、Dnmt3aマウスもWTマウスと同じように、IL-6やTNF-αふぁ生成される。
・Ifngr1-/-かつDnmt3a-/-マウスではM.avium感染時のHSC増加が起きない。→Dnmt3aが働くにはIFNγ経路が必要。また同時にDnmt3a-/-だけでは不十分という意味でもある。(50代ごろにDnmt3a変異が起きるだけではクローン造血は起きない)
・しかし次にDnmt3a-/-マウスにウイルスを感染させてみても、同じ反応は得られず。(Controlと変わらず)→すべてのタイプの感染でクローン造血は起こるわけではない。
・1か月間毎日IFNγ製剤を打ち続けると…クローン造血起きる。→持続的なINFγシグナル伝達が、Dnmt3a-/-マウスにおけるクローン造血の必要十分条件であることを示している。
・このメカニズムをより詳細に調べるためにRNA seqを実施。
・筆者らが過去に報告しているIFNγ経路に関与している因子Batf2を欠損もDnmt3a機能喪失状態を一部模倣する。 - Dnmt3a-/-HSCにおいて分化促進因子は高度にメチル化されている。
・Dnmt3aはそもそもde novoメチルトランスフェラーゼ→DNAのメチル化を制御=DNAのOn/Offをエピジェネティックに制御。
・慢性感染時のクローン造血促進もエピジェネティックな調整を受けているかも?
・WTとDnmt3a-/-マウスを比較すると、KOによってメチル化が亢進している箇所と低下している箇所があったが、Batf2、Jun、Fosなどのプロモーターはメチル化が上昇していた。