こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

COVID-19に関する最近の論文あれこれ

南江堂から送られてくるNEJM Group発行の『NEJM Journal Watch』の中で目に付いた記事の紹介。

 

COVID-19ワクチンと有害事象との真の関連を明らかにするのは困難な可能性がある

元文献はこちら↓

Li X et al. Characterising the background incidence rates of adverse events of special interest for COVID-19 vaccines in eight countries: Multinational network cohort study. BMJ 2021 Jun 14; 373:n1435.

 

COVID-19ワクチンの副反応発生率を8か国13のデータベースで調査しています。その結果、有害事象発生率はデータベース間で著しく不均一で一貫していなかったとのことです。

 

例えば、ワクチン接種後のDVT(深部静脈血栓症)発生率は20-2030人年と非常にばらつきが大きいです。

 

NEJM記者は「ワクチン接種後に起きた反応が真にワクチンと関連しているかどうか判断することの難しさを浮き彫りにしている」としています。

 

これはよく理解できます。前にCOVID-19ワクチン接種に関する記事を書いたとき副反応にもふれましたが、NEJMのSafety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccineによると、ワクチン接種後の症状として多いのが倦怠感59% 頭痛52%です。しかしこの2つの症状は、プラセボ群でも倦怠感23% 頭痛24%に見られています。

Skowronski DM, De Serres G. Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine. N Engl J Med. 2021 Apr 22;384(16):1576-1577. doi: 10.1056/NEJMc2036242. Epub 2021 Feb 17.

 

この通りだとするとワクチン接種後に頭痛を感じたとしても半分近くは気のせいということになります。(実際はそんなに単純ではないですが)

 

もちろんDVT発症は気のせいではないのですが、ワクチン接種後にDVTなどなんらかのイベントが起きたからといって、そこに因果関係があるとは限らないですし、因果関係があると証明するのは大変難しいと思います。

 

これはもっと長期間をかけて観察していく必要がありそうです。

 

Dダイマー上昇COVID-19患者への抗凝固療法:治療doseでも予防doseでも有意差なし

Lopes RD et al. Therapeutic versus prophylactic anticoagulation for patients admitted to hospital with COVID-19 and elevated D-dimer concentration (ACTION): An open-label, multicentre, randomised, controlled trial. Lancet 2021 Jun 12; 397:2253.

 

ブラジルの31の病院で非盲検試験を実施。Dダイマーが上昇しているCOVID-19患者をランダム化し以下のように治療を行った。

 

【治療】

〇安定した患者:in-hospital oral rivaroxaban (20 mg or 15 mg daily)

〇重症な患者:initial subcutaneous enoxaparin (1 mg/kg twice per day) or intravenous unfractionated heparin (to achieve a 0·3–0·7 IU/mL anti-Xa concentration) for clinically unstable patients

どちらも上記の後にrivaroxaban30日間継続。

 

【予防】

in-hospital enoxaparin or unfractionated heparin

f:id:teicoplanin:20210628143026p:plain

 

死亡、入院期間、酸素需要などのアウトカムに有意差なし。しかし出血リスクは増加。

 (3.64 [95% CI 1·61–8·27], p=0·0010)

 

上記文献では転帰は変わらず出血リスクが増すので治療doseでの投与は不要としています。これは感覚的にも理解できますし、実際私が勤務しているコロナ病棟でもそうしてます。

 

非盲検ですし、患者数も非常に多いというほどではないのですが、個人的には了解可能な結果です。