文献紹介です。
Brenet F, Kermani P, Spektor R, Rafii S, Scandura JM.
TGFβ restores hematopoietic homeostasis after myelosuppressive chemotherapy.
J Exp Med. 2013 Mar 11;210(3):623-39.
- 生涯にわたって血球細胞を産生する造血幹細胞(HSC)のほとんどは静止状態にある。(Bradford et al., 1997; Cheshier et al., 1999; Passegué et al., 2005)
- 骨髄ニッチ(微小環境)にある細胞から分泌されるパラクリン因子がHSCの静止状態を維持する。(Wilson and Trumpp, 2006; Ehninger and Trumpp, 2011; Lévesque and Winkler, 2011)
- 化学療法などなんらかのストレスがかがるとHSCは休止状態から脱し、自己複製・分化をするようになる。ある程度するとまた休止状態に戻るが、これがどのようにして行われるかは十分明らかでなかった。
- TGFβはHSCサイクリングをブロックできるためTGFβ経路活性化によって、ストレス後の造血回復からHSCが休止状態に戻る誘因となる可能性があると筆者らは考えた。
(TGFβはin vitroでのサイトカイン依存性HSC増殖の最も強力な阻害剤の1つ) - TGFβが定常状態の造血中にHSC静止状態を維持するための重要なニッチ因子であることが多くの過去の研究によって示唆されている。
- 筆者らの研究によると、化学療法による骨髄抑制からの回復中にTGFβシグナル伝達が活性化されるとしている。
→もしこれを遮断すると、造血再生が促進される=HSC静止状態復帰を妨げる。
→つまりTGFβ経路活性化が抗がん剤ストレス後の造血再生を抑制している。 - しかし普通の状態でTGFβ阻害剤を投与しても特に何も起こらない。
→つまりTGFβは状況依存的に(化学療法ストレス後にのみ)休止状態再確立に関与している。 - TGFβは造血再生中にサイクリン依存性キナーゼ阻害剤の1つであるp57を発現を誘導させることが筆者らの研究で判明。これがないと定常的造血に影響あり。
- 筆者らは回復中のTGFβ誘発性細胞増殖抑制の遮断が化学療法誘発性骨髄抑制を制限するのに利用できるのではないかとしている。