調べたことのメモ。
まずCRISPR/Cas9システムとはゲノム編集技術の1つであり、ガイドRNAとCas9ヌクレアーゼという2つの役者がカギとなっている。ガイドRNAがCas9を目的の場所まで連れていき、Cas9ヌクレアーゼがゲノムを切断し、ゲノム編集が行われる。DNAを底に運べば遺伝子の挿入も可能となる。
これを遺伝性疾患の治療に応用することができる。
遺伝性疾患の多くは、遺伝子に傷がついてしまって起こるので、それを修正することができれば疾患を直せるのではないか、というのが遺伝子治療である。
CRISPR/Cas9システムによる遺伝子編集を患者さんの体の中で起こし、間違ってしまっている遺伝子をもとに戻すのである。
しかしここで問題となるのが、Cas9、修正対象の遺伝子に連れていくガイドRNA、ゲノムへ挿入するDNAドナーをどうやって細胞まで効率的に届けるか?という点である。
古典的には、このように特定の物質を生体内に運搬するのにはウイルスが用いられてきたが、ウイルスは安全性の懸念が残り、また運搬量も限られる。ただでさえCRISPR/Cas9システムは非常に効率の高い編集技術ではない(Off target変異=目的でない遺伝子の変異が多い)にも関わらず、運搬法も効率的でないとなるとさらに編集効率が悪くなってしまう。
そこで登場した運搬法の1つがナノ粒子である。COVID-19ワクチンに利用されているのもナノ粒子である。
ナノ粒子に関してはいくつか過去記事があります。
上記のブログ記事から引用↓
物質を直径1-100ナノメートル(nm)の粒子にしたもの。化学・物理学・地質学・生物学など多くの分野に置ける研究対象。
出典:Wikipedia
近年、薬剤を体内に運ぶ方法としてナノ粒子を用いる方法が研究されている。
今回はCRISPR/Cas9システムとナノ粒子を組み合わせた遺伝子治療に関する文献を2つ紹介。
1.CRISPR/Cas9システムとナノ粒子を用いたデュシェンヌ型筋ジストロフィーの遺伝子治療
Lee, K., Conboy, M., Park, H.M. et al.
Nanoparticle delivery of Cas9 ribonucleoprotein and donor DNA in vivo induces homology-directed DNA repair.
Nat Biomed Eng 1, 889–901 (2017).
これは日本語解説ページがあるのでそれを引用。
CRISPR装置のウイルスによらない効率的な送達
Niren Murthyたちは、CRISPR要素を1つ1つの金ナノ粒子の周囲にまとめて保護ポリマーで覆うことができること、そしてそのナノ粒子がCRISPR要素をさまざまな種類の細胞へ効率的に送達することを明らかにした。また、相同組換え修復(DNA切断酵素Cas9が生じた二本鎖DNA切断を修復する最も正確な機構)によって遺伝子編集が行われること、そしてデュシェンヌ型筋ジストロフィー治療を行うマウスの筋組織のオフターゲット編集レベルが最小限であったことも示している。
出典:Nature Japan ”Nature Biomedical Engineering”
2.CRISPR/Cas9システムとナノ粒子を用いた高コレステロール血症の治療
Rothgangl T, Dennis MK, Lin PJC, et al.
In vivo adenine base editing of PCSK9 in macaques reduces LDL cholesterol levels.
Nat Biotechnol. 2021 May 19.
脂質ナノ粒子(Lipid nanoparticle=LNP)を用いて、LDLレセプター分解を促すPCSK9をノックアウトする。(LDLレセプターが分解されなくなり、LDLを多く吸収できるようになることによって高コレステロール血症が改善する。)
- マウス肝臓においてアデニン塩基編集を通してPCSK9を不活性化すると血中LDLが低下する。
- LNPを用いた送達の場合、Pcsk9 mRNAの上昇は24時間以内になくなる。(後世に残らない。)
- Off target変異率を調べてみると、AAV8(ウイルスベクター)の場合、導入後6週間ほどしてもある程度の割合のOff target変異あり。しかしLNPの場合は48時間後のOff target変異率は高いが17日後にはすでに検出できない程度まで低下。
- サルでの実験でも(上記まではマウスで実験)、Off target変異は少ない。
- ウイルスを用いない一過性のDeliveryベクターを用いた治療は臨床応用可能かもしれない。