こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

臨床

多発性骨髄腫に関するevidenceあれこれ

いろんな論文の詰め合わせ、備忘録的な意味合いが強いです。 日本人移植非適応新規多発性骨髄腫患者に対してD-VMPはBMPよりPFSとOSを延長させる。安全上の大きな問題はなし。(ALCYONE試験)【日本血液学会2020】 OS NR vs 43.9ヵ月 PFS NR vs 20.4ヵ月 D-VMP…

MGUSのマネージメント

MGUS(=monoclonal gammopathy of undetermined significance:MGUS) 意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症 今日の臨床サポートより 血中にM蛋白を認めるが少量で、高カルシウム血症、腎機能障害、貧血、骨病変といった形質細胞腫瘍に関連した臓器障害…

CLLに対するアカラブルチニブ

慢性リンパ性白血病(CLL)に対するアカラブルチニブ(商品名:カルケンス)の使用についての文献を3つ取り上げる。 まずアカラブルチニブの概要について。 BTK阻害薬の1つ。他のBTK阻害薬としてイブルチニブ、チラブルチニブなどがある。 B細胞受容体シグナル伝…

レナリドミドの皮疹

レナリドミドは多発性骨髄腫の主要な治療薬の1つ。骨髄異形成症候群やマントル細胞リンパ腫で使用される。 レナリドミド(LEN)の代表的有害事象の1つである皮疹(skin rash)について取り上げる。 皮疹はLEN使用者の最大1/3で見られる。(一般的に22~33%) Grade3…

CMLの治療をやめられるとき

慢性骨髄性白血病(CML)患者は以前は生涯TKI内服を継続しなければならなかたが、近年ではTKI治療中止が新たな目標となっている。 ※CML患者の平均余命は一般集団に近づいている。 Bower H, et al. Life Expectancy of Patients With Chronic Myeloid Leukemia …

再発難治性多発性骨髄腫に対するイサツキシマブ

イサツキシマブは、ダラツムマブの次に登場した抗CD38モノクローナル抗体製剤。 造血器悪性腫瘍の腫瘍細胞表面に高頻度に発現するヒトCD38抗原に結合することで、抗悪性腫瘍効果を発揮する。補体依存性細胞傷害(CDC)作用、抗体依存性細胞傷害(ADCC)作用…

AML治療の新しい鍵:ベネクレクスタを用いた治療について

近年頻繁に使われるようになったベネトクラクスを用いたAML治療に関するいろいろをメモ的に集約します。 ベネトクラクスとは BCL-2阻害薬。腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する。 BCL-2は通常は細胞内のミトコンドリアに存在しており、アポトーシス抑制作用が…

予後良好DLBCLの化学療法はR-CHOP4コースでOK

2022年より国内承認されびまん性大細胞性B細胞リンパ腫(DLBCL)の標準治療はR-CHOP療法からPola-R-CHP療法となった。当院でも基本的にDLBCLの方はPola-R-CHP6コース+R2コースで治療している。 しかしLow risk DLBCLの場合は、Pola-R-CHPの方が有意と言うわけ…

DLBCL患者のCNS再発予防

びまん性大細胞性リンパ腫(DLBCL)の中枢神経(CNS)再発は、全生存期間(OS)中央値が6か月未満と致死的な合併症。なので予防が大切。 El-Galaly TC, et al. Treatment strategies, outcomes and prognostic factors in 291 patients with secondary CNS involve…

How I treat CLL patients with ibrutinib

文献紹介。自分用の備忘録的な位置づけです。 BloodのHow I treat CLL patients with ibrutinibまとめです。 Introduction IbrutinibはCLL患者のあらゆるフェーズで有効な薬剤の1つ。 RESONATE試験では、4年間のフォローアップで途中中断患者は12%ほど。多…

未治療マントル細胞リンパ腫に対する治療はBRにイブルチニブを重ねると治療成績が向上する

Ibrutinib plus Bendamustine and Rituximab in Untreated Mantle-Cell Lymphoma 未治療マントル細胞リンパ腫に対するイブルチニブ+ベンダムスチン・リツキシマブ療法 Wang ML, Jurczak W, Jerkeman M, et al. Ibrutinib plus Bendamustine and Rituximab in…

【文献紹介】脳梗塞に対する血管内治療前のアルテプラーゼ静注の無作為化試験

南江堂から送られてくる"NEJM Contents News"の中から目に付いた記事の紹介。 以前、脳梗塞の血管内治療に関する発表をヨーロッパの学会で行ったので目にとまった。日本語アブストラクトを見ながらコメントしてみる。 脳梗塞に対する血管内治療前のアルテプ…

CAR-T療法とは~その3~

CAR-Tに関して勉強したことのメモ第3弾。 CAR-T療法の概要は以下の通り。 がん細胞はT細胞などの免疫細胞に攻撃されないように、抗原が細胞外に出ないように(あるいは低発現状態)なっている。 ※通常、体外から侵入してきた病原体などは樹状細胞などの抗原提…

ワクチン接種後6か月後の抗体反応

COVID-19ワクチンは接種後6か月後も有効? Thomas SJ, Moreira ED Jr, Kitchin N, et al. Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine through 6 Months. N Engl J Med. 2021 Nov 4;385(19):1761-1773. ワクチンの有害事象は少なく供応範囲…

【文献紹介】COVID-19への高容量DEXは有効?

NEJMニュースの中から目に付いた記事を。 Does a Higher Dose of Dexamethasone Improve Clinical Outcomes in Patients with Severe COVID-19? 酸素需要のあるCOVID-19患者に対するデキサメタゾン(DEX)の有効性は既に証明されており、定番治療と化している…

【文献紹介】T-細胞を適度に休息をとらせるとCAR-T治療の効果がアップする

勉強したことのメモ。 CAR-Tに関してはいくつか記事を書いてきた。 がん細胞はT細胞などの免疫細胞に攻撃されないように、抗原が細胞外に出ないように(あるいは低発現状態)なっている。 ※通常、体外から侵入してきた病原体などは樹状細胞などの抗原提示細胞…

CAR-T療法とは~その2~

勉強したことのメモ。CAR-Tに関する概要は昨日の記事の通り。 teicoplanin.hatenablog.com CAR-T療法とは がん細胞はT細胞などの免疫細胞に攻撃されないように、抗原が細胞外に出ないように(あるいは低発現状態)なっている。 ※通常、体外から侵入してきた病…

CAR-T療法とは

勉強したことのメモ。最近話題のがん治療法。 簡単に言うとがん患者さんの白血球にがん細胞と戦う能力を負荷して戦ってもらう治療。 がん細胞はT細胞などの免疫細胞に攻撃されないように、抗原が細胞外に出ないように(あるいは低発現状態)なっている。 ※通常…

DLBCLにおけるエピジェネティクス

読んでみた論文のメモ。 Oricchio E. Epigenetic balance in DLBCL. Blood. 2021 Aug 5;138(5):355-356. doi: 10.1182/blood.2021011647. PMID: 34351369. 本記事が掲載されているのと同じ号で、Hewardらが(ヒストン脱メチル化酵素)であるKDM5の阻害が、ヒス…

【文献紹介】クローン性造血と心不全の関連

Yu B, Roberts MB, Raffield LM, et al. Supplemental Association of Clonal Hematopoiesis With Incident Heart Failure. J Am Coll Cardiol. 2021 Jul 6;78(1):42-52. doi: 10.1016/j.jacc.2021.04.085. PMID: 34210413. clonal hematopoiesis of indeter…

軽症新型コロナウイルス感染症後の後遺症は若年者多く6か月後もみられる

南江堂から送られてくるNEJM Journal Watch COVID-19 Contents Newsの中から目に付いた記事をピックアップしてみます。 Blomberg, B., Mohn, K.GI., Brokstad, K.A. et al. Long COVID in a prospective cohort of home-isolated patients. Nat Med (2021). …

【文献紹介】急性感染後に血栓リスクは上昇する

NEJMの記事で目に付いたものをご紹介します。 だいぶ前のものですが… ORIGINAL ARTICLE Risk of Myocardial Infarction and Stroke after Acute Infection or Vaccination List of authors. Liam Smeeth, Ph.D., Sara L. Thomas, Ph.D., Andrew J. Hall, Ph.…

COVID-19に関する最近の論文あれこれ

南江堂から送られてくるNEJM Group発行の『NEJM Journal Watch』の中で目に付いた記事の紹介。 COVID-19ワクチンと有害事象との真の関連を明らかにするのは困難な可能性がある 元文献はこちら↓ Li X et al. Characterising the background incidence rates o…

失神で受診するPE

今回は臨床関連記事。調べたことのメモです。 失神にて入院した患者の17.3%でPEあり。 PE以外の失神説明原因を有していた患者に限定しも12.7%でPEあり。 ★PE患者に有意に多かった症状 ・呼吸数 > 20/min ・脈拍>100/min ・収縮期圧<110mmHg ・DVT 上記の中で…

【文献紹介】アデノシンデアミナーゼ欠損症に対する遺伝子治療

先天性疾患に対する遺伝子治療に関してはこれまでも何度か紹介してきました。今回はそれを利用した臨床試験がNEJMで紹介されていたので取り上げてみます。 取り扱う疾患はアデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症による重症複合免疫不全症(ADA-SCID)です。 ADAと…

後方循環系脳梗塞への血管内治療は有効か?

今日は臨床系の文献紹介です。簡単にいきます。 Endovascular Therapy for Stroke Due to Basilar-Artery Occlusion May 20, 2021N Engl J Med 2021; 384:1910-1920DOI: 10.1056/NEJMoa2030297 なぜこの文献が目に留まったかについて、脳卒中に対する血管内…

医学テータ統計解析に関するあれこれ Vo.2

医療統計に関する大学院講義のメモです。 大数の法則と中心極限定理 1.大数の法則 真値に収束する 大数の法則(たいすうのほうそく、英: Law of Large Numbers, LLN、仏: Loi des grands nombres[1])とは、確率論・統計学における基本定理の一つ。極限定理…

続・早産児の適切なSpO2目標は?~臨床試験の倫理的問題~

大学院講義で扱った論文のメモ。 以前こちらを投稿しました。 teicoplanin.hatenablog.com その続きみたいな感じです。関連文献紹介ですね。 まず、上記のもともとの文献を軽く振り返ります。 Abstract これまでの研究で、未熟児に高濃度酸素投与が行われる…

続・続・早産児の適切なSpO2目標は?~臨床試験の倫理的問題~

過去に書いた記事の補足 teicoplanin.hatenablog.com teicoplanin.hatenablog.com まずはStudyの概要振り返り。 以下は1本目の記事より引用。 Abstract これまでの研究で、未熟児に高濃度酸素投与が行われると未熟児網膜症が起きやすくなるとされてきたが、…

COVID-19ワクチンは変異ウイルスにも有効なの?

Cell誌のMost readの論文見てみました。 Garcia-Beltran WF, et al. Multiple SARS-CoV-2 variants escape neutralization by vaccine-induced humoral immunity. Cell. 2021 Mar 12:S0092-8674(21)00298-1. SARS-CoV-2ウイルスの変異体が各地で多数報告され…