こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

基礎

【文献紹介】ショウジョウバエ脳における免疫機構

以前、血液脳関門(BBB)に関する記事を書いた。 teicoplanin.hatenablog.com 細菌やウイルスやリンパ球は、後肢の重力刺激がかかる場所である第5腰椎の背側の血管から脳脊髄液内へ侵入するという内容。 今回もBBBに関する文献。 Winkler B, Funke D, Benmimou…

CD抗原

勉強したことのメモ。 主要な表面抗原まとめ。CD分類に関して。 CD1-10 だいたいT細胞表面に発現 CD11-19 だいたい単球、顆粒球、マクロファージなどに発現 ただしCD19はB細胞に発現→CAR-Tの標的として有名 CD20- B細胞を中心に単球・マクロファージなどに発…

新型コロナウイルス感染は老化細胞除去で治療可能か?

抄読会で扱った文献のメモ。COVID-19も老化細胞除去もいずれもタイムリーなテーマで面白かったです。 Camell CD, Yousefzadeh MJ, Zhu Y, et al. Senolytics reduce coronavirus-related mortality in old mice. Science. 2021 Jul 16;373(6552):eabe4832. S…

UM171はヒトHSC体外増殖に役立つ~後編~

前編こちら↓ teicoplanin.hatenablog.com 前回はIntroduction的内容だったので、今回は本文を紹介。 今回はCRISPR/Cas9を用いたノックアウトスクリーニング法を用いている。 1細胞あたり1遺伝子がノックアウトされるようなライブラリーをつくり各遺伝子の機…

【文献紹介】細菌やウイルスやT細胞はどうやって血液脳関門を通れる?

"SCIENCE ADVANCES"に掲載されていた"Brain inflammation triggers macrophage invasion across the blood-brain barrier in Drosophila during pupal stages"に興味を持ち、読んでみようと思ったが、その前に血液脳関門=BBBに関する文献をバックグラウンド…

【文献紹介】赤血球の免疫への関与

勉強したことのメモ。 今日のテーマは赤血球の免疫。 赤血球は哺乳類循環細胞の大部分を占めており、酸素を運搬するという重要な役割を担っている。しかし免疫には関与していないと考えられていた。 が、今回紹介する論文は赤血球が免疫に関与しているという…

【文献紹介】ナチュラルキラー細胞による腫瘍細胞休眠~後編~

前編はこちら↓ teicoplanin.hatenablog.com Nature日本語版Abstractによると、 がんの転移にNK細胞が大きく関与している。 原発巣ではなく転移巣の腫瘍細胞増殖に主に関与している。 一部がんでは腫瘍浸潤NK細胞が多い人ほど転移が少ない。 NK細胞機能低下や…

【文献紹介】ナチュラルキラー細胞による腫瘍細胞休眠~前編~

勉強したことのメモ。Natureダイジェストで目に付いた記事を紹介。 腫瘍細胞を休眠へといざなうナチュラルキラー細胞 腫瘍細胞を休眠へといざなうナチュラルキラー細胞 | Nature ダイジェスト | Nature Portfolio ナチュラルキラー細胞は、原発巣から他の場…

CIPE(Conditional Inducible Protein Expression)ベクター

勉強したことのメモ。 CIPE(Conditional Inducible Protein Expression)ベクター 哺乳類生体内におけるタンパク質機能を可逆的に調節する方法の1つ。 これは 哺乳類細胞で発現するとすぐに分解されるタンパク質であるヒトFKBP12タンパク質変異体=destabilizi…

293T細胞

久しぶりに293T細胞を起こし、ウイルス作製の準備です。 ラボが移ってから凍結保存環境が整っていなかったので、細胞培養ができなかったのです。ふと293T細胞について調べてみました。 293細胞はヒト胎児由来腎臓上皮細胞である。 遺伝子導入の効率の良い細…

【文献紹介】T-細胞を適度に休息をとらせるとCAR-T治療の効果がアップする

勉強したことのメモ。 CAR-Tに関してはいくつか記事を書いてきた。 がん細胞はT細胞などの免疫細胞に攻撃されないように、抗原が細胞外に出ないように(あるいは低発現状態)なっている。 ※通常、体外から侵入してきた病原体などは樹状細胞などの抗原提示細胞…

CAR-T療法とは~その2~

勉強したことのメモ。CAR-Tに関する概要は昨日の記事の通り。 teicoplanin.hatenablog.com CAR-T療法とは がん細胞はT細胞などの免疫細胞に攻撃されないように、抗原が細胞外に出ないように(あるいは低発現状態)なっている。 ※通常、体外から侵入してきた病…

CAR-T療法とは

勉強したことのメモ。最近話題のがん治療法。 簡単に言うとがん患者さんの白血球にがん細胞と戦う能力を負荷して戦ってもらう治療。 がん細胞はT細胞などの免疫細胞に攻撃されないように、抗原が細胞外に出ないように(あるいは低発現状態)なっている。 ※通常…

【文献紹介】VEGF補充で健康寿命延長?

過去の記事で取り上げた論文の詳細。 Grunewald M, Kumar S, Sharife H, et al. Counteracting age-related VEGF signaling insufficiency promotes healthy aging and extends life span. Science. 2021 Jul 30;373(6554):eabc8479. まずVEGFに関しては過去…

Bitransjenic mouse バイトランスジェニックマウス~その2~

Bitransjenic mouse バイトランスジェニックマウスに関して勉強した記事を書きました。 teicoplanin.hatenablog.com 今回はその続きで、Bi-transgenic mouseを応用した実験について紹介します。 こちらの論文で行われている方法です↓ Grunewald M, Kumar S, …

VEGF=血管内皮細胞増殖因子とは

調べたことのメモ。 VEGF=Vascular endothelial growth factor; 血管内皮細胞増殖因子 新しく血管を作ることに関与しているタンパク質。「血管を作る」には2種類あり。 血管がないところに新たに血管を作る=脈管形成 既存の血管から分枝伸長して血管を作る=…

EPCRと造血幹細胞

EPCRについて、勉強したことのメモです。 Endothelial protein C receptor (EPCR) 血管内皮細胞プロテインC受容体 プロテインCは肝臓で作られるタンパク質で、抗凝固作用を有しているが、そのままでは機能しない。 プロテインCは、トロンボモジュリンとトロ…

HSCの自己複製能維持に必要なもの

読んだ文献の紹介と勉強したことのメモ。 Kent DG, Copley MR, Benz C, Wöhrer S, Dykstra BJ, Ma E, Cheyne J, Zhao Y, Bowie MB, Zhao Y, Gasparetto M, Delaney A, Smith C, Marra M, Eaves CJ. Prospective isolation and molecular characterization of…

ウイルス作製後の濃縮は必要なのか?

レンチウイルスベクターの作製方法に関しては以前記事を書きました。 teicoplanin.hatenablog.com で、また最近ウイルスを作る機会があり、ふと思いました。 「作製したウイルスの濃縮っているのだろうか?」 これは単純に濃縮の時間がもったいないというか…

NF1とHSC

先日参加した学会で目にしたテーマをもとに勉強した内容。 NF1とは NF1遺伝子は神経線維腫症1型(NF1)の責任遺伝子。この遺伝子の産物であるNF1タンパク質(=ニューロフィブロミンneurofibromin)が、がん遺伝子産物Rasを不活化することでがんを抑制する効果が…

タンパク質の翻訳後修飾

勉強したことのメモ。 転写・翻訳しただけではタンパク質は完成しない。 その後も様々なプロセスを経てタンパク質は機能するようになる。 出典:タンパク質の翻訳後修飾 (SBO35) (昭和大学) このうち、タンパク質の化学構造を変化させる反応を翻訳後修飾と呼…

DLBCLにおけるエピジェネティクス

読んでみた論文のメモ。 Oricchio E. Epigenetic balance in DLBCL. Blood. 2021 Aug 5;138(5):355-356. doi: 10.1182/blood.2021011647. PMID: 34351369. 本記事が掲載されているのと同じ号で、Hewardらが(ヒストン脱メチル化酵素)であるKDM5の阻害が、ヒス…

TPOと幹細胞

勉強したことのメモ。 TPO=トロンボポエチンは造血幹細胞(HSC)の維持に必要な因子の1つ。 骨髄における巨核球の増加・成熟を促し、血小板数を増加させる。血小板特異的な増殖因子。 TPOをノックアウトしたマウスでは正常マウスの10~15%程度まで血小板が減…

ヒストン修飾が自閉症発症メカニズムに関与

エピジェネティクスの基礎的現象の1つであるヒストン修飾に関する記事を書きました。 teicoplanin.hatenablog.com なので、ヒストン修飾関連の記事を書いてみます。 日本の理研からの論文です。 Balan, S., Iwayama, Y., Ohnishi, T. et al. A loss-of-funct…

ヒストンとヒストン修飾

ヒストンとは 真核生物のクロマチン(染色体)を構成するタンパク質の1つ。 ヒストンは、一般的には、H1、H2A、H2B、H3、H4の5種類が存在します。真核生物の核の中では、DNAは4種類のコアヒストン(H2A、H2B、H3、H4)から成るヒストン8量体に巻き付いて、ヌク…

【文献紹介】COVID-19ワクチン接種後ブレイクスルー感染~イスラエルからの報告~

新型コロナウイルスワクチン接種後十分に抗体ができるのは2回目接種以降14日後とされている。しかしこの後に感染する例があり、ブレイクスルー感染と言われている。 ブレイクスルー感染に関する記事を1つ紹介。 ファイザー社と契約しワクチンデータ提供と引…

【文献紹介】CD63はマウスTGFβシグナル伝達サポートを開始HSC静止状態を維持する

勉強したことのメモ。出たばかりの論文です。HSCに関して。 Hu, M., Lu, Y., Wang, S. et al. CD63 acts as a functional marker in maintaining hematopoietic stem cell quiescence through supporting TGFβ signaling in mice. Cell Death Differ (2021).…

【文献紹介】新型コロナウイルスは眼から侵入する

新型コロナウイルスに関して。なんとなく目に付いた記事を紹介してみます。 新型コロナウイルスが目から感染するという話は既に周知されており、なので現勤務先病院でもアイシールドの着用が義務になりました。 コレです↓ 出典:南川整形外科病院ホームペー…

DNAメチル化とエピジェネティクス

勉強したこともメモ。 CpGによるシトシンメチル化は、哺乳類DNAの主要なエピジェネティックな就職の1つである。※DNAメチル化のほとんどはシトシン(C)で生じ、遺伝子発現を抑制する。CGという配列が集中して存在する領域(CpGアイランド)の70%−80%程度のシトシ…

Senolytic drug~GLS1阻害剤による老化細胞除去

2020年に日本人が発表したsenolytic drugを紹介していきます。 他の記事はこちら↓ Senolytic drug~BETファミリータンパク質阻害剤 - こりんの基礎医学研究日記 Senolytic drug~ペプチドワクチンによる老化細胞除去 - こりんの基礎医学研究日記 ***********…