"SCIENCE ADVANCES"に掲載されていた"Brain inflammation triggers macrophage invasion across the blood-brain barrier in Drosophila during pupal stages"に興味を持ち、読んでみようと思ったが、その前に血液脳関門=BBBに関する文献をバックグラウンド理解のために読んでみた。
大阪大学から発表され、Cell誌に掲載された論文である。
Arima Y, Harada M, Kamimura D, et al.
Regional neural activation defines a gateway for autoreactive T cells to cross the blood-brain barrier.
Cell. 2012 Feb 3;148(3):447-57.
まず血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)について。
脳の血管は内皮細胞同士が密着するように結合しており、この隙間を通ることができる物質のみが脳神経に到達できるしくみになっている。これを血液脳関門=BBBという。
例えば、免疫細胞や大きいタンパク質はこの関門を通ることができない。そして細菌などの病原体も通ることができない。
これにより血管内で起きていることが脳に直接影響しないようになっているわけである。
発見された当初は、血管内の物質が何でもかんでも脳神経に達しないように、あるいは脳内で産生された物質が血管内に流出しないように防ぐ役割があると考えられていたが(もちろんその役割もあるが)、現在では、必要な物質を適切に選別して脳神経に送り届ける、あるいは不要なものを脳神経から血管内に流すといった役割も主に担っていると考えられている。
こちらのサイト→
血液脳関門を通過できない物質 できる物質とは? | ネットdeカガク
によると
「脂溶性物質は、分子量が500 g/mol以下でlogPが2くらいで、水素結合数が10未満であるという条件付きで通過できます。」
とのこと。
分子量が小さく水溶性のアルコールは通過できる。機構はよくわかっていないもののニコチンも通過できるとのこと。
同じく、細菌などの病原体も通過できないはずだが、しかし脳炎や脳症に人がなるということはどこかから病原体が侵入していることになる。この「侵入ゲート」を世界で初めて突き止めたのが、この阪大が発表した論文ということになる。
ここから本文の内容。
- 筆者らはミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)を用いた実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルを利用した。
※EAEは多発性硬化症のモデルマウスとしてしばしば利用される。以下Wikipediaより。
マウスのEAE[編集]
脱髄はフロイントの完全アジュバントのようなアジュバントで乳化した、脳抽出液、中枢神経系抽出液(ミエリン塩基性タンパク質など)、もしくは上記抽出液由来のペプチドを接種することで起きる。アジュバントの存在により、これらのタンパク質、ペプチドに対する炎症反応が起きる。多くの実験方法では血液脳関門を破綻させ、免疫細胞を中枢神経系に侵入させるため、同時に百日咳毒素の接種が行われる。この接種により多発性、散在性の小脱髄領域が脳や脊髄に発生し、さらに一連の症状を呈するようになる。
今回の場合は、MOGペプチドをFreund'sアジュバントとともに接種、後に百日咳菌由来毒素(Pertussis Toxin)を注射した。
→MOGペプチドを攻撃する機能を持ったTh17細胞、Th1細胞ができる。
→正常マウスにTh17細胞、Th1細胞を静注する。
→脱髄疾患と同じ病態を呈する。
- 筆者らはT細胞移入した後、まだ疾患の発症していない移入5日後に移入したT細胞がどこにあるか調べるために脊髄や脳をスライスして観察。
→移入されたT細胞は第5腰椎の背側の血管から脊髄に入ることが分かった。 - その後の実験で、第5腰椎の背側の血管は定常状態でも多くのケモカインが発現しており、T細胞をはじめとした免疫細胞などの血管→中枢神経系の入り口となっていることが分かった。
- ではなぜ第5腰椎の背側の血管?
→ヒラメ筋からの感覚神経の神経節が第5腰椎の背側に位置することに着目
→ヒラメ筋は重力刺激を絶え間なく受けている。
重力刺激が原因となっている?
→マウスを天井からつるす後肢懸垂法を用い、後肢への重力刺激をなくしてみると…
→T細胞の第5腰椎の背側への集積はなくなりEAEも発症しない。
→代わりに第3腰椎や頸椎などの背側の血管においてケモカイン発現が見られるように。 - 重力による神経刺激がケモカイン誘導や門戸形成に寄与している!
- 筆者らはこの門戸を人為的に閉じたり、逆に開いたりするなどコントロールできるようになれば、感染やがん、多発性硬化症などの難病の治療に役立る可能性があるとしている。
※このたんぱく質そのものの機能は十分に分かっていないが、多発性硬化症の原因となっている(MOGに対する自己抗体ができることで多発性硬化症になる)可能性が指摘されている。 - MOGに対する自己反応性のTh17細胞とTh1細胞を正常マウスに静注する。