抄読会で扱った文献のメモ。COVID-19も老化細胞除去もいずれもタイムリーなテーマで面白かったです。
Camell CD, Yousefzadeh MJ, Zhu Y, et al.
Senolytics reduce coronavirus-related mortality in old mice.
Science. 2021 Jul 16;373(6552):eabe4832.
Senolyticsとは…老化細胞のアポトーシスを誘導する試薬
COVID-19の高齢者、基礎疾患保持者の死亡率を下げたい!
感染症治療に老化細胞選択的排除は有効か?を検証 (今回はマウスで実験)
加齢Agingに伴う老化細胞=Senescent cellの蓄積ががんや糖尿病、心疾患などの原因となる。
生体防御目的に、DNA損傷細胞のがん化抑制のため細胞増殖が不可逆的に停止した状態の細胞が老化細胞。ここでの老化は年齢や週齢で決まるわけではなく、p16, p21, p53の発現量で決まる。
この老化細胞がアポトーシスせず生体内に残ってしまうことでいろいろな問題が起こる。
特にこの老化細胞はさまざまな炎症性タンパク質を分泌するSASP=Senescence-Associated Secretory Phenotypeを起こすことによって、がんなどの慢性疾患発症を誘発すると考えられている。
→ではCOVID-19に関してもSASPは悪影響を及ぼしている?
→マウスに炎症性物質(LPS)を投与するとin vivoでもin vitroでもSASP関連遺伝子の発現が大きく増加
→老化細胞ではPAMPにより、もともと悪い働きをしているSASP分泌がさらに増加
感染症患者でのサイトカインストームの原因となっているかも?
またこれは炎症性物質投与だけでなくウイルス感染でも同じような反応が起きる。
→SASPが増加!
ではSASP増加は非老化細胞のウイルス感受性にも影響する?
→する!隣接細胞のウイルス防御遺伝子の発現が低下→ウイルス感受性が上がってしまう。
老化細胞はウイルス感染症の症状進行に関与しているのか?
→している!Specific-pathogen-freeマウスとペットショップマウス(様々な細菌・ウイルスを保持)とともに飼育すると加齢マウスはあっという間に死亡してしまう。若齢マウスはある程度生存。しかし老化マウスもあらかじめ非致死量ウイルス感染をさせるとその後ウイルス感染を起こしても生存可能。新規感染症に弱い。
→これは老化細胞のせいではないか?
→老化細胞を取り除く=アポトーシスを誘導する薬剤を投与すればこれを改善できる?
現在報告されているSenolytics...
ダサチニブ+ケルセチン、フィセチンなど
→今回はフィセチンを投与
若齢マウスでも高齢マウスでも、ウイルス量減少、延命効果、免疫能改善、老化細胞マーカー減少、SASP因子の抑制などが認められた。
薬剤投与によってではなく、遺伝子的操作によって老化細胞が除去できるようなモデルマウスを利用しても同様の結果が見られている。
(人工化合物であるAP20187の投与でP16INK4陽性の老化細胞のみアポトーシスを誘導できるモデルマウスを使用→やはりウイルス量の減少や延命効果、老化マーカー減少などが確認できた)
これは別のSenolitic regentでも同様の結果であり、さらにウイルス感染前でも感染後でもどちらでも有効。
※フィセチンの半減期は5時間未満→今回の実験では24時間ごとの投与であり、老化細胞を完全に除去できるわけではない。完全になくならなくとも老化細胞が減少するだけで、死亡率は大幅に減少する。
【個人的な疑問】
- 若い個体でも感染が起きれば炎症性サイトカインはでるはず。老化細胞が引き起こすSASPによって分泌される炎症性サイトカインとどう違うのか?
→SASPで分泌される炎症性サイトカインは量が違う(多すぎる)or種類が多い?サイトカインストームの原因に? - ウイルス感染による高齢個体の死亡率増加がもし過剰炎症やサイトカインストームによるものと考えるのは了解可能だが、Senoliticsによって過剰炎症を抑えた方がウイルス量が減少するのはなぜか?炎症が過分に起きている方がウイルス量は減少するが、逆にそれが行き過ぎてしまい生体に悪影響を及ぼしているわけではない?
- Figure3で示されている実験の意味は?高齢個体が感染に弱いこと、死亡率が高いこと、炎症性サイトカイン分泌量が多いことは分かり切っている。老化細胞マーカーが上昇していることも当然のこと。しかしこの両者が関連しているとは限らない(交絡因子がある可能性がある)。Figure3から老化細胞とSASPの存在がウイルス感染による死亡率上昇に寄与していることを示すのは困難と思われる。