以前、血液脳関門(BBB)に関する記事を書いた。
細菌やウイルスやリンパ球は、後肢の重力刺激がかかる場所である第5腰椎の背側の血管から脳脊髄液内へ侵入するという内容。
今回もBBBに関する文献。
Winkler B, Funke D, Benmimoun B, et al.
Brain inflammation triggers macrophage invasion across the blood-brain barrier in Drosophila during pupal stages.
Sci Adv. 2021 Oct 29;7(44):eabh0050.
Drosophila=ショウジョウバエについても何度も取り上げてきました。なぜかというと造血システムが脊椎動物とよく似ているからです。
過去記事より抜粋
Drosophila(ショウジョウバエ)における造血
- ショウジョウバエと脊椎動物の造血は多くの共通点があることが報告されている.
- ショウジョウバエの血球の種類は脊椎動物よりも限られているが,分化・造血の鍵となる伝達経路や転写因子は共通しており,5億5千万年にわたり保存されている.
- ショウジョウバエの造血を知ることは脊椎動物の造血の理解につながる.
Evans CJ, et al. Thicker than blood: conserved mechanisms in Drosophila and vertebrate hematopoiesis. Dev Cell. 2003 Nov;5(5):673-90.
Introductionの要点まとめ
- 中枢神経(CNS)は血液脳関門(BBB)によって循環系と分離されており、病原体による侵襲から守られている。
→CNSはimmune privilege=免疫特権を獲得した臓器
※補足:
免疫特権(immune privilege).全身の免疫系から隔絶されている,臓器内で自己制御されているなどの理由により免疫応答や炎症反応などが起こりにくい性質のこと.免疫特権があると臓器移植の際に拒絶反応が起こりにくいことから移植成功率が高いとされる.脳,眼(角膜),毛髪,精巣,母親の子宮内の胎児などに免疫特権があると考えられている.
出典:実験online
- このため脳は他とは違う特殊な免疫機構が発達
→ミクログリアクリアランス
ミクログリアが死んだ細胞などを貪食する作用を有している。
が、炎症時などに行き過ぎるとBBBを超えて循環系に悪影響を及ぼしたり脳にダメージを与えたりする。 - 細菌の細胞壁構成成分でありペプチドグリカンを、ショウジョウバエ体液中にあるペプチドグリカン認識タンパク質(peptidoglycan recognition protein=PGRP)が認識し、免疫応答が起こる。
Main
- まず筆者らは、PGRPをハエに過剰発現させ(汎グリア発現)、ハエ脳内にマクロファージが浸潤するか確認した。
PGRP-SA: マクロファージを脳に動員できない
PGRP-LC:マクロファージを脳に動員できるが強力過ぎてハエが死んでしまう
PGRP-LE: マクロファージを脳に動員できるがハエは死なない
→これを以降の実験に利用
↓
マクロファージはhemolymphで産生される。
- すべての免疫受容体(PGRP-LC、PGRP-LE、PGRP-SA)の汎グリア発現は、幼虫期にPvf2の発現を誘導する。特にPGRP-LEは最も効率的な誘導因子。
- Pvf2発現誘導を介してImd経路が活性化→CNSにマクロファージが浸潤する。
- マクロファージ侵入が脳の障害を引き起こす。
- GBSのCNS感染でも脳のマクロファージ侵入が起こる。
- Imd経路をコントロールすることで脳の障害を抑えられるかも?