勉強したことのメモ。
CAR-Tに関してはいくつか記事を書いてきた。
がん細胞はT細胞などの免疫細胞に攻撃されないように、抗原が細胞外に出ないように(あるいは低発現状態)なっている。
※通常、体外から侵入してきた病原体などは樹状細胞などの抗原提示細胞内に取り込まれ、異物であることを示す抗原提示が主要組織適合抗原(MHC)によって行われることでT細胞から攻撃を受け障害される。
抗原が提示されていなくてもがん細胞を攻撃できるようにT細胞を作り替える治療がCAR-T療法。
詳しくは過去の記事参照。
CAR-Tに関するScienceの文献を紹介。
Weber EW, Parker KR, Sotillo E, et al.
Transient rest restores functionality in exhausted CAR-T cells through epigenetic remodeling.
Science. 2021 Apr 2;372(6537):eaba1786.
CAR-T治療はハイグレードの難治・再発B細胞悪性腫瘍に対して高い効果を示すものの、50%に達しない程度の患者が長期の治療期間を要し、また固形がんに関しては再現性のある有効性を示せていない。
この一因として、T cell exhaustion=T細胞疲弊が挙げられる。これはCAR-Tシグナルの過剰反応によってもたらされる可能性がある。
本来CAR-T細胞は、腫瘍細胞(抗原)を認識したときのみ働くべきだが、それまでの研究で、CARシグナルは抗原非依存的に常に活性化した状態が続いており、これがT細胞疲弊につながっている可能性があることが分かっている。
→CARシグナルを一時的に休ませるような処理をしたら、CAR-T細胞の機能が回復するのでは?と筆者らは考えた。
このCARシグナルの一時的な休止にはDD融合タンパク質を用いた一時的に生体内タンパク質活性化させるシステムを利用している。これの詳細なシステムは下記参照。
簡単に説明すると、Shield-1が存在しているときにはDD+目的タンパク質は目的タンパク質がOnになり、非存在下ではOffになるというシステム。
このシステムを筆者らはCARに組み込んだ。すると
Shield-1存在時→CAR安定 機能する
Shield-1非存在時→CAR分解 機能せず
という状況が作り上げられる。またこのDDタンパク質システムの1つのメリットとして、Shield-1濃度依存的にタンパク質の発現レベルを制御することが可能となるという点が挙げられ、そのような傾向が今回のCARでも確認できた。
Shield-1濃度が上がるほど細胞表面のCAR発現量も上がっていることが分かる。
これを利用して実験してみたところ、最初Shield-1非存在状態で培養した後に存在状態で培養したCAR-T細胞が最も抗腫瘍効果が高かった。
次に別のCAR-T細胞を利用→HA.28ζ-CAR-T細胞でも実験
ずっとON vs 休憩あり(途中でShield-1除去)
↑休憩ありの方が疲れにくく記憶スコアもアップ。
(記憶スコアはどうやって測定しているだろうか…)
分化傾向をRNA-seqで解析してみるとShield-1の有無が分化傾向全体に変化を及ぼしているとのこと。
休ませているCAR-Tの方が抗腫瘍効果高い↑
さらなる実験で培養11-15日など4日間の休息が効果的であることがわかった。
また遺伝子解析によってCAR-T細胞休息がEZH2を介して疲労関連エピゲノムを再構築し、それによって機能的な再活性化を促進するということが分かった。
次にこの臨床応用について考える。筆者らは、CAR-Tに拮抗するものとしてSrcキナーゼ阻害剤ダサチニブを用いた。チロシンキナーゼ阻害薬であり、CAR-Tを可逆的に拮抗する作用があることが知られている。
↑ダサチニブを使い「休息」させたCAR-Tの方が抗腫瘍効果は高まる。
↑また連続して休ませるより、断続的に休ませた方が効果が高い。
結論 CAR-Tは時々休ませた方がパフォーマンスがアップする。
人間の仕事にも通じるような結果で面白い。