こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

DLBCLにおけるエピジェネティクス

読んでみた論文のメモ。

 

Oricchio E.

Epigenetic balance in DLBCL.

Blood. 2021 Aug 5;138(5):355-356.

doi: 10.1182/blood.2021011647. PMID: 34351369.

 

  • 本記事が掲載されているのと同じ号で、Hewardらが(ヒストン脱メチル化酵素)であるKDM5阻害が、ヒストンメチルトランスフェラーゼであるKMT2D活性の喪失による表現型の変化を部分的に修正できることを報告している。
  • ヒストンの翻訳語修飾は遺伝子発現の調節に必要不可欠。
  • 非ホジキンリンパ腫の発症に関与する遺伝子変異の中でも、このエピジェネティックな調節因子に関与する遺伝子の変異は最も頻繁に起きるものの1つ。
  • EZH2変異(平均して患者の10%から25%)のようなヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を高める機能獲得型変異と、KMT2D変異(最大70%)のような機能喪失型変異の2種がある。機能喪失型変異の方がより一般的である。
  • EZH2阻害は既に臨床試験段階に入っている。
  • これよりもがん抑制遺伝子であるKMT2D活性を取り戻す方がより難しい。
  • KMT2D→H3K4のメチル化維持に関与
    KDM5→H3K4の脱メチル化に関与
    KMT2D活性喪失を直接回復することができなくとも、KDM5タンパク質の薬理学的阻害がこの効果を打ち消し、KMT2D変異細胞でH3K4me3の機能レベルが回復することをHewardらは示した。→これによって腫瘍増殖が低下
  • 他の標的抗がん療法と比較して、エピジェネティック粗大薬は、ゲノム全体の細胞のエピジェネティックおよび転写状態を変化させる効果があるため、同時に複数の遺伝子発現に影響を与える可能性がある。
  • 例えばHewardらの論文でも、KDM5阻害剤による治療時にBCL2のダウンレギュレーションがみられるなど、間接的な効果が見られた。
  • 免疫療法など他の治療薬と組み合わせるとより効果的かもしれない。

 

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