過去の記事で取り上げた論文の詳細。
Grunewald M, Kumar S, Sharife H, et al.
Counteracting age-related VEGF signaling insufficiency promotes healthy aging and extends life span.
Science. 2021 Jul 30;373(6554):eabc8479.
まずVEGFに関しては過去にも記事を書いているので、Introductionとしてそれを引用する。
Wikipediaによると、
- 血管がないところに新たに血管をつくる(脈管形成)
- 既存の血管から分枝伸長して血管を形成する(血管新生)
…に関与するタンパク質。血管内皮細胞の分裂、遊走、分化を刺激することで血管形成や血管新生を誘導する。増殖因子であり、さらに強力な血管透過性亢進作用を持つ。 また、炎症性サイトカインとして炎症細胞の遊走や、神経保護に関与していると考えられている。
以下のものが"VEGFファミリー"に含まれる。
VEGF-A VEGF-B VEGF-C VEGF-D VEGF-E
PlGF(胎盤増殖因子 placental growth factor)-1 PlGF-2
VEGFというとVEGF-Aのことを指す時もある。
VEGFはなぜ重要? →様々な生理作用に関与しているから
がんにはもともと血管は備わっていないが、がん細胞自身がVFGFを分泌することによって血管を腫瘍までひっぱってくる。→これによって腫瘍細胞が成長する。
- 腫瘍細胞はVEGF受容体を発現し、オートクリンおよびパラクリンVEGFシグナルに反応する。
- 腫瘍細胞細胞におけるVEGFシグナル伝達を媒介するNRPやVEGFRTKを標的とする治療アプローチは、特にVEGF特異的抗体および他の治療法と組み合わせて使用した場合、腫瘍の退縮を促進し、腫瘍再発を抑える効果がある可能性がある。
Goel, H., Mercurio, A. VEGF targets the tumour cell. Nat Rev Cancer 13, 871–882 (2013). https://doi.org/10.1038/nrc3627. - VEGF-Aに対するヒト化抗体であるベバシズマブは、血管新生を抑制することで抗がん作用を示し、商品名アバスチンとして肺がんなどの治療に既に応用されている。
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ここからは本文の内容。
- 前ブログで紹介したTet-off&bi-trangenic mouseシステムを用い、VEGFマウスを作成。→肝臓からVEGF分泌され、循環VEGF量がWTの約2倍になる。
- 加齢に伴って虚血や血管損傷後の血管新生は明らかに障害されるものの、加齢に伴い血漿中のVEGF濃度はむしろ増加する傾向が見られる。(加齢に伴うVEGFシグナル伝達経路機能低下を代償するため)
→ではそれでも加齢により血管再生能が低下するのはなぜ?
→筆者らの実験の結果、VEGF受容体1に拮抗するsFlt1が加齢に伴って増加(=蓄積)していき、VEGF機能を阻害するからということが分かった。
(加齢に伴うVEGF受容体リン酸化レベルが低下してしまう)
※sFlt1は妊娠高血圧症で上昇することが報告されている。
(妊娠中にsFlt-1が多量に分泌されることで母体の血管新生が障害され高血圧に至る。) - VEGFマウスでは加齢に伴う以下の変化が軽減することが分かった。
・微小血管希薄化
・臓器灌流低下
・呼吸商低下(VEGFマウスでは呼吸商が高い=脂肪燃焼の割合が低い)
※高齢では炭水化物の酸化能力が低下するので通常老年期の
エネルギー産生の器質は脂質が中心となる
・内臓脂肪増加
・肝臓脂肪蓄積(脂肪肝化)とそれに伴う肝機能低下
・ミトコンドリア代謝低下
・筋肉および骨の老化 - 上記の結果、マウスの寿命も延長する。さらに生存曲線を見るとVEGFマウスの方がS字が急になる→健康寿命が延長しているのでは?
- VEGF拮抗薬が抗がん剤として用いられている→ということはVEGFマウスでは腫瘍が増えるのでは?
→マウスの実験では、Tumor free timeはVEGFマウスの方が延長するという結果に。
【まとめ】