先日参加した学会で目にしたテーマをもとに勉強した内容。
NF1とは
NF1遺伝子は神経線維腫症1型(NF1)の責任遺伝子。この遺伝子の産物であるNF1タンパク質(=ニューロフィブロミンneurofibromin)が、がん遺伝子産物Rasを不活化することでがんを抑制する効果があることが分かった。
(Ras不活化を促進するGTPase activatingprotein(GAP)活性をNF1タンパク質は有している。Rasの制御によって細胞増殖や細胞死が抑制される。)
→現在、NF1遺伝子はがん抑制遺伝子に分類されている。
※神経線維腫症1型でない胃がん患者にNF1変異が見つかったなどの報告あり。
※ちなみに神経線維腫症1型の患者はRasの恒常的な活性化のため、Ras/MAPK経路の活性化とPI3K/AKT経路の活性化を生じ、神経線維腫など多種の疾患を発症する。
NF1と血液疾患
Rasシグナル伝達経路はヒト白血病と関りがあり、例えば若年性慢性骨髄性白血病(JCML)などいくつかの血液悪性腫瘍患者でRas遺伝子変異が見られる。
Nf1変異マウスはこの疾患のモデルマウスとして用いられる。
NF1と造血幹細胞(HSC)
- JCML細胞やNf1-/-胎児の肝臓から単離された造血細胞は、低濃度の顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)を添加培養において、顆粒球-マクロファージ前駆細胞に由来する異常に多数のコロニーを選択的に形成する。
→GM-CSFに曝露された骨髄細胞のRas活性化をダウンレギュレートするためにニューロフィブロミンが必要であることを示唆している。 - Nf1ノックアウトマウスから単離したHSPC(造血前駆細胞)の増殖を評価→未成熟な細胞もある程度分化した細胞も大幅に増殖。
→Nf1は、Rasを介し、様々なサイトカインに応答して未成熟な、あるいはある程度分化し系統制限された細胞の増殖と生存において中心的な役割を担っていることが示唆される。
参考:
KAKEN — 研究課題をさがす | 癌抑制遺伝子としてのNF1遺伝子の解析 (KAKENHI-PROJECT-05770649)
NF1欠乏症は、RAS媒介顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子過敏性および慢性骨髄性白血病を引き起こす。 - Bibgraph(ビブグラフ)| PubMedを日本語で論文検索
Zhang YY, Vik TA, Ryder JW, Srour EF, Jacks T, Shannon K, Clapp DW. Nf1 regulates hematopoietic progenitor cell growth and ras signaling in response to multiple cytokines. J Exp Med. 1998 Jun 1;187(11):1893-902.