ヒストンとは
真核生物のクロマチン(染色体)を構成するタンパク質の1つ。
ヒストンは、一般的には、H1、H2A、H2B、H3、H4の5種類が存在します。真核生物の核の中では、DNAは4種類のコアヒストン(H2A、H2B、H3、H4)から成るヒストン8量体に巻き付いて、ヌクレオソームを形成しています。このDNAとヒストンの複合体であるヌクレオソームが連なった構造をクロマチンと呼びます。ヒストンH1は、コアヒストンとは異なり、ヌクレオソーム間のDNA(リンカーDNA)に結合するリンカーヒストンです。ヌクレオソーム構造およびクロマチンの高次構造の安定化への関与が知られています。
出典:MLBライフサイエンス「ヒストン修飾とは?」
上図の右側の青や黄色、緑で表されているのがヒストンであり、これにDNAが巻き付いたものがヌクレオソーム、ヌクレオソームが折りたたまれて作られているのがクロマチン(染色体)である。
ヒストンからはヒストンテールというひげ状のアミノ末端部分が出ている。
このヒストンテールは様々な修飾を受ける。
ヒストンは多くの翻訳後修飾可能な残基を持っており、特にヒストンテールのセリン、リジン、アルギニン残基などはリン酸化、アセチル化、メチル化、ユビキチン化といった化学修飾を受けることが知られている。
出典:ヒストン - 脳科学辞典
この様々な修飾によって、遺伝子発現をエピジェネティックに調節している。
例えば、ヒストンがアセチル化されたとする。
1.ヒストンアセチル基転移酵素によってアセチル基がヒストンテールに付加される。
2.ヒストンの正電荷が減少→ヒストンとDNAの間の電気的な相互作用が減少。
3.凝集していたヌクレオソーム構造が緩み、RNAポリメラーゼがプロモーター領域に結合しやすくなる→遺伝子発現ON
出典:MLBライフサイエンス「ヒストン修飾とは?」
出典:
Diagenode Japan Epi-blog
株式会社ダイアジェノード「エピジェネティクスとは?」
逆にヒストン脱アセチル化は、遺伝子発現を抑制する効果があり、 がんではがん抑制遺伝子がヒストン脱アセチル化によって発現が抑制されていると報告されている。
様々な修飾が様々な意味を持っている。
アセチル化:遺伝子発現促進
★アセチル化:ヒストンアセチルトランスフェラーゼ (HATs)
★脱アセチル化:ヒストン脱アセチル化酵素 (HDACs)
メチル化:遺伝子発現・抑制どちらにも働く
★メチル化:ヒストンメチルトランスフェラーゼ (HMTs)
★脱メチル化:ヒストン脱メチル化酵素 (HDMs)
例えば、Set1というヒストンメチル化酵素がヒストンH3の4番目のリジンをメチル化すると、遺伝子の発現が促進されます。一方、Suv39h1などのヒストンメチル化酵素によって9番目のリジンがメチル化されると、HP1と呼ばれるタンパク質が結合し、ヌクレオソームが凝縮し、ヘテロクロマチンの形成が促進されるため、転写が抑制されます。
出典:MLBライフサイエンス「ヒストン修飾とは?」
ヒストン修飾による転写制御の仕組みは複雑で、アセチル化はほぼ全て転写活性化に関与しますが、メチル化は修飾される位置やメチル化の個数(モノ・ジ・トリメチル化)によっても異なります。多様なヒストン修飾をコンパクトに表記するため、以下のような表記法が定められています。
出典:
Diagenode Japan Epi-blog
株式会社ダイアジェノード「エピジェネティクスとは?」
ヒストン修飾を利用したがんの治療薬
ヒストンメチル化酵素であるEZH1とEZH2(H3K27me3)が成人 T 細胞白血病リンパ腫、急性骨髄性白血病、多発性骨髄腫などの血液腫瘍発症に必須であることがこれまでの研究で明らかにされ、ヒストンメチル化酵素EZH1とEZH2の二重阻害薬が開発された。
この二重阻害薬であるvalemetostat(DS-3201b)は、私が前病院に勤務していたときに治験が行われていた。その結果が最近出たようであり、「成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)と末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)に良好な抗腫瘍効果を示すことがわかった」とのことでした。
出典: ATLのエピゲノム異常と 新規EZH1/2阻害薬の開発状況