レンチウイルスベクターの作製方法に関しては以前記事を書きました。
で、また最近ウイルスを作る機会があり、ふと思いました。
「作製したウイルスの濃縮っているのだろうか?」
これは単純に濃縮の時間がもったいないというか忙しくて取るのが難しいので湧いてきた疑問でした。
というのも超遠心機で濃縮すると2時間くらいはかかってしまうのです。
濃縮すると、少量の溶液で高濃度のウイルスが保存できるので、保存スペースの節約になりますし、ウイルス液を使う時も少量で済むわけですが、それ以外に濃縮しなければいけない理由などあるのか?と思い調べてみました。
1.濃縮するとタイター(力価)があがる。
これは納得できる話で、いろんな文献に「濃縮によってタイターを上げる」的なことが書かれています。ウイルス濃度?を濃くすれば、少量のウイルス溶液で感染効率があがるというのは当然です。なんですが、タイターが低くても、たくさんのウイルス液を使えばいいのでは?個人的には思ってしまいます。
2.遠心濃縮によって余計な成分を取り除く。
これは、以前紹介したレンチウイルス作製プロトコールを作成した三好浩之博士がレンチウイルスベクターQ&Aにて言及されていました。
Q9 超遠心以外でウイルスを濃縮する方法はないのか?
A9 Centricon Plus-70 Ultracel-PL 100,000 NMWL (Millipore)を使って濃縮(70ml→350μl)、あるいはAmicon Ultra-15 100,000 NMWL (Millipore)を使って濃縮(15ml→200μl)することができる。さらに、Microcon Ultracel YM-100 (Millipore)を使って濃縮すると最終50μlくらいまで濃縮できる。濃縮してボリュームが減るたびに上からウイルス液を追加すればいくらでも濃縮できるはずです。遠心を繰り返せば時間もかかりますし、これらのフィルターユニットは高額ですが・・・。また、この濃縮方法では培養液の成分(特にFBS)の持ち込みがあるので、その後の培養系に影響のありそうな時は、2、3回HBSSなどを足して遠心を繰り返してwashしたほうがよい。しかし、完全には培養液の成分を除けないので、注意が必要である。タカラバイオから発売されているLenti-X Concentratorでも約100倍に濃縮可能なようであるが、やはり高額であり、多少の培養液の成分の持ち込みを考慮する必要がある。
三好博士によると、まず超遠心で濃縮して、500μlのHBSSに懸濁した後、Microcon Ultracel YM-100を使って50μlくらいに濃縮しています。濃縮度を上げたいまたは培地成分を完全に除きたい場合には、超遠心を2回繰り返す方がよいと思われます。
つまり遠心濃縮しないと培養液成分が残ってしまい、ウイルスを感染させるときに、それが持ち込まれ、後の実験に影響を与えてしまう可能性があるということです。
ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum; FBS)やウシ血清アルブミン(Bovine Serum Albumin Fraction-V; BSA-FV)を培養系で用いることが、実験の再現性を損なっている原因ではないか?という点に関しては以前にも触れたことがあります。
上記記事より一部引用↓
・造血幹細胞培養実験における再現性の低さは、多くの実験室で使用されているにも関わらず、多数ある構成物質が十分に同定されていないウシ血清アルブミン(Bovine Serum Albumin Fraction-V; BSA-FV)の固体差(製造ロットの違い)が原因ではないか?
・異なる15種類の製造ロットのBSA-FVを用いてコロニーアッセイを実施。5種類でコロニー形成能低下が見られ、コロニー形成が見られ10種類のロットで培養した造血幹細胞を用いて移植を行うと生着率に大きな差が見られる。
・血清アルブミン以外に含まれている多くの微量タンパク質がこの違いに影響している可能性がある。
このように不確定成分が多いFBSは除いておいた方がよいということになります。
このためにもウイルスの遠心濃縮は役立っているようです。