こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】赤血球の免疫への関与

勉強したことのメモ。

 

今日のテーマは赤血球の免疫。

赤血球は哺乳類循環細胞の大部分を占めており、酸素を運搬するという重要な役割を担っている。しかし免疫には関与していないと考えられていた。

が、今回紹介する論文は赤血球が免疫に関与しているという内容。

 

まずToll-like receptor:TLRについて解説。

  • ショウジョウバエの正常な発生に必要な遺伝子として発見される。
  • その後、哺乳類の炎症や獲得免疫に関与していることが分かった。
  • 樹状細胞やマクロファージなどの自然免疫を担当する細胞にも、獲得免疫の中心であるT細胞にも発現している。
  • 例えば、獲得免疫を主に担うT細胞のに発現しているTLRの働きは以下の通りである。
    T細胞表面に発現しているTLR2が細胞壁成分を認識する
    →TLR2下流のシグナル伝達分子であるTIRAPの発現が誘導
    インターフェロン分泌を惹起するなど免疫応答や炎症が惹起される

参考:

Wikipedia「Toll様受容体」

病原体成分がT細胞を活性化するメカニズムを解明 | 理化学研究所

 

で、今回の論文は赤血球細胞表面にあるTLR9が炎症を促進するという内容。

 

Lam LKM, Murphy S, Kokkinaki D, et al.

DNA binding to TLR9 expressed by red blood cells promotes innate immune activation and anemia.

Sci Transl Med. 2021 Oct 20;13(616):eabj1008.

 

筆者らのチームは、この論文に先立って、炎症を誘発するCpGを含むDNAを赤血球が直接除去することができ、それにTLR9が関与していることを報告する論文を出しています。今回の文献は先行して発表された文献の発展形という感じでしょうか。

 

本文の内容は以下の通り。

  • 哺乳類の赤血球表面に発現しているTLR9は、細菌、マラリア原虫、ミトコンドリア由来のCpGを含むDNAを認識し結合する。
  • これによって赤血球貪食が促進され、インターフェロンシグナル伝達増加と自然免疫活性化が促進された。
  • TLR9を赤血球表面から欠失させると、赤血球貪食が起きなくなり、全身のサイトカイン産生も減少した。
  • COVID-19重症患者においてRBC結合ミトコンドリアDNAが上昇したとの報告あり。