こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】CD63はマウスTGFβシグナル伝達サポートを開始HSC静止状態を維持する

勉強したことのメモ。出たばかりの論文です。HSCに関して。

 

Hu, M., Lu, Y., Wang, S. et al. 

CD63 acts as a functional marker in maintaining hematopoietic stem cell quiescence through supporting TGFβ signaling in mice. 

Cell Death Differ (2021). https://doi.org/10.1038/s41418-021-00848-2.

 

  • 造血幹細胞(HSC)の細胞運命は様々な因子で決定づけられているが、HSCも不均一な集団であり、この細胞運命決定の根本的なメカニズムは分かっていない。
  • 今回、マウスHSCの新しい機能マーカーとしてテトラスパニンCD63を同定した。
  • HSCの中にもCD63を発現している集団としていない集団があり、CD63発現が高いHSC(CD63hi)は、CD63発現が陰性または低いHSC(CD63- / lo)よりも静止状態にあるものが多く自己複製および骨髄分化能が強化されていた。
  • CD63 KOマウスではHSC数が減少し、静止状態及び長期再増殖能が障害されていた。
  • さらなる研究でCD63がTGFβシグナル伝達経路活性を維持する役割を担っており、これを通してHSC静止を調節する上で重要な役割を果たすことをつきときめた。

 

  • scRNA-seq dataに基づいた細胞クラスタリングを用いて、新たな細胞表面マーカーを抽出→CD63とCD81が同定され、CD81の方は既にその役割が議論されていたため、今回はCD63に注目した。
  • CD63発現は、MPPなど分化した細胞よりLT-HSCに多い。またLSK分画内でもCD63+分画の方がLT-HSCは濃縮率高い。
  • CD63+LT-HSCの方がG0期にある細胞が多くBrdUも高い→LSK分画内でもCD63+細胞は静止期にある細胞が多い。
  • 移植実験をしてみるとCD63+HSCの方が再構築能が高い。
  • RNAシークエンスをしてみると
    CD63hiLT-HSC…静止・HSC signatureに関する遺伝子が濃縮
    CD63low/-HSC…HSC増殖、細胞周期、DNA重複遺伝子セット関連遺伝子が濃縮
  • CD63を用いて強力な自己複製能をもつHSCを識別できる。
  • CD63をKOするとHSCの数が減少(MPPはあまり減少しない)
  • CD63をKOするとG0期にある細胞が減少し、 BrdU取り込みが増加やHSCの枯渇が弥泊なるなど、静止期にあるHSCが減少する徴候が見られた。
  • CD63 KO HSCを移植してみると長期再構築能が低下
  • CD63 KOによってTGFβシグナル伝達が阻害される。
    ※TGFβシグナル伝達はHSC静止期維持に必須。
    ★NA-seqデータ分析を見るとCD63の発現がHSCのTGFβシグナル伝達活性と相関。
    ★CD63 KOによってSmad2/3リン酸化はHSCで有意に減少。
    ★CD63 KOにてTGFβシグナル伝達の直接標的遺伝子であるP57レベルが減少。
    HSCでTGFβシグナル伝達を維持するためにCD63が必要である可能性を示唆。
    ※Smad2/3はTGF-βシグナル伝達系における主要な転写因子。様々な補因子と結合することにより、多種多様な遺伝子発現の制御する。