こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

CAR-T療法とは~その2~

勉強したことのメモ。CAR-Tに関する概要は昨日の記事の通り。

teicoplanin.hatenablog.com

CAR-T療法とは

がん細胞はT細胞などの免疫細胞に攻撃されないように、抗原が細胞外に出ないように(あるいは低発現状態)なっている。

※通常、体外から侵入してきた病原体などは樹状細胞などの抗原提示細胞内に取り込まれ、異物であることを示す抗原提示が主要組織適合抗原(MHC)によって行われることでT細胞から攻撃を受け障害される。

抗原が提示されていなくてもがん細胞を攻撃できるようにT細胞を作り替える治療がCAR-T療法。

 

今回はCAR-Tに関する追加の情報をいくつか紹介。

 

 

現在、臨床的に最も成功をおさめており、中心的に用いられているのがCD19を標的としたCAR-T療法。

CD19はB細胞の発生を通じて発現するB細胞特異的表面タンパク質であるため、ほとんどのB細胞悪性腫瘍に存在し、CAR-T細胞療法の適切な標的となりえるからである。

 

CD19陽性のがんとしては、

 B細胞急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)、B細胞慢性リンパ性白血病(B-CLL)、B細胞非ホジキンリンパ腫(B- NHL)

などがあげられる。

 

臨床試験成績

これまで報告されている臨床試験結果としては、主に以下のようなものがある。

CAR-T療法成績は?

  • ELIANA trial: Tisagenlecleucel in Children and Young Adults with B-Cell Lymphoblastic Leukemia
    B-ALLに対するCAR-T療法 第2相試験
    →再発または難治性B-ALLの小児および若年成人に対して長期に高い寛解率を維6
    寛解率維持率:6ヵ⽉で80% 12ヵ⽉で59%
  • JULIET trial: Tisagenlecleucel in Adult Relapsed or Refractory Diffuse Large B-Cell Lymphoma
    成人DLBCLに対するCAR-T療法 第2相試験
    →高い持続奏効率を達成
    40%が完全奏効 12%が部分奏効
    奏功維持率:6ヵ⽉で68% 12ヵ⽉で65%

この2つの臨床試験結果をもって日本や多くの国で承認されるにいたっている。どちらもシングルアームの第2相試験である。

 

最近の臨床研究も紹介する。

ノバルティスファーマ社発表のアグレッシブB細胞性非ホジキンリンパ腫を対象としたBELINDA第III相臨床試験結果は以下の通り。

一次治療後の再発または一次治療で効果不十分であった患者を対象に実施。

BELINDA試験では、標準治療(以下、SOC)と比較して、主要評価項目である無イベント生存期間の延長は達成されませんでした。SOCは、救援化学療法と、奏効した患者ではそれに続く自家造血幹細胞移植併用大量化学療法です。

出典:

ノバルティス、アグレッシブB細胞性非ホジキンリンパ腫の二次治療として「キムリア®」を検証したBELINDA試験結果速報を発表 | ノバルティス | Novartis Japan

昨日のブログ記事に示したように、難治・再発DLBCL患者の約2/3程度に効果が認められ、従来の方法と比較しても有望な治療ではありそうだが、他のがん種でも有効かどうかはもう少し検討が必要かもしれない。

 

Off tumor毒性

また、昨日紹介しなかったCAR-Tの有害事象として、CAR-T細胞ががん細胞ではなく正常組織を誤って認識し攻撃してしまうOff tumor毒性というものもある。

 

通常、こういった薬剤の有害事象の検証にはマウスなどの動物がしばしば用いられるが、CAR-T細胞が標的とするたんぱく質構造はヒトとマウスなどのげっ歯類で大きく異なっているため、上記のような有害事象を検証する実験をマウスを用いてこなうことができず、新規CAR-T細胞を開発する際の障壁となっていた。しかし日本からカニクイザルを用いて安全性評価を行うモデルが報告され、これに関してももう少し研究が進むかもしれない。

 

www.amed.go.jp

 

B細胞腫瘍以外に対するCAR-T

今あるCAR-T細胞療法のほとんどはB細胞悪性腫瘍が標的となっている。しかしAMLなど他の血液疾患の治療に応用する研究も進めらている。

AML芽球の多くにCD33、CD123が発現しており、これをターゲットとしたCAR-T療法の開発にドイツの製薬企業などが取り組んでいる。

 

その他にも多発性骨髄腫や固形がんに対するCARの研究開発も少しずつ進めらている。