こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

AGM領域

AGM(aorta-gonad-mesonephros)とは AGM領域 大動脈、生殖巣、中腎が発生する胚領域。中腎とは前腎の後方にできる腎臓であり、発生過程で退化して後腎にとってかわられる。 マウスでは胎生期中期に存在する。 胚性期の造血は2つの段階がある。 ①一次造血:卵…

胚性造血

以下のReviewの内容を少しずつ紹介していくシリーズ。 Review Published: 18 June 2013 Hematopoietic cell differentiation from embryonic and induced pluripotent stem cells Wai Feng Lim, Tomoko Inoue-Yokoo, Keai Sinn Tan, Mei I Lai & Daisuke Sug…

【文献紹介】新分野を拓いた論文:ワトソン&クリック「DNAは二重らせん」

ちょい時代遅れだが2020年1月に、「新分野を拓いたNature 論文10選」というのがNature誌で紹介された。そこで紹介されていた、死ぬほど有名なワトソンとクリックのDNA二重らせんの論文を興味本位で流し読みしてみた。 Published: 25 April 1953 Molecular St…

UM171はヒトHSC体外増殖に役立つ~後編~

前編こちら↓ teicoplanin.hatenablog.com 前回はIntroduction的内容だったので、今回は本文を紹介。 今回はCRISPR/Cas9を用いたノックアウトスクリーニング法を用いている。 1細胞あたり1遺伝子がノックアウトされるようなライブラリーをつくり各遺伝子の機…

UM171はヒトHSC体外増殖に役立つ~前編~

読んでみた論文のまとめ。UM171に関するものです。 今回はIntroductionメインです。 UM171に関しては以前も取り上げました。 造血幹細胞(HSC)の体外培養に必要な因子の1つであり、HSC自己複製アゴニストとして知られている。 最初の報告は2014年にFares et a…

Hsf1

勉強したことのメモ。 Hsf1について。 熱などのストレス条件下に晒されると、細胞内では、分子シャペロンとして機能する熱ショックタンパク質の発現が促され、タンパク質の折り畳みを制御することで、タンパク質の恒常性を維持しようとする機構が働きます。…

Folskolin フォルスコリン

調べたことのメモ。 ウイルス作製に使うフォルスコリンのことが気になったので調べてみた。 フォルスコリン(英: Forskolin)は、インド原産の植物であるコレウス・フォルスコリにより産生されるラブダンジテルペンである。ホルスコリンあるいはコレオノール…

【文献紹介】細菌やウイルスやT細胞はどうやって血液脳関門を通れる?

"SCIENCE ADVANCES"に掲載されていた"Brain inflammation triggers macrophage invasion across the blood-brain barrier in Drosophila during pupal stages"に興味を持ち、読んでみようと思ったが、その前に血液脳関門=BBBに関する文献をバックグラウンド…

うがいのエビデンス

勉強したことのメモです。 うがいもエビデンスるよという話。 うがい週間のある国は実はとても少なく、ほぼ日本だけ。その日本から出た論文。 うがいをしたグループの方がしないグループより風邪にかかる割合が36%減ったと報告。 不思議なことにポピドンヨ…

【文献紹介】赤血球の免疫への関与

勉強したことのメモ。 今日のテーマは赤血球の免疫。 赤血球は哺乳類循環細胞の大部分を占めており、酸素を運搬するという重要な役割を担っている。しかし免疫には関与していないと考えられていた。 が、今回紹介する論文は赤血球が免疫に関与しているという…

【文献紹介】ナチュラルキラー細胞による腫瘍細胞休眠~後編~

前編はこちら↓ teicoplanin.hatenablog.com Nature日本語版Abstractによると、 がんの転移にNK細胞が大きく関与している。 原発巣ではなく転移巣の腫瘍細胞増殖に主に関与している。 一部がんでは腫瘍浸潤NK細胞が多い人ほど転移が少ない。 NK細胞機能低下や…

超遠心機の使い方

自分用の備忘録です。 超遠心機 超遠心機(ちょうえんしんき、英: ultracentrifuge)は超高速回転に最適化された遠心分離機であり、1,000,000 G(約 9,800 km/s2)もの加速度を生み出すことができる[1]。超遠心機には分離用(preparative)と分析用(analyti…

【文献紹介】ナチュラルキラー細胞による腫瘍細胞休眠~前編~

勉強したことのメモ。Natureダイジェストで目に付いた記事を紹介。 腫瘍細胞を休眠へといざなうナチュラルキラー細胞 腫瘍細胞を休眠へといざなうナチュラルキラー細胞 | Nature ダイジェスト | Nature Portfolio ナチュラルキラー細胞は、原発巣から他の場…

CIPE(Conditional Inducible Protein Expression)ベクター

勉強したことのメモ。 CIPE(Conditional Inducible Protein Expression)ベクター 哺乳類生体内におけるタンパク質機能を可逆的に調節する方法の1つ。 これは 哺乳類細胞で発現するとすぐに分解されるタンパク質であるヒトFKBP12タンパク質変異体=destabilizi…

293T細胞

久しぶりに293T細胞を起こし、ウイルス作製の準備です。 ラボが移ってから凍結保存環境が整っていなかったので、細胞培養ができなかったのです。ふと293T細胞について調べてみました。 293細胞はヒト胎児由来腎臓上皮細胞である。 遺伝子導入の効率の良い細…

【文献紹介】T-細胞を適度に休息をとらせるとCAR-T治療の効果がアップする

勉強したことのメモ。 CAR-Tに関してはいくつか記事を書いてきた。 がん細胞はT細胞などの免疫細胞に攻撃されないように、抗原が細胞外に出ないように(あるいは低発現状態)なっている。 ※通常、体外から侵入してきた病原体などは樹状細胞などの抗原提示細胞…

CAR-T療法とは~その2~

勉強したことのメモ。CAR-Tに関する概要は昨日の記事の通り。 teicoplanin.hatenablog.com CAR-T療法とは がん細胞はT細胞などの免疫細胞に攻撃されないように、抗原が細胞外に出ないように(あるいは低発現状態)なっている。 ※通常、体外から侵入してきた病…

CAR-T療法とは

勉強したことのメモ。最近話題のがん治療法。 簡単に言うとがん患者さんの白血球にがん細胞と戦う能力を負荷して戦ってもらう治療。 がん細胞はT細胞などの免疫細胞に攻撃されないように、抗原が細胞外に出ないように(あるいは低発現状態)なっている。 ※通常…

【文献紹介】VEGF補充で健康寿命延長?

過去の記事で取り上げた論文の詳細。 Grunewald M, Kumar S, Sharife H, et al. Counteracting age-related VEGF signaling insufficiency promotes healthy aging and extends life span. Science. 2021 Jul 30;373(6554):eabc8479. まずVEGFに関しては過去…

モーラム(Mor lam)とケーン(Khene)

急にいつもと全然違う記事。 タイの大学とサマーコースで交流する機会があり、調べてみて少し面白かったので記録してみます。 グループ発表があったのですが、メンバーの1人であるタイの学生がIsan地方(タイ北東部)出身であり、その地域の伝統音楽であるMor …

Rotarod test

勉強したことのメモ。 マウスの運動機能を測定する方法の1つ。 www.youtube.com 上記のようにして歯車から落ちるまでの時間を計測し、マウスの運動機能を調べるテスト。

Bitransjenic mouse バイトランスジェニックマウス~その2~

Bitransjenic mouse バイトランスジェニックマウスに関して勉強した記事を書きました。 teicoplanin.hatenablog.com 今回はその続きで、Bi-transgenic mouseを応用した実験について紹介します。 こちらの論文で行われている方法です↓ Grunewald M, Kumar S, …

Bitransjenic mouse バイトランスジェニックマウスとは

勉強したことのメモ。 まずトランスジェニックマウスとは… 外部から特定の遺伝子を人為的に導入した動物。脳科学研究においては、主に以下の目的のために用いられる。 特定の遺伝子の破壊や過剰発現により、その遺伝子の機能を調べる。 特定のニューロンに機…

Tet-on/offシステム

勉強したことのメモ。 Tet-on/offシステム Tet-on/offシステムとは抗生物質テトラサイクリン誘導体であるドキシサイクリンを投与することで細胞あるいは動物個体において可逆的に目的遺伝子の発現を調節できる実験系である。このシステムは大腸菌テトラサイ…

VEGF=血管内皮細胞増殖因子とは

調べたことのメモ。 VEGF=Vascular endothelial growth factor; 血管内皮細胞増殖因子 新しく血管を作ることに関与しているタンパク質。「血管を作る」には2種類あり。 血管がないところに新たに血管を作る=脈管形成 既存の血管から分枝伸長して血管を作る=…

【文献紹介】COVID-19患者に対する免疫チェックポイント阻害薬

免疫チェックポイント阻害薬はCOVID-19に有効か?という文献。 現在の免疫チェックポイント阻害薬 出典:AnswersNews 今回はステージⅢ~Ⅳの悪性黒色腫の患者292人を対象として行った。 患者は免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を使っている患者も使っていない…

EPCRと造血幹細胞

EPCRについて、勉強したことのメモです。 Endothelial protein C receptor (EPCR) 血管内皮細胞プロテインC受容体 プロテインCは肝臓で作られるタンパク質で、抗凝固作用を有しているが、そのままでは機能しない。 プロテインCは、トロンボモジュリンとトロ…

HSCの自己複製能維持に必要なもの

読んだ文献の紹介と勉強したことのメモ。 Kent DG, Copley MR, Benz C, Wöhrer S, Dykstra BJ, Ma E, Cheyne J, Zhao Y, Bowie MB, Zhao Y, Gasparetto M, Delaney A, Smith C, Marra M, Eaves CJ. Prospective isolation and molecular characterization of…

ウイルス作製後の濃縮は必要なのか?

レンチウイルスベクターの作製方法に関しては以前記事を書きました。 teicoplanin.hatenablog.com で、また最近ウイルスを作る機会があり、ふと思いました。 「作製したウイルスの濃縮っているのだろうか?」 これは単純に濃縮の時間がもったいないというか…

NF1とHSC

先日参加した学会で目にしたテーマをもとに勉強した内容。 NF1とは NF1遺伝子は神経線維腫症1型(NF1)の責任遺伝子。この遺伝子の産物であるNF1タンパク質(=ニューロフィブロミンneurofibromin)が、がん遺伝子産物Rasを不活化することでがんを抑制する効果が…