こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

Bitransjenic mouse バイトランスジェニックマウスとは

勉強したことのメモ。

 

まずトランスジェニックマウスとは…

外部から特定の遺伝子を人為的に導入した動物。脳科学研究においては、主に以下の目的のために用いられる。

  1. 特定の遺伝子の破壊や過剰発現により、その遺伝子の機能を調べる。
  2. 特定のニューロン機能プローブ蛍光タンパク質蛍光カルシウムセンサーシナプス放出抑制因子など)を発現させて、そのニューロンの形態や活動パターン、生理的機能などを調べる。
  3. ヒトの遺伝性疾患と同じ突然変異の導入などにより、疾患モデルを確立する。

 外来遺伝子をゲノム上のランダムな位置に挿入する場合と、ゲノム上の特定の部分に挿入する場合(標的遺伝子組換え;gene targeting)がある。後者は、特定の遺伝子を破壊するノックアウトの際に特に有用な技法となる。

出典:脳科学辞典

「トランスジェニック」は「遺伝子組み換え」と同義。

実験ではよくトランスジェニックマウスが使われる。

 

バイトランスジェニックとは、2つのトランスジーン(改変された遺伝子)を持つということ。

 

3つのトランスジーンを持つと、トラトランスジェニックマウスと呼ばれる。

 

乳がんの文献でよく取り上げられるので紹介する。

 

乳がんの発症には多くの遺伝子変異が関与していることが分かっている。

代表的なものはp53だが、他の遺伝子変異がこれに重なることでより乳がん発症が起きやすくなるとされている。

※ヒトがんで最もよく変異しているのはp53コドンのうちの次の2つ: Trp53R172HおよびTrp53R270H

(Nature asia. 「腫瘍抑制因子スーパーモデル」)

ここで、172 R-H(WAP-p53 172 R-H)変異マウスと次の3パターンの変異マウスを掛け合わせてバイトランスジェニックマウスを作り、乳がん発生率を見ることを考える。

WAP=乳清酸性タンパク質

 

MMTV-neu (erb-B2) 過剰発現マウス

(=MMTV遺伝子プロモーター制御下にHER2遺伝子を過剰発現させて乳がんモデルマウス)

 …単一遺伝子変異より腫瘍潜伏期間が減少

WAP-des-IGF-1過剰発現マウス(=WAPプロモーター駆動性IGF-1 des導入遺伝子)

 …単一遺伝子変異より腫瘍潜伏期間が減少

WAP-TGF-α 過剰発現マウス(=WAPプロモーター駆動性IGF-1 des導入遺伝子)

※WAPプロモーター制御下でTGF-αを過剰発現

 …TGF-αのみの変異の場合とほぼ同等

 

2種類以上の遺伝子、例えばp53とNeu/ErbB2が協働して乳がんが発生することが分かる。

Murphy, K., Rosen, J. Mutant p53 and genomic instability in a transgenic mouse model of breast cancer. Oncogene 19, 1045–1051 (2000). https://doi.org/10.1038/sj.onc.1203274.

Li B, Rosen JM, McMenamin-Balano J, Muller WJ, Perkins AS. neu/ERBB2 cooperates with p53-172H during mammary tumorigenesis in transgenic mice. Mol Cell Biol. 1997 Jun;17(6):3155-63.