ちょい時代遅れだが2020年1月に、「新分野を拓いたNature 論文10選」というのがNature誌で紹介された。そこで紹介されていた、死ぬほど有名なワトソンとクリックのDNA二重らせんの論文を興味本位で流し読みしてみた。
Molecular Structure of Nucleic Acids: A Structure for Deoxyribose Nucleic Acid
Nature 171, 737–738 (1953)
A4 1枚、引用文献はわずか6個だけという驚きのシンプル論文。
このときまだ25歳という若さ。
まず同じく1953年に先行してNature誌に掲載されたポーリングらの論文にて3重鎖構造の可能性が示唆されていた。これに対しワトソンらは、ポーリングらの提案だと軸の近くの負に帯電したリン酸塩が互いに反発してしまうために構造を保ち続けるのが難しいのでは、また一部のファンデルワールス距離が短すぎると矛盾点を指摘していました。
そして二重らせん構造だとすると上記の点も解決すると論じています。
で、結合できる化学的に結合可能な塩基ペアを提示するなどしています。
論文を読むとわかるのですが、化学的に矛盾しない論理を展開してはいるのものの、ずっと推論にすぎず実験的に確認しているわけではないのです。他の資料や論文などを見てみると、彼らは
最初にいろんなデータから二重らせん構造が適切ではないかと予想
→ロザリンド・フランクリンが撮影したX線回折像を見る
→画像を見るとやはり二重らせんぽい
→さらにその理論を強化し論文か
という流れなので最終的には全部つじつまが合うのですが、ワトソンらの論文だけではただの「提案」というか「推測」だと言われても仕方ない感じです。
二重らせん構造を裏付けているのは、フランクリンらの撮影したX線回折写真であり、彼らの論文はNatureの同じ号、このワトソンらの論文の次に掲載されています。昔の画像で見づらいですが、たしかにらせんぽい感じはみえます。フランクリンはこれだけではDNAは二重らせんだとは結論付けられず、『DNAは2、3あるいは4本の鎖からなるらせん構造をとっているだろう』とレポートに残しているとWikipediaにあります。
つまりフランクリンや他の研究者らが集めたデータを、全部つじつまが合うように統合し、二重らせんという構造を提案したのがワトソンらということらしい。
それはそれで確かに功績は大きいかもしれないがなんとなくもやっとした気分ではある。