こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

Hsf1

勉強したことのメモ。

 

Hsf1について。

 

熱などのストレス条件下に晒されると、細胞内では、分子シャペロンとして機能する熱ショックタンパク質の発現が促され、タンパク質の折り畳みを制御することで、タンパク質の恒常性を維持しようとする機構が働きます。これを熱ショック応答と呼び、酵母からヒトまで広く生物界に保存されていることが知られています。HSF1(heat shock transcription factor 1)は熱ショックタンパク質の発現を制御する転写因子として同定されました。HSF1の特筆すべき点は、熱ショック応答を誘導するだけでなく、他の遺伝子発現も制御し、非ストレス存在下において、発生、代謝、老化、老化と関連する神経変性疾患、がんなど、様々な生命現象に関与していることです。

出典:

熱ストレス応答だけでない、様々な場面で機能する転写因子 Heat shock transcription factor 1 (HSF1) | -実験動物開発室- (RIKEN BRC)

 

 

細胞はまた、タンパク質の変性に対処するためのタンパク質毒性ストレス応答機構を備えている。その中でも生物に普遍的に保存された仕組みが熱ショック応答(HSR、heat shock response)であり、シャペロンとして働く熱ショックタンパク質HSP)の誘導を特徴とする。HSR は進化上古い転写因子である熱ショック転写因子(HSF)によって制御される[3]。哺乳動物細胞では、HSF ファミリーの中で HSF1 が HSR の主要な調節因子である。通常、HSF1は活性のない単量体として存在し、熱ストレスによりDNA 結合能と転写活性化能のある活性型の三量体へと転換してHSP を誘導する。しかし、非ストレス条件下であってもHSF1 は発生や老化の過程で重要な役割を担っており、その機能は老化と関連する神経変性疾患の進行を抑制する[4]。一方で、HSF1 はがん細胞で活性化され、少なくとも細胞毒性のある凝集体とアミロイドの形成を抑制することでがんの進展を促進する[5]。実際に、通常状態でわずかに存在する三量体の HSF1 は、ヒストンシャペロンを含む複合体を形成してクロマチンへ安定に結合する[6]。最近の全ゲノム解析からも、HSF1 が数百にも及ぶ領域へ構成的に結合していることが分ってきた。

 

出典:上原記念生命科学財団研究報告集, 32 (2018)「54. HSF1 による DNA の恒常性維持機構の解明」