こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

Tet-on/offシステム

勉強したことのメモ。

 

Tet-on/offシステム

 Tet-on/offシステムとは抗生物質テトラサイクリン誘導体であるドキシサイクリンを投与することで細胞あるいは動物個体において可逆的に目的遺伝子の発現を調節できる実験系である。このシステムは大腸菌テトラサイクリン耐性オペロンで働くTetリプレッサー(TetR)とTetオペレーター配列(tetO配列)を利用し、TetRはテトラサイクリン非存在下でtetO配列に結合するが、テトラサイクリンが結合するとtetO配列に結合できなくなるという性質を利用している。 ドキシサイクリン存在下で目的遺伝子を発現するものをTet-Onシステム、逆にドキシサイクリン非存在下で目的遺伝子が発現し、ドキシサイクリン存在下では発現が抑制されるものをTet-Offシステムと呼ぶ[1]

出典:脳科学辞典

 

Tet-onシステムとTet-offシステムがある。

簡単に言うとTet-onはドキシサイクリン投与で目的遺伝子が発現するようになりTet-offシステムはドキシサイクリン中止で目的遺伝子が発現するようになる

Tet-onシステム

 目的の遺伝子を発現する組織、細胞に適したプロモーターの制御下でrtTAを発現する制御ベクター (regular vector)、およびTRE配列をもつ最小プロモーター (minimal promoter)の下流に目的遺伝子をつなげた応答ベクター (response vector)の両者を細胞あるいは動物個体に導入する。 発現したrtTAはドキシサイクリン非存在下 (Dox-)ではTREに結合しないが、ドキシサイクリンの培地への添加あるいは動物個体への投与 (Dox+)によりTREと結合するようになり、目的の遺伝子を発現するようになる。また、この発現制御はドキシサイクリン濃度依存的であるためドキシサイクリンの量で発現量を調節することが出来る(図1)。

Tet-offシステム

 細胞あるいは動物個体に導入するベクターのうち、制御ベクターが発現する遺伝子がtTAであることがTet-onシステムとの違いである。発現したtTAはrtTAとは逆にドキシサイクリン存在下 (Dox+)ではTREに結合しないが、ドキシサイクリンの培地からの除去あるいは動物個体への投与中止(Dox-)によりTREと結合するようになり、目的の遺伝子を発現するようになる。また、この発現制御はTet-onシステムと同様にドキシサイクリンの量で発現量を調節することが出来る(図2)。

出典:脳科学辞典

 

いずれも大腸菌の転写制御系をベースとして作られており、両者ともに2つのベクター(配列)が必要である。

 

上記のまずTet-offシステムについてみてみる。

転写を抑制するTetRに転写活性ドメインであるVP16AD(ヘルペスウイルス由来)タンパク質は薬剤と結合する能力がある。Tet-offの場合、ドキシサイクリンと結合していないときに遺伝子発現を調節する遺伝子配列(TRE配列)に結合できるようになる。(ドキシサイクリン存在下では標的配列に結合できない)

→これによって遺伝子がOnとなり、目的遺伝子が発現する。

 

Tet-onシステムでは、上記の逆のことが起こる。

tTAの改変によって作られた、通常状態(つまりドキシサイクリンが結合していない状態)DNA結合能をもたないrtTA(reversed-tTA)を利用している。つまりドキシサイクリンが存在しているときのみ標的遺伝子に結合でき、これによって遺伝子がOnとなり、目的遺伝子が発現する。

 

その他Tips…

  • これが登場するまでは発現「する」か「しない」かだったが、投与するテトラサイクリンの量によって発現量を調節できるようになった。
    ※しかしTet-onシステムの方が発現量の調節が難しい。
    ※Tet-offシステムの方が遺伝子誘導されるまでに時間がある程度かかる。
  • Tet-onの方がTet-offよりも遺伝子誘導が速やかに行える。
  • rtTAと親和性が高いためテトラサイクリン誘導体であるドキシサイクリンが誘導に用いられる。特にTet-onシステムではrtTAとテトラサイクリンとの結合が弱く必ずドキシサイクリン用いられる。
  • 薬剤生体内や細胞への薬剤残留時間が長く、任意のタイミングで完全に除去することが難しいという問題もある。

参考:実験医学online「TET-OFFシステム」「TET-ONシステム」