こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】脳梗塞に対する血管内治療前のアルテプラーゼ静注の無作為化試験

南江堂から送られてくる"NEJM Contents News"の中から目に付いた記事の紹介。

 

以前、脳梗塞の血管内治療に関する発表をヨーロッパの学会で行ったので目にとまった。日本語アブストラクトを見ながらコメントしてみる。

 

脳梗塞に対する血管内治療前のアルテプラーゼ静注の無作為化試験

LeCouffe NE, Kappelhof M, Treurniet KM, et al.

A Randomized Trial of Intravenous Alteplase before Endovascular Treatment for Stroke.

N Engl J Med. 2021 Nov 11;385(20):1833-1844. doi: 10.1056/NEJMoa2107727. PMID: 34758251.

 

背景

急性期脳梗塞に対する血管内治療(EVT)前のアルテプラーゼ静注の有用性の研究は,とくに非アジア人集団では十分に行われていない.

 

→日本人は出血に弱く特に欧米人より脳出血が多いとされているので、確かにアジア人に関する検討はその意味で重要かもしれない。

 

方 法

欧州で,脳梗塞に対して EVT が施行可能な病院を直接受診し,アルテプラーゼ静注と EVT に適格であった患者において,非盲検多施設共同無作為化試験を行った.患者を,EVT のみを行う群と,アルテプラーゼ静注後に EVT を行う(標準治療)群に 1:1 の割合で無作為に割り付けた.主要エンドポイントは,90 日の時点における修正 Rankin スケール(0 [障害なし]~6 [死亡])で評価した機能的転帰とした.EVT 単独のアルテプラーゼ+EVT に対する優越性と非劣性を評価し,2 群のオッズ比の 95%信頼区間下限 0.8 を非劣性マージンとした.全死因死亡と症候性脳出血を主な安全性エンドポイントとした.

 

→非盲検となっていしまっているのは治療の特性を考えれば仕方ない。偽治療もできなくはないが現実的にはいろいろ困難であろうと思われる。脳梗塞の予後にしばしば用いられるmRSで評価している。「優越性と非劣性を評価し」とあるが、優越性試験と非劣性試験の組み方は異なっているはず→これに関しては自分の知識不足かよくわからず…。

 

結 果

539 例を解析対象とした.90 日の時点における修正 Rankin スケールのスコアの中央値は,EVT 単独群では 3(四分位範囲 2~5),アルテプラーゼ+EVT 群では 2(四分位範囲 2~5)であった.補正共通オッズ比は 0.84(95%信頼区間 [CI] 0.62~1.15,P=0.28)であり,EVT 単独の優越性も非劣性も示されなかった.死亡率は EVT 単独群では 20.5%,アルテプラーゼ+EVT 群では 15.8%であった(補正オッズ比 1.39,95% CI 0.84~2.30).症候性脳出血はそれぞれ 5.9%と 5.3%に発生した(補正オッズ比 1.30,95% CI 0.60~2.81).

 

→サンプルサイズ計算はされており、それに沿った約540例の患者で解析。mRSに差が出ないのはなんとなく予想できたが(アルテプラーゼの効果が出る患者はそもそもすごく多いわけではないので)、症候性脳出血率も差がないのは意外だった。なんとなく脳出血増えそうだが、あまり増えないという結果。そして有意ではないとはいえ、死亡率はEVT単独群の方が高いという結果も少々意外だった。

 

結 論

欧州人の患者で行われた無作為化試験で,EVT 単独は,脳梗塞発症後 90 日の時点における障害の転帰に関して,アルテプラーゼ静注後に行う EVT に対して優越性も非劣性も示さなかった.症候性脳出血の発生率は 2 群で同程度であった.(急性期脳梗塞の新規治療に関する共同研究コンソーシアムほかから研究助成を受けた.MR CLEAN–NO IV 試験:ISRCTN 登録番号 ISRCTN80619088)

 

→この結果ですとアルテプラーゼを追加するメリットはないといえそうです。