こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

CLLに対するアカラブルチニブ

慢性リンパ性白血病(CLL)に対するアカラブルチニブ(商品名:カルケンス)の使用についての文献を3つ取り上げる。

 

まずアカラブルチニブの概要について。

  • BTK阻害薬の1つ。他のBTK阻害薬としてイブルチニブ、チラブルチニブなどがある。
  • B細胞受容体シグナル伝達の必須成分であるブルトンチロシンキナーゼ(BTK)は、CLLにおいて恒常的に活性化しており、CLLの病勢進行に深く関与している。
  • In vitroにおいてCLL細胞のシグナル伝達、増殖、接着抑制などに関与していることが報告されている。
  • このBTKの阻害が疾患治療に役立つことが報告されている。
  • 既にBTK阻害薬の1つであるイブルチニブは初回治療においても再発治療においても、全奏効率(ORR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)全て標準治療より延長させるとのことが報告されていた。
    →しかし毒性のため中断がしばしばあった。そこでoff target活性が抑えられたアカラブルチニブが登場。

 

まず1つ目は2020年。

Woyach JA, et al.

Acalabrutinib plus Obinutuzumab in Treatment-Naïve and Relapsed/Refractory Chronic Lymphocytic Leukemia.

Cancer Discov. 2020 Mar;10(3):394-405.

  • 再発/難治性および未治療のCLL患者を対象に、アカラブルチニブとオビヌツズマブの併用の第Ib/II相ACE-CL-003試験。
  • 単施設、未治療CLL患者19人(うちSLL1人)、再発難治CLL患者26人。
  • 年齢中央値61歳(42-75歳)。3.5年追跡。
  • アカラブルチニブ 1000㎎/day day1-28 until PD
    オビヌツズマブ 100 mg on day 1,900 mg on day 2, and then 1,000 mg on days 8 and 15 of cycle 2, and 1,000 mg on day 1 of cycles 3–7
  • 全奏効率: 95% (未治療) 92% (再発/難治性)
    完全寛解: 32% (未治療) 8% (再発/難治性)
    無増悪: 94% (未治療) 88% (再発/難治性) ※36か月時点
  • 有害事象: Grade 3以上の有害事象が未治療患者の 63%、再発/難治性患者の 77%で見られた。多いものから順に、好中球減少(24%)、失神(11%)、血小板減少(9%)であった。一時中断はあったが、最終的には89%の患者が既定のオビヌツズマブ投与を完遂、やはり89%の患者がアカラブルチニブ内服を継続するなど高い忍容性が確認できた。

 

この1年後にBloodに以下の論文が発表される。

Byrd JC, et al.

Acalabrutinib in treatment-naive chronic lymphocytic leukemia.

Blood. 2021 Jun 17;137(24):3327-3338.

  • Single arm第 1/2 相試験 (ACE-CL-001) 。未治療CLL患者を対象とした研究。
  • 99人が登録。年齢中央値64歳、47%がRai分類Ⅲ/Ⅳであった。
  • 病勢進行するか不耐となるまで、アカラブルチニブ200mg1日1回、または 100mg1日2回経口投与を継続。追跡期間中央値53ヵ月。
  • 14人が有害事象または疾患進行によって治療中断。
  • 全奏効率97%(PR90% CR7%)。全てのサブループで同様の結果。
  • Grade3以上の有害事象として多かったのは、感染症 (15%)、高血圧 (11%)、出血イベント (3%)、および心房細動 (2%)

 

そのさらに翌年、以下の論文が発表される。

Munir T, et al.

Cost-effectiveness of acalabrutinib regimens in treatment-naïve chronic lymphocytic leukemia in the United States.

Expert Rev Pharmacoecon Outcomes Res. 2023 Jun;23(5):579-589. 

  • 未治療CLLに対する2つの治療をコストパフォーマンス面で比較。
    ①アカラブルチニブ±オビヌツズマブ
    ②クロラムブシル+オビヌツズマブ
    3つの健康状態(progression-free, progressed disease, and death)の質調整生存年当たり推定コストを計算。
  • アカラブルチニブ + オビヌツズマブのコストパフォーマンスが高い確率は 34-51%。アカラブルチニブの方がコストパフォーマンス高い可能性が高い(米国の保険システムにおいて) 。