こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

未治療マントル細胞リンパ腫に対する治療はBRにイブルチニブを重ねると治療成績が向上する

Ibrutinib plus Bendamustine and Rituximab in Untreated Mantle-Cell Lymphoma

未治療マントル細胞リンパ腫に対するイブルチニブ+ベンダムスチン・リツキシマブ療法

 

Wang ML, Jurczak W, Jerkeman M, et al. Ibrutinib plus Bendamustine and Rituximab in Untreated Mantle-Cell Lymphoma. N Engl J Med. 2022 Jun 30;386(26):2482-2494.

 

Ibrutinib:Bruton’s tyrosine kinase inhibitor ブルトンチロシンキナーゼ(BTK)阻害薬

BTKプロテインキナーゼの1つで、B細胞・マクロファージ・マスト細胞などの免疫細胞に存在し、B細胞受容体(BCR)などからの刺激を受けて、B細胞の分化や活性化を制御している。このシグナルを阻害することで、関節リウマチ、B細胞性ホジキンリンパ腫、CLLなどに対して治療効果を得られると期待される。

イブルチニブ以外のBTK阻害薬としてアカラブルチニブ(カルケンス)、ベレキシブル(チラブルチニブ塩酸塩)などがある。

 

試験概要

・65歳以上の523人の成人 未治療マントル細胞リンパ腫の患者

・年齢中央値71歳(65-87歳)

・イブルチニブ+BR(261人) vs プラセボ+BR(262人)にランダム割付

※BRは6サイクル施行(B 90mg/㎡, R 375mg/㎡) CRまたはPRの患者は8週間ごと12回のR維持を受けた イブルチニブは560㎎/day

・PDとなるか許容しがたい有害事象が生じるまで継続

・約7年間フォローアップ(フォロー期間中央値84.7か月)

・OSは2群で同等

PFSはイブルチニブ群で有意に改善(80.6か月vs52.9か月 HR, 0.75; 95% confidence interval, 0.59 to 0.96; P=0.01)

CR率もイブルチニブ群で有意に高い(65.5% vs 57.6%, P=0.06)

・MIPIスコアハイリスク患者、TP53変異患者では有意差なし

・G3-4有害事象は、イブルチニブでやや多い。81.5% vs 77.3%

・除外患者:PS3以上、移植予定患者、CNS浸潤がある患者、6カ月以内に脳梗塞脳出血重篤な心疾患がある患者、WfなどのVit.K阻害薬使用者、強力なCYP3A inhibitors使用者

 

※多い有害事象は肺炎、Af。維持療法期間中も肺炎起きうる。心房細動の発生率は、プラセボ群(6.5%)よりもイブルチニブ群(13.9%)の方が高かった。

※もともとBRはマントル細胞リンパ腫治療によく用いられてきた。PSFもR-CHOPより長い (35.4か月vs22.1か月)。BTK阻害薬単剤治療も既に有効性が証明されていた。初回再発時にしばしば用いられる。

 

以下参考

MIPIスコアとは?¹⁾²⁾

  • MIPIスコアとは、進行期マントル細胞リンパ腫の予後を予測する指標の1つ.
  • MIPIスコアは、年齢Performance Status(EOCG)血清LDH白血球数の4つのパラメータに対し各々重みをつけて算出する¹⁾²⁾.
  • MIPIスコア= { [年齢] * 0.03535} + 0.6978 (if : ECOG>1) + {1.367 * log₁₀[血清LDH/LDH検査上限値] } + {0.9393 * log₁₀ [白血球数]}

エビデンス

  • MIPIスコアから3グループに分類.
  • 低リスク群(スコア<5.7)全生存期間(OS)の中央値は到達しなかった¹⁾.
  • 中リスク群(5.7≦スコア<6.2)OS中央値は51か月¹⁾.
  • 高リスク群(6.2≦スコア)OS中央値は29か月¹⁾.

使用上の注意点

  • マントル細胞リンパ腫は比較的まれなリンパ腫であるが、予後は不良で、全生存期間(OS)の中央値はわずか30~43か月である¹⁾.

引用:HOKUTO