こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

AML治療の新しい鍵:ベネクレクスタを用いた治療について

近年頻繁に使われるようになったベネトクラクスを用いたAML治療に関するいろいろをメモ的に集約します。

 

ベネトクラクスとは

BCL-2阻害薬。腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する。

  • BCL-2は通常は細胞内のミトコンドリアに存在しており、アポトーシス抑制作用がある。
  • 腫瘍細胞ではBCL-2が過剰発現しており、アポトーシスが抑制されることで無制限増殖につながる。
  • もともと慢性リンパ性白血病(CLL)患者ではBCL-2が過剰発現していることが知られており、60%の患者の末梢血リンパ球でBCL-2タンパク質が過剰発現しているとの報告もある。
  • ベネトクラクスはBCL-2タンパク質に直接結合し、アポトーシス促進タンパク質を遊離させ、アポトーシスを促進することで抗腫瘍作用を示す。

参考:A-CONNECT™ホームページ

 

アザシチジン(AZA)との併用による急性骨髄性白血病(AML)治療

  • 2020年にAZA+Venによる未治療AML患者治療第1b相試験の結果が報告された。強化化学療法不適格患者431例に対して、AZA+Ven群286例 vs AZA+プラセボ群145例で比較
    OS 14.7か月 vs 9.6か月でVen群の方が有効。寛解率(完全+部分)もVen群で多い。
    N Engl J Med 2020; 383 : 617 - 29. 
    ※AMLに対するVen単独療法は満足な結果が得られなかった。
  • 若年者おいてIDA+Ara-Cなど既存の標準AML治療をVenを組み合わせて寛解率を上げられないかという臨床試験も行われている。

El-Cheikh J, Venetoclax: A New Partner in the Novel Treatment Era for Acute Myeloid Leukemia and Myelodysplastic Syndrome. Clin Hematol Int. 2023 Jun;5(2-3):143-154. 

 

ベネクレクスタの容量と投与期間について---短くてもOKかも

  • ベネクレクスタベース治療患者は血球減少がしばしば問題となり、これに起因する真菌感染症が起きうる。
    ※しばしばアゾール系抗真菌薬が予防・治療に用いられるが、フルコナゾール、ボリコナゾール、ポサコナゾールなどの特定のアゾール系抗真菌薬とベネトクラクスを併用すると、P450 3A 阻害作用によりベネトクラクスの血中濃度が上がるなど重大な相互作用が起きることがある。このためこれらの薬剤と併用時は減量が必要となる。
    フルコナゾール併用時 200㎎/day
    ポサコナゾール併用時 50~70㎎/day
    ボリコナゾール併用時 100㎎/day
  • ベネトクラクスの投与期間を短くするという方法も有効な可能性がある。
    標準的には28日間投与だが、7、14、21日間投与についても検討されている。反応が良好な患者に対しては、7日間投与とした場合では28日間投与より有害事象は少なく奏効率も許容できる範囲内だったとの報告あり。
  • 別の試験(Aiba M, et al. Shorter duration of venetoclax administration to 14 days has same efficacy and better safety profile in treatment of acute myeloid leukemia. Ann Hematol. 2023 )では14日間投与も28日間投与もCR率に有意差なしとの結果。さらに14日群の方が、WT1陰性達成率が高いとの結果も示された(50% vs 20%)。これは28日投与群の場合、血球減少のため次サイクルを開始できない場合が多かったが、14日投与群では(血球減少が軽度であるため)治療の遅れがなかったためではないかと考えられる。
  • その後に行われた試験(Mirgh S, et al. Hypomethylating agents+venetoclax induction therapy in acute myeloid leukemia unfit for intensive chemotherapy—novel avenues for lesser venetoclax duration and patients with baseline infections from a developing country. Am J Blood Res. 2021;11(3):290–302.)でもVen期間短縮が治療反応性を維持したまま早期血球回復につながる可能性を示唆した。
  • Ven耐性となった患者は予後不良。治療途中に効果が出なくなる場合もある。一般的にFLT3、TP53変異があるなど予後不良AMLの場合はVenに対しても反応不良な可能性が高い。
  • Venによる血球減少はG-CSF投与が有効である可能性がある。

El-Cheikh J, Venetoclax: A New Partner in the Novel Treatment Era for Acute Myeloid Leukemia and Myelodysplastic Syndrome. Clin Hematol Int. 2023 Jun;5(2-3):143-154. 

 

Ven+AZAは奏功までに時間がかかる場合もある

VIALE-A/VIALE-C studyにおける治療反応までの期間を分析

  • 2サイクル以下で反応した患者を早期反応者、それ以降で反応した患者を後期反応者と定義。
  • CR/CRiを達成した患者のうち65%が1サイクル以下で反応、76%が早期反応者。
  • 3サイクル目以降で反応した患者のうち74%は3~4サイクルで反応、9%は5~6サイクルで反応、11%は7サイクル以降で反応。
  • OS は早期反応者も後期反応者も同等であり、不応患者を明らかに上回る。
    治療反応が遅くとも、最終的に奏功すればOSは早期反応者と同等。

 

Ven+AZAはいつまで続ければよいか?

  • 65歳以上未治療AML患者で、少なくとも12ヵ月以上のVenベース治療を受けた患者を対象(29人)に研究。13人の患者(45%)が治療を選択的に中止、16人(55%)は疾患進行まで治療を継続し、それぞれSTOPコホートとCONTコホートとした。
  • STOP群OS中央値は 71.3 か月、CONT群では43.7 か月(p=0.023)
  • NPM1 or IDH2 mutationがあり、最低12カ月以上の治療を受けており、MRD陰性の患者は治療をやめられる可能性がある。
  • 調整後の無再発生存期間は両群で有意差なし。

Chua CC, et al. Treatment-free remission after ceasing venetoclax-based therapy in patients with acute myeloid leukemia. Blood Adv. 2022 Jul 12;6(13):3879-3883.