以前に書いた症例報告に関する記事が好評なようでしたので、再び同じようなテーマを取り扱ってみます。
今回は、World Journal of Clinical Oncologyという雑誌に2つの症例報告がAcceptされましたので、それを自分でレビューしつつ、若手医師(だいたい初期~後期研修医くらい)が雑誌投稿する際のsuggestionをちょっとだけしてみます。
まずは1本目。
血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)
採用された論文はこちら↓
https://www.wjgnet.com/2218-4333/full/v11/i6/405.htm
この症例に関しては正直なところCase reportにできるか微妙な症例でした。なぜなら途中で治療が終わってしまっており(化学療法2コース行ったところで奏功が見られず、患者希望で治療を中断)、以下に示す通り珍しい合併症を有しているというだけで特に他にアピールポイントがないからです。
概要に関しては過去に別の記事も書いています。そちらもよければ↓
T細胞リンパ腫の中でも比較的まれなAITLというものについてです。上記記事の内容を一部抜粋しますと、以下のような感じです。
---------------------------------------
・AITLは非ホジキンリンパ腫の約1.2%を占める稀な疾患である。(1,2)
・AITLの約50%に皮疹が見られるとされ、AITLの重要な症候の1つである。(2)
・またAITLは自己免疫性溶血性貧血など免疫学的・血液学的疾患の合併が多く報告されている。(3,4)
1. Lunning MA, et al. Blood. 2017 Mar 2;129(9):1095-1102.
2. Botros N, et al. Am J Dermatopathol. 2015 Apr;37(4):274-83.
3. Martel P, et al. Arch Dermatol. 2000 Jul;136(7):881-886.
4. Tao J, et al. World J Clin Oncol. 2013 Aug 10;4(3):75-80.
---------------------------------------
今回の症例のポイントは赤芽球勞を合併していたことでした。上記にある通りAITLはしばしば免疫疾患や他の血液疾患を合併するのですが、その中でも赤芽球勞は非常に珍しいです。ただ、既述の通り、ただ合併していたという以外に議論すべきことがありませんでした。治療も完遂しておらず、治ったわけでもなく、さらに転医のため、その後の治療は分からず、、、といったなかなか微妙な症例でした。
また2人いたReviwerの両方から、診断時の病理画像をつけるようにいわれましたが、それも用意できませんでした。(私が既に病院を退職してしまっていたため。)
このようなぐだぐだ症例で、何度も何度もRejectされましたが、最終的に辛うじてImpact factor付の海外誌に掲載していただくことができました。皆さんもあきらめずに頑張ってください!笑
血管内リンパ腫(IVL)
採用された論文はこちら↓
https://www.wjgnet.com/2218-4333/full/v11/i8/673.htm
この症例は初めて海外学会に出した症例であり(しかもポスターではなく口述!)とても思い入れ深い症例でした。
IVLは診断が難しい疾患の代表であり、総合診療・総合内科などの医師にとってはとても有名な気がします。有名な割にやっぱり珍しいし、そんなに見ないよね…と言われがちですが、私はやっぱりそれなりの頻度で見るなーという印象です。
以前の病院の血液内科では、2-3ヵ月に1人くらいは見ていた気がします。IVLの概要は以下の通りです。
---------------------------------------
・小血管内に閉塞性に腫瘍が細胞増殖する。悪性リンパ腫の0.1%程度を占める稀な疾患。(1,2)
・リンパ節腫大や腫瘤形成を認めず、進行が速く致死的なため生前診断は困難なことが多い。(1,2)
・90%がB細胞由来でIVLBCLと言われる。(3)
・Rituximabの登場で予後は著明に改善。(3)
1. Ayako Sakurai et al. Nikkokkyuukiashi 49(10) : 743-749, 2011.
2. West J Med 1991Jul.155(1):72-6.
3. Toshihiko Igarashi et al. Igakunoayumi 235(5) : 727-530, 2011.
---------------------------------------
今回の症例はポイント・ハイライトがたくさんありました。
・末梢神経障害が主訴=初発症状となった。
・血球貪食症候群を合併している。
・ランダム皮膚生検にて診断された。
・汎下垂体機能低下症を合併していた。
最も今回面白い点は汎下垂体機能低下症かと思います。IVLはリンパ節腫脹がないため診断が難しく、さらに様々な臓器に浸潤することで幅広い臨床症状が出ますが、下垂体障害は非常に珍しいです。また下垂体障害によって低血糖などの症状が経過中に見られ、非常に複雑な病態を示し、この症例ではさらに診断が難しくなり、初発症状から診断までに7か月もの時間を要しました。
非常に興味深いケースで、初めて国際学会での口頭発表もこの症例で行いました。なので非常に思い入れ深い症例です。
かなりすごいケースだ!と正直とても自信があったので、メジャー雑誌にたくさん投稿してみたもののなかなか通らず、なんとかIFつきの国際誌になんとか通ったという感じです。
なかなか論文執筆というのは難しいです。
今回投稿した雑誌について
2本ともWorld Journal of Clinical Oncologyでの採用でした。IF1‐2程度ではありますが、国際誌です。またOncology関連のCase reportを広く受け付けているイメージです。査読まで、出版までのスピード感もなかなかよく(コロナ騒動のためちょっと通常より時間がかかってしまっているようではありましたが)、Case Report投稿先としてはかなりいいんではないでしょうか。
これを読んでいるみなさんもぜひチャレンジしてみていただければと思います。