文献紹介です。抄読会で取り上げられた内容のメモです。
Krohn-Grimberghe M, et al.
Nanoparticle-encapsulated siRNAs for gene silencing in the haematopoietic stem-cell niche.
Nat Biomed Eng. 2020 Oct 5.
- <予備知識>
- 骨髄内皮細胞へsiRNAを運搬するNanoparticle~運搬ツールとしてのEC-15~
- EC-15を用いた造血ニッチの調節~【1】骨髄から血球を放出~
- EC-15を用いた造血ニッチの調節~【2】骨髄に血球をとどめる~
<予備知識>
RNA干渉とは?
2本鎖RNAと相補的な配列を持つmRNAが分解される現象。これによって、特定の遺伝子発現をノックアウトすることができ、疾患の治療への応用が期待されている。
たとえば、ある疾患Aの発症を防ぎたいとき、その原因遺伝子がaだとしたら(遺伝子異常aがあることによって疾患Aが発症してしまう)、siRNAを用いて遺伝子aからmRNA→たんぱく質合成と進み以上なタンパク質が作られ疾患Aが発症してしまうのを防ぐことができる。
詳しい解説は別記事で↓
上記記事でも触れているが、siRNAは細胞膜を通れないため、標的組織・臓器へどのように運搬するかがRNA干渉を利用した治療の課題の1つ。
→ここでNanoparticle!Nanoparticleを用いた運搬は従来の方法よりもサイレンシング効率が高く、注目されている。
Nanoparticleを用いると…
- 血液中でsiRNAが分解するのを防ぐことができる。
- 腎臓によってsiRNAが排泄されてしまうことを防ぐことができ。
- 表面因子を調整することで標的臓器への伝達が可能となる。
今回筆者らはHSCニッチにアプローチする方法を報告した。
↓↓↓次から本文解説↓↓↓
骨髄内皮細胞へsiRNAを運搬するNanoparticle~運搬ツールとしてのEC-15~
- Nanoparticleはマルチレイヤー構造(玉ねぎ状)。このレイヤーの1つポリエチレングリコール=PEGを調整することによって骨髄内皮細胞へsiRNA運搬が可能となるのでは?
(ブログ筆者補足:Nanoparticleの表面のPEGは成体内での半減期を長くしsiNRAが目的の組織や臓器に到達する確率を上げるためにある。この表面因子をリガンドによって調節する=表面修飾をすることで目的の細胞や組織に到達させることが可能。) - スクリーニングの結果、表面修飾因子としてEC-15がとして選ばれた。
- EC-15-siRNAは内皮細胞(類洞内皮・リンパ管内)に取り込まれる。
- それまで血管内皮細胞へのNanoparticle運搬に使用されていた7C1は肺内皮細胞などにも取り込まれていたが、EC-15は骨髄内皮細胞特異的に取りこまれていた。
→EC-15は運搬ツールとして有用!
EC-15を用いた造血ニッチの調節~【1】骨髄から血球を放出~
- SDF1(CXCL12, CXCR4のリガンド):造血幹細胞の機能維持、白血球遊走に関与。前駆細胞と白血球を骨髄にとどめておく役割がある。
→これにまず注目。 - siSdf1を投与すると、コントロールと比較し末梢血中の前駆細胞が増加。逆に骨髄中のHSPCの数は減少。BM中のHSPCが血液中に放出される。
→つまりSDF1の機能が抑えられている。 - siSdf1によって放出されるのは機能的な前駆細胞か?
→競合移植をにて機能性であることを確認。 - siSdf1によって骨髄中の単球や好中球の数は低下、代わりに末梢血中に増加する。
EC-15を用いた造血ニッチの調節~【2】骨髄に血球をとどめる~
- MCP1:CCL2としても知られる。単球・マクロファージ・内皮細胞で発現。免疫調節や単球輸送の他、心血管疾患にも関与している。
- サイレンシング抑制を確認した後、siMcp1をマウスに投与した後にLPS=リポポリサッカライド(炎症物質)を投与。
→骨髄におけるMcp1は有意に減少。(LPS投与によって炎症時に骨髄から単球が放出されるのがsiMcp1投与でブロックされる。) - 炎症性単球遊走は動脈硬化・心血管疾患と関与→これらも防げる?
- siMcp1を投与すると、心筋梗塞巣でも炎症性単球集束が抑えられ、これにより炎症と線維化を抑えることができる。(心筋梗塞は炎症性単球が過剰に集束することによって組織障害が遷延することが問題となる)
- siMcp1投与によってマウスの動脈硬化が抑制され、梗塞巣の縮小化、心機能の改善が見られた。
- 動脈硬化からの回復を促進。(悪化を遅らせた)