こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】クローン造血clonal hematopoiesisの種

最近話題のクローン造血clonal hematopoiesisについてです。クローン造血に関してもっと詳しくなりたいところですが、まだまだです。

 

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Liggett LA, Voit RA, Sankaran VG.

Sowing the Seeds of Clonal Hematopoiesis. 

Cell Stem Cell. 2020;27(2):195-197.

 

・加齢によって、免疫細胞の機能が低下するなど、造血幹細胞(HSC)には大きな機能変化が起きるが、このメカニズムは徐々に明らかにされつつある。

・HSCの老化現象を調べる過程で、明らかな悪性腫瘍ではないものの、発がん性の変異を有するHSCがクローン性に増殖する、という現象が発見された。

→これをClonal hematopoiesis of intermediate potential=CHIPという。

(ブログ筆者注: ちょっとおかしな細胞「がん予備軍細胞の増殖」といった感じでしょうか?加齢に伴ってこのちょっとおかしな造血幹細胞が増えてくるというイメージ)

 Ex. 最も一般的なCHIPは、DNMT3A

・このちょっとした変異を持ったHSCは隣接した細胞に影響を与え、徐々に増殖し、優位性を増していく。

・比較的忍容性が高いが、白血病転化やアテローム動脈硬化症と関連しているとされている。

・このメカニズムはまだ不明。しかし加齢に伴う必要な変化である可能性がある。その後、二次的な変異の際に悪性に変化してしまう可能性があるのではないか。

 

・本雑誌Cell stem cellでは、Tovyらによって、DNMT3A R771Qを用いた研究が、この白血病転化のメカニズム解明に役立つ可能性があることが指摘された。これを通し、DNMT3Aの不活性化が幹細胞生存に有利に働くのか、血球の系統によってその効果は異なるのかを調査することが可能。

 

・筆者らは、DNMT3A遺伝子に生殖細胞モザイク変異を有する、ある58歳の男性の末梢血を採取し解析した。つまり、DNMT3A遺伝子変異は約60年におよび、男性(の正常細胞と)共存していたことになり、様々な組織に変化をもたらしている可能性があった。

※ブログ筆者注: Germline mosaicism=生殖モザイク

両親ともに遺伝疾患や疾患の元となる遺伝子変異を有していなくとも、生殖細胞に遺伝子変異が起こり、偶然子供が遺伝性疾患を持ってしまうこと。

これに対してSomatic mosaicism=体細胞モザイクとは、正常だった体細胞の一部に、分裂の過程などで遺伝子変異が起き、変異がない体細胞と変異がある体細胞が混ざった状態のことを指す。

・口腔粘膜、尿管上皮など様々な5つの組織においてDNMT3A変異細胞がどの程度含まれるかを検証。→変異細胞の割合が100%に達したのは末梢血のみ!

(他、例えば毛根などでは0.22%しかDNMT3A変異細胞は見られなかった。)

・末梢血においては、DNMT3Aが発現していることが生存に有利なのではないか?(それに対して他の組織においては有利とはいえない可能性が示唆される)

・筆者らの過去の研究によりDNMT3A機能はメチル化に関与していることが分かっている。

DNMT3A機能低下→低メチル化領域サイズ増加 これがHSC表現型の変化にも館としているのではないか?

DNMT3A機能低下によって、発がん遺伝子の調節を行う領域における低メチル化領域変化が頻繁に見られた。→DNMT3A機能低下はHSCの競争力をアップさせ、発がん(白血病化)に関与している?

・これまでもこの分野においては様々な研究がおこなわれてきたが、in vivoとin vitroでは実験結果に差異あり。→今回の結果はin vivoという点で興味深い。

・ヒト血液においては60年におよび、このDNMT3A機能低下は、HSC生存に対し有利に働いたが、このメリットが経時的にどう他の組織に影響を与えるかは不明。

・どのように組織が腫瘍化するのかさらなる研究が必要だが、Tovyらの研究はそのための最初のステップとなった。