本日の抄読会のメモ的な感じです。
Cell Stem Cell
Single-Cell Analysis of Neonatal HSC Ontogeny Reveals Gradual and Uncoordinated Transcriptional Reprogramming that Begins before Birth
Yanan Li, et al. Published:August 20, 2020DOI:https://doi.org/10.1016/j.stem.2020.08.001
Highlights
・マウス造血幹細胞HSCと造血前駆細胞HPCは、胎児型から成体型へと徐々に変化していく。
・ネットワークがあり一斉に変化していくのではなく、個々のHSCがそれぞれに、不均一に変化していく。
・胎児型から新生児型への変化は1型インターフェロンパルスが関与している。
・このパルスは、HPC拡大を促進し、白血病においてしばしばみられる遺伝子へにFLT3-ITDシグナル伝達感受性である。
Introduction
・造血幹細胞HSCは妊娠中期に大動脈生殖中腎AGMから派生する。胎児肝臓にて造血を行い、後に骨髄に移動に生涯を通じて造血を維持する。
・胎児と成人のHSCにはいくつかの特徴の違いがある。
→胎児HSCは頻繁に分裂し、高い自己複製能を示すが、成人HSCは稀にしか分裂せず、胎児HSCと比較し、自己複製能が低下している。
・胎児HSCも成人HSCもリンパ系、骨髄系などの明確なバイアスを呈している。先天性免疫細胞の中にはほぼ胎児HSCからしか発生しないものもある。
→HSCの自己複製と分化のメカニズムは胎児と成人で異なっている。
・胎児と成人HSCでは遺伝子プロファイルが異なっている。
→例えば胎児HSCを維持するのには転写因子SOX17が必要だが、成人HSCを維持するのにはETV6とGFl1が必要。エピジェネティックレギュレーターも胎児と成人では異なっている。
・つまり胎児HSCは成人型に移行するとき、転写・エピジェネティック要因に関して歳プログラミングを受ける。
・マウスHSCは一般に生後3-4週間で胎児型から成人型へ移行すると考えられている。
・しかしどのようにこの変化が起きるのは不明。単一細胞レベルで、この変化がスイッチのOn/Offのようにバイモーダルに起こるか、段階的に起こるかは明らかではない。
・単一細胞RNAシークエンシングを用いて、これを解析。
・そのほかにもscRNA-seq、ATAC-seq(ハイスループットシーケンスを備えたトランスポザーゼアクセス可能なクロマチンのアッセイ)、およびChIP-seq(クロマチン免疫沈降シーケンス)を使用して、HSCとHPCが新生児期を通過する際、どのようにその転写とエピゲノムが変化するかを観察した。
Result&Discussion
Figure 1. 胎児型から成体型への変化は徐々に起こる
まず最初に、胎児型から成体型へのHSCの変化は
①スイッチのOn/Offのようにバイモーダルに起こるか
②グラデーション的に段階的に起こるか
を検証。胎生期から成体期にかけ、いろいろな時期で分析したとき(胎生16.5日、生後7日、14日、8週で解析)、
①ならば2つのクラスターに分かれるはず。
②ならば3つ(以上)のクラスターに分かれるはず。
→解析した見たところ、クラスターは3つに分かれた。HSCの胎児型から成体型への変化は段階的に起こる。
・個々の細胞がどの程度成体HSCの特徴を備えているかを表す筆者ら独自のscore(上昇するにつれ成体型に近づく)を検証したところ、胎生期から成体期にかけて徐々にscoreが上がっていく様子が見られた。
Figure 2. 成体型への変化は細胞ごとに不均一に起こる
・次にこの変化が個々の細胞ごとにどう起こるのかを検証。
どの細胞も、何らかのシグナルや合図をきっかけに、一斉に同じように変化が起きていくのか、細胞ごとに不均一に変化していくのか?
→WCCNA 加重遺伝子共発現ネットワーク解析を用い検証。細胞間のネットワークはある?
→細胞間のネットワークはなし!つまり個々の細胞がそれぞれバラバラに成体型に変化しており、その足並みはそろっていない。(不均一に変化している。)
Figure 3. エピゲノムな変化も細胞ごとに不均一に起こる
・ATAC-scq分析(ゲノムワイドでクロマチンがオープンになっているところを検出することにより遺伝子発現が活発になっている部分を検出)とCHIP seq分析(免疫沈降を利用し、ゲノム上の目的のタンパク質とDNAの相互作用を明らかにする)を用い、遺伝子発現の程度を解析。
・胎児から成体になるにつれ、adult identity gene(別の文献で広く定義されているadultに特異的な遺伝子群)の発現がアップ。逆にfetal identity geneは胎児から成体になるにつれ、発現は低下。
・エピゲノムな変化の経過も細胞ごとにバラバラで不均一であった。
Figure 4. Fetal identity geneエンハンサーは成体でもアクセス可能
・成体固有のプロモーター、エンハンサーはいずれも、胎児ではアクセシビリティ低下。しかし一方で胎児固有のプロモーター、エンハンサーは胎児でもアクセシビリティはあまり変わらず。
→胎児のエンハンサー、プロモーターは成人でもアクセス可能!
※もしかしたら何らかのきっかけで成体でも胎児型のHSCが出てきてしまうかもしれない。これががん化=白血病化につながっているかもしれない。
Figure 5. 胎児型から成体型への変化は何がきっかけで起こる?
・ここまでの筆者らの研究では内的要因は見つけられず。外的要因があるのかもしれない。
・場所=ニッチ(肝臓か骨髄か?)などが関与しているかも→検証しみたがこれは関係ないよう。
・インターフェロンが出産時期のみ(P0付近)上昇しており、これが関係しているのかもしれない!
Figure 6-7. INFはHPC増殖に関与
・インターフェロンは出産時期に大きく上昇。これが成体型へのHSC変化に関与しているようだが、インターフェロンは何をきっかけに上昇する?→プロゲステロンと腸内細菌が誘因となっている可能性を検証したがいずれも関連なし。
・INFノックアウトマウスでは有意にHPC数が少ない。INFがHSCの変化に関与している可能性がある。
・Adult identity scoreもINFノックアウトマウスで有意に低下。
・INFはHPC増殖に関与している!
今回は以上です。