先日、2つの症例報告がOxford Medical Case Reportsに掲載されました。
といっても1つはclinical pictureです。
自分の論文ですが、自分でレビューしつつ、若手医師(だいたい初期~後期研修医くらい)が雑誌投稿する際のsuggestionをかるーくできればと思っています。
ちなみに後編はこちら↓
自分が書いた症例報告のレビューと論文投稿に関するTips~後編・右房内血栓~ - こりんの基礎医学研究日記
まずは1本目。
胃がん脊椎転位による脊髄圧迫症候群
悪性腫瘍転位による脊髄圧迫症候群は、代表的オンコロジーエマージェンシーの1つです。
脊髄圧迫症候群のポイントとしては…
・がん患者の5-10%に生じ(かなりcommonな合併症!)乳がん、前立腺がん、肺がんなどで多い。
・脊髄圧迫症状(膀胱直腸障害や下肢麻痺)が出てからの予後は厳しく、神経症状が出る前に治療が必要。
→これは論文内でも言及しておりますが、歩行できる状態で脊椎転位が見つかった患者さんはその後も歩行できる状態を維持できるのですが、歩行できない状態で見つかった患者さんで、治療によって歩行できるようになる方はわずか7%です。
悪性腫瘍の中でも胃がんは、骨転移が少なく、脊髄圧迫症候群を初発症状として胃がんが発見されるという稀有な症例でした。
論文内でも述べていますが、後から振り返ってもこの患者さんの生命予後を著しく改善させることは困難であったように思いますが(黒色便や貧血症状、心窩部痛、食思不振、体重減少など悪性腫瘍や胃がんを想起させるような先行症状はほぼありませんでしたので)、神経学的outcomeを改善することはできたかもしれない、と思います。
先行する腰痛が1か月前からあり、この段階で転移とがんの診断ができていれば、寿命は変わらずとも、最後まで自身で歩くことはできたかもしれません(この患者さんはERから亡くなるまで、自身で歩くことはできませんでした)。
高齢者の腰痛は、非常にありふれた症候であり、大半は良性のものであることから、どのように悪性疾患を拾い上げるかは、かなり難しい問題ではあると思います。
常に「もしかしたら転位かも…」という気持ちを気に留めておくという程度でしょうか…。
論文を書く中で印象的であったのは、「腰痛」を主訴に最初に受診する病院によって(近所の診療所か地域中核病院かがん専門病院かなど)、神経症状初発から脊椎転位に対する放射線治療開始までの日数に大きな開きが出るという点です。
初診が診療所であった患者さんと専門病院であった患者さんでは実に37.5日もの開きがありました。この間に歩けた方が歩けなくなってしまうことは十分に考えられます。
専門外の医師こそ注意が必要かと思います。
論文掲載までの経緯【症例報告投稿先の選び方】
投稿候補として、以下の雑誌を検討しました。各雑誌のメリットも一言添えておきます。
・Internal Medicine
…語数制限がない、編集者・査読者すべて日本人であり初心者向け、accept率高い、IF 1程度と決して高くないもののIF付き。
・An International Journal of Medicine
…dicision非常に速い、一発acceptも多数、IF2点台とこの中では高い方。
・Oxford Medical Case Reports
…accept率高い、IFなし。
・BMJ Case Report
…専用フォーマットがありとっつきやすい(ただし他の雑誌に投稿しなおすときに面倒)、accept率高い、IFなし。
症例報告を受け付けている雑誌は少なく、投稿先を選ぶだけで一苦労のように思います。ER初診の症例で、入院は外科でしたが、専門性はそれほど高い症例ではなく、広い分野の症例を受け付けている雑誌を選びました。
実際に投稿し、Rejectされた雑誌もありますし、投稿しなかった雑誌もあります。
すべての雑誌に投稿経験がありますが、上記雑誌はいずれもdicisionまでの期間が比較的短く(2-4週間)、本レポートに関しては、Oxfordから最初のdicisionが来るまで約3週間ほどで、1回revisionをはさみ、実際のpublishは4週間後程度でした。
Case Report専門誌はIFがなく、accept率も高いですが、投稿の際は、PubMedに収載されるかは必ず確認すべきかと思います。上記雑誌はすべて収載されますが、収載されないCase Report専門誌も結構あります。
ネットで調べれば簡単に出てきます。
jmedicalcasereports.biomedcentral.com
これ↑の著者としては、Open accessかどうかも気にした方が良いポイントのようですね。確かに多くの人に読んでもらうという点では重要視してもいいかもしれません。
今回は以上です。
次回は2本目の論文についてコメントしたいと思います。