こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

クローン性造血の悪循環

今回は記事ではなくNature MedicineのNews & Viewsに関して。

Articleでない記事は分かりやすくReviewほどのボリュームもなく知識の整理や確認に個人的にはちょうどよい。

 

Furer, N., Kaushansky, N. & Shlush, L.I.

The vicious and virtuous circles of clonal hematopoiesis. 

Nat Med 27, 949–950 (2021). https://doi.org/10.1038/s41591-021-01396-5

 

  • 血液悪性腫瘍と診断されていない火度人における特定の遺伝子変異を伴う造血幹細胞・前駆細胞の増殖は「クローン性造血(clonal hematopoiesis=CH)」と言われる。
  • クローン性造血の変異のサブタイプは、一塩基変異と遺伝子挿入/欠失、あるいは大規模体細胞モザイク(mosaic chromosomal alterations=mCAs)によって定義される。
    ※mCAとは体細胞(生殖細胞以外の細胞一般)において、後天的な変異が生じることによって、変異がない体細胞と変異がある体細胞が混ざった状態(モザイク)になること。
    出典:

    体細胞モザイクはCOVID-19感染のリスクを高める―77万人を対象にした国際的な大規模解析による成果― | 国立研究開発法人日本医療研究開発機構

  • Zekavat et al.は768,762人の患者のmCAと感染リスクを調査した。
    →mCAの存在は呼吸器、消化管、泌尿生殖器感染症などの多様な感染症、およびリンパ球数の増加と有意に関連。
  • HIV陰性者よりHIV陽性者に多くクローン性造血は見られる。
  • 加齢にともなってクローン性造血を持つ人々の割合が触れることがわかっており、加齢はクローン性造血を引き起こす重要な因子の1つであるとされているが、上記のように加齢以外の要因がクローン性造血を引き起こしうるというエビデンスが次々に明らかとなっている。
  • 遺伝子素因の中でもっとも重要なのは、TET2である。
  • 炎症は、IL-6産生増加によってTET2のクローナダイナミクスに強く影響を与えることが分かっている。また、同時にINFγを介した免疫反応賦活化によって、もう1つのクローン性造血のkey遺伝子であるDNMT3Aにも大きな影響を与えることが分かっている。
  • 動脈硬化はHSPC分裂を促進し、クローン性造血を推し進める。
  • 上記のほとんどに共通しているのは、何らかの形の慢性炎症性調節不全を有しているという点である。
  • 慢性炎症はHSCの分化を促進するため、過剰な分化によってHSPCプールを使い果たしてしまい自己複製力を枯渇させてしまうことが知られている。
  • この一方、クローン性造血を有するHSPCは、特定の炎症性サイトカインとケモカインの影響下で、分化の血管と自己複製増強を示す。
  • 最初軽度の炎症しか起きていなかったとしてもこれが特定の遺伝子変異を有するHSPCのクローン拡大を誘発し、これがさらなる炎症を誘発し…という形で炎症→クローン性造血の悪循環が始まってしまう。
  • しかしクローン性造血は悪い影響だけではない。クローン性造血患者をドナーとして移植を行うと再発率が減少するとの報告もある。
    →クローン性造血があると自己反応性T細胞による免疫攻撃を回避することができることを示唆?