クローン造血に関する論文です。
※クローン造血に関する以前の記事
Bazeley P, Morales R, Tang WHW.
Evidence of Clonal Hematopoiesis and Risk of Heart Failure
[published online ahead of print, 2020 Aug 9]. Curr Heart Fail Rep.
Introduction
・心不全は65歳以上の患者の主要な入院原因。ケア支出は年間350億ドルを超える重要な疾患。
・心不全リスクは通常心エコーなどで評価されているが、ゲノム測定などの追加戦略も有効である可能性がある。
心不全の遺伝子変異<生殖細胞変異>
・家族性心筋症などがこれに該当する。家族性心筋症は拡張型心筋症の50%を占め、そのうち40%に遺伝的要因があるとされる。
・その他、現在まで300ほどの心不全関連バリアントが見つかっている。全ゲノム分析によって新たな遺伝子変異も見つかっている。今後のさらなる研究が必要。
Clonal Hematopoiesis(クローン造血)
・成人の人には10,000~200,000の造血前駆細胞・幹細胞がある。各細胞は10年ごとに約170のDNA変異を獲得する可能性がある。
・多くは良性の変異だが、一部はクローン造血に関与する可能性がある。
・クローン造血とは、成体の造血幹細胞においてクローン性が持続することである。(ある特定の種類の、正常とは異なった血球が多く産生されてしまう)
・体細胞遺伝子変異の多くは細胞ターンオーバーかたはずれているが、一部は生涯持続し、血液疾患や血液以外の疾患の発症と関連している。
・クローン造血は慢性骨髄性白血病患者で最初に発見された。老化との関連が示唆されている。
CHIP=クローン造血の不確定要素
・クローン造血を有していると血液悪性腫瘍の進行する可能性があるとされているものの、クローン造血変異があるからといって確実に造血器腫瘍を引き起こす可能性があるわけではなく、血球減少や異形成性造血を伴わない固体におけるクローン増殖を示す“clonal hematopoiesis of indeterminate potential” (CHIP) と呼ばれている。
・非ホジキンリンパ腫を移植によって治療された患者のうち30%にクローン造血を認めた。CHIPの有病率は主に年齢に依存。70歳以上の患者では5-6%に見られる。(その他、50歳未満では1%、65歳以上では10%との報告あり。)
いずれにせよ年齢と強い相関がある。
・CHIP変異の定期的なスクリーニングによって、造血器腫瘍や併存疾患を評価することができるかもしれない。が、それに対する治療や対処がないので標準的アプローチとはいえない。
CHIPと冠動脈疾患
・加齢とCHIP変異の増加、前死亡率の増加と関連あり。
・CHIPは冠動脈疾患と脳卒中の発症に関与。特に冠動脈石灰化指標が高くなり、早期心筋梗塞リスクがおおはな大幅に上がることが分かっている。
CHIPと慢性虚血性心不全
・CHIPを有する慢性虚血性心不全患者のうち、心不全関連遺伝子変異を有する患者の割合が多く、4.4年間のフォローアップでHFの死亡と再入院を含む、臨床的転帰の著しい悪化につながる。
・CHIP保因者は高齢であり、高血圧の有病率が高かった。
Ten-Eleven Translocation-2 (TET-2)
・TET2変異は、CHIP関連心血管転帰に関与しているものと思われる。
・TET2ノックアウトマウスでは、血球数の増加無に造血前駆細胞濃縮が見られ、クローン造血を示し、プラーク形成が見られた。
・放射線照射マウスにTET2欠損骨髄を移植→EF低下とLV収縮能低下、拡張期ボリュームの増加が見られた。
Janus Kinase 2 (JAK2)
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<JAK2に関する概説・他記事より>
・Jak2は…種々の成長因子やサイトカインに応答して活性化される遍在的に発現している非受容体タンパク質チロシンキナーゼである。
・生殖細胞においてJak2が欠損すると、胎児肝赤血球生成障害の原因となる。
・成体マウスにおいては、貧血や血小板減少につながる。しかしJak2がHSC機能を調節するメカニズムは不明のままである。
・活性化JAK2V617F変異は、骨髄増殖性疾患の多くに見つかる。
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・JAK2変異はクローン造血を引き起こす可能性がある。
・CHIP関連のJAK2変異は、サイトカイン産生による炎症を増加させるクローン亜集団を助長することにより、心血管イベントに対する感受性を高める可能性がある。