以前の記事の続き。いろいろ調べたのでそのメモ的な感じです。
前回記事↓
事の発端はこちら。(以前の内容の再掲)
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先日、70代の女性の方が膝関節痛・腫脹のため、救急外来を受診されました。両側共に人工膝関節置換術を受けており、その日痛みが出ていたのは右側でした。
診断と疼痛軽減のため、関節穿刺を行いましたが、液体は引けませんでした。
後日、整形外科医より人工膝関節置換術後の関節穿刺は、禁忌とまでは言わないが、感染リスクの面からよほどのことがない限りしない方がよい、と注意を受けました。
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確かに関節は感染に非常に弱いイメージですが、禁忌という認識なく、文献を調べても禁忌とは書かれておらず、しかし整形外科に実際に聞くと可能な限り控えるべきだとの回答。
その後いろいろまた文献を調べてみました。
通常の膝関節穿刺における感染率
UpToDateによれば約2000~15000例に1例。
他の文献もいくつか見てみましたがほぼ同様。感染に弱いイメージでしたがかなり低い感染率といった印象。関節内注射を行うと、よりリスクアップ。消毒手技を徹底することでリスク低下できるとの記載あり。
ちなみに関節鏡だと1万例中12例と関節穿刺よりやや感染率高い。
人工膝関節患者では当然これより高くと思われるが、具体的な数値は見つけられず。
化膿性関節炎の死亡率
UpToDateによれば単関節だと10-15%、多関節だと50%にも及ぶ。
人工膝関節における関節穿刺
文献・論文では記載発見できず。TKA術後感染に関するレビューを見ても「関節穿刺は診断のために重要」などの記載があるのみで、穿刺がどの程度のハードルなのかは文献や教科書で記載されているものは見つけられず。
しかし個人の先生が書かれたページから以下の文献を発見。
Lancet
Bacterial septic arthritis in adults
以下のように書かれていました。
However, aspiration is a vital step for assessment of a hot swollen joint (just as lumbar puncture is for suspected meningitis), and a competent clinician needs to be found urgently to aspirate any acutely hot swollen joint when sepsis is a possibility. The only exception to this rule is suspected sepsis of a prosthetic joint, which should always be aspirated with full aseptic precautions in an operating theatre.
基本的に化膿性関節炎を疑った際には緊急に穿刺を行うべきだが、唯一の例外が人工関節の時であり、手術室など完全な滅菌環境での処置が望ましい。
とのことです。しかしUpToDateにも記載はなくメジャーな知識ではないように思います。。。いずれにせよ今後は注意したいと思います。
人工膝関節感染治療の実際
今年(2020年)発表のレビューを軽くご紹介。
Zhu MF, et al.
Success Rates of Debridement, Antibiotics, and Implant Retention in 230 Infected Total Knee Arthroplasties: Implications for Classification of Periprosthetic Joint Infection.
J Arthroplasty. 2020;S0883-5403(20)30874-3.
TKA感染のデブリードマン・抗生剤・インプラント温存、つまり保存的加療の成功率を調査。
・後方視的に230人の患者を検証。
・平均6.9年フォロー。
・成功率53.9%、S.aureusまたはGNR感染のときは成功率低い。
・保存的加療不成功患者はインプラント留置期間が長い患者、発症時CRPが高い患者で多い。※インプラント留置期間が長くなればなるほど温存は難しい。
例:4週間以内:温存率67% 2年以上:37%
成功率約50%程度で、論文内では「低い」と書かれていますが(確かに高くはないですが)個人的感想としてはそれほど悪くない、といった印象です。しかしインプラント留置年数にかなり依存しているようです。。
本文中に引用した文献以外の参考:
成人の細菌性化膿性関節炎http://www.nishiizu.gr.jp/intro/conference/h24/conference-24_04.pdf