こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

人工膝関節置換術後の膝関節穿刺は禁忌?~その2~

以前の記事の続き。いろいろ調べたのでそのメモ的な感じです。

 

前回記事↓

teicoplanin.hatenablog.com

 

事の発端はこちら。(以前の内容の再掲)

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先日、70代の女性の方が膝関節痛・腫脹のため、救急外来を受診されました。両側共に人工膝関節置換術を受けており、その日痛みが出ていたのは右側でした。

 

診断と疼痛軽減のため、関節穿刺を行いましたが、液体は引けませんでした。

 

後日、整形外科医より人工膝関節置換術後の関節穿刺は、禁忌とまでは言わないが、感染リスクの面からよほどのことがない限りしない方がよい、と注意を受けました。

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確かに関節は感染に非常に弱いイメージですが、禁忌という認識なく、文献を調べても禁忌とは書かれておらず、しかし整形外科に実際に聞くと可能な限り控えるべきだとの回答。

 

その後いろいろまた文献を調べてみました。

 

通常の膝関節穿刺における感染率

UpToDateによれば約2000~15000例に1例。

他の文献もいくつか見てみましたがほぼ同様。感染に弱いイメージでしたがかなり低い感染率といった印象。関節内注射を行うと、よりリスクアップ。消毒手技を徹底することでリスク低下できるとの記載あり。

ちなみに関節鏡だと1万例中12例と関節穿刺よりやや感染率高い。

人工膝関節患者では当然これより高くと思われるが、具体的な数値は見つけられず。

 

化膿性関節炎の死亡率

UpToDateによれば単関節だと10-15%、多関節だと50%にも及ぶ。

 

人工膝関節における関節穿刺

文献・論文では記載発見できず。TKA術後感染に関するレビューを見ても「関節穿刺は診断のために重要」などの記載があるのみで、穿刺がどの程度のハードルなのかは文献や教科書で記載されているものは見つけられず。

 

しかし個人の先生が書かれたページから以下の文献を発見。

Lancet

Bacterial septic arthritis in adults

以下のように書かれていました。

However, aspiration is a vital step for assessment of a hot swollen joint (just as lumbar puncture is for suspected meningitis), and a competent clinician needs to be found urgently to aspirate any acutely hot swollen joint when sepsis is a possibility. The only exception to this rule is suspected sepsis of a prosthetic joint, which should always be aspirated with full aseptic precautions in an operating theatre.

基本的に化膿性関節炎を疑った際には緊急に穿刺を行うべきだが、唯一の例外が人工関節の時であり、手術室など完全な滅菌環境での処置が望ましい。

 

とのことです。しかしUpToDateにも記載はなくメジャーな知識ではないように思います。。。いずれにせよ今後は注意したいと思います。

 

人工膝関節感染治療の実際

今年(2020年)発表のレビューを軽くご紹介。

Zhu MF, et al.

Success Rates of Debridement, Antibiotics, and Implant Retention in 230 Infected Total Knee Arthroplasties: Implications for Classification of Periprosthetic Joint Infection.

J Arthroplasty. 2020;S0883-5403(20)30874-3.

 

TKA感染のデブリードマン・抗生剤・インプラント温存、つまり保存的加療の成功率を調査。

・後方視的に230人の患者を検証。

・平均6.9年フォロー。

・成功率53.9%、S.aureusまたはGNR感染のときは成功率低い。

・保存的加療不成功患者はインプラント留置期間が長い患者、発症時CRPが高い患者で多い。※インプラント留置期間が長くなればなるほど温存は難しい。

例:4週間以内:温存率67% 2年以上:37%

 

成功率約50%程度で、論文内では「低い」と書かれていますが(確かに高くはないですが)個人的感想としてはそれほど悪くない、といった印象です。しかしインプラント留置年数にかなり依存しているようです。。

 

本文中に引用した文献以外の参考:

成人の細菌性化膿性関節炎http://www.nishiizu.gr.jp/intro/conference/h24/conference-24_04.pdf