造血幹細胞と低酸素については以前にも記事をかきました。
今回はそれに関連した内容。
低酸素は細胞の多能性維持に関与しているとされている。
A hypoxic condition is known to contribute to pluripotency.
Sugimoto K, et al. Effects of hypoxia inducible factors on pluripotency in human iPS cells. Microsc Res Tech. 2018 Jul;81(7):749-754.
ヒトも含めた動物の体内は、慢性的あるい短期的に体内が低酸素状態になってしまったり、あるいはもともと低酸素になっている臓器があったりする。
→これを低酸素による様々な障害から守るために低酸素誘導因子(HIF)というものが存在する。
低酸素誘導因子（ていさんそゆうどういんし、英:Hypoxia Inducible Factor、HIF）とは細胞に対する酸素供給が不足状態に陥った際に誘導されてくるタンパク質であり、転写因子として機能する。癌の病巣においては栄養不足や細胞外pHの低下、血流不足による酸素供給不足(低酸素)状態が認められるが、癌細胞が生き延びるためには新たに血管網を形成することにより病巣への血流を増加し、低酸素状態を脱する必要がある（血流の増加は転移経路の確保にもつながっている)。そのための機能を担うべく低酸素条件下において誘導される転写因子がHIFであり、種々の遺伝子の転写を亢進させる。HIF-αにはHIF-1α、HIF-2α、HIF-3αが存在するが、これらはいずれも細胞内に構成的に発現しているHIF-1βとヘテロ二量体と結合する能力を持つ。HIF-1αは正常酸素圧下でも産生はされるがタンパク質分解酵素複合体である26Sプロテアソームにより分解されてしまうため機能しない。
出典：Wikipedia
★幹細胞以外における低酸素時のHIFの役割
- 嫌気的解糖系を亢進し、ATP産生を保証する。
- 細胞障害差異がある仮性酸素の発生を抑制する。
- 細胞内の乳酸蓄積により細胞内pHが酸性に傾くのを防ぐ。
(低酸素下で解糖系が亢進すると最終産物の乳酸が細胞内に蓄積する)
小林稔. 低酸素ストレスと HIF. 〔生化学 第８５巻 第３号，pp.１８７―１９５，２０１３〕.
★幹細胞におけるHIFの役割
- 低酸素環境下において肝細胞性を維持するのに重要。
- 歯髄幹細胞を、HIF-1α存在下でセメント芽細胞に分化させる。
- HIF‐2αはNanogプロモーターと結合することによって幹細胞性を高め、ヒトES細胞の多能性を制御している。
Sugimoto K, et al. Effects of hypoxia inducible factors on pluripotency in human iPS cells. Microsc Res Tech. 2018 Jul;81(7):749-754.
★造血幹細胞におけるHIFの役割
- 骨髄内は他の臓器・組織に比べて低酸素状態にあり、健常者の骨髄穿刺液の平均pO2は54.9 mmHg/平均SpO2 87.5％ほどである。マウス骨髄に関してはさらに低い。
- 造血幹細胞の維持はこの低酸素の中行われている。
- 他の組織・臓器では、大量出血など低酸素時のみ発現レベルが上がる因子であるHIF-1αが、造血幹細胞では発現亢進していた。
- HIF-1αがなくなると、幹細胞性が失われ、幹細胞の老化が見られる。
- HIF-1αノックアウトマウスの骨髄を移植しても生着能は低い。
- HIF-1αが嫌気性解糖系を亢進し、ミトコンドリア代謝系(好気性)を抑制する働きを担っている。
- ミトコンドリア代謝回路を活性化させるPDH=ピルビン酸脱水素酵素を、HIF-1αが酸性するPdk2とPdk4によって働かないようにさせる。
- 低酸素はHSCの維持に重要。
- 低酸素条件で造血幹細胞を培養すれば、幹細胞性を維持しながら大量に増殖させられるかも？→さらなる研究が必要。
Morikawa T, Takubo K. Hypoxia regulates the hematopoietic stem cell niche. Pflugers Arch. 2016 Jan;468(1):13-22.
Kobayashi H, et al. Environmental Optimization Enables Maintenance of Quiescent Hematopoietic Stem Cells Ex Vivo. Cell Rep. 2019 Jul 2;28(1):145-158.e9.
低酸素環境で、造血幹細胞が 維持される仕組みを解明！ | Nature ダイジェスト | Nature Research
★HIF-1阻害薬でGVHD軽減？
- HIF-1αはGVHDを減少させる効果のあるregulatory T cellを弱め、GVHDを引き起こすTh17などのヘルパーT細胞機能を増強させる働きがある。
- HIF-1α阻害薬を投与することによってこのような免疫細胞機能を抑えることができ、移植後GVHD軽減位つながる可能性がある。
Yao Y, et al. HIF-1α inhibitor echinomycin reduces acute graft-versus-host disease and preserves graft-versus-leukemia effect. J Transl Med. 2017 Feb 10;15(1):28.
