講義で扱った文献の紹介です。
Yasunaga H, et al.
Body mass index and outcomes following gastrointestinal cancer surgery in Japan. Br J Surg.
2013 Sep;100(10):1335-43.
- 米国では軽度肥満患者の術後死亡率が低いことが示されており、「肥満パラドックス」と言われている。これが欧米諸国より肥満率が圧倒的に低い日本においても一般化できるかどうかを検証。
- 欧米諸国では肥満率30%以上だが、日本では2%程度(これは今回の研究でも2%程度で日本全体における比率と同等)。
- DPCデータをもとに、大腸がん手術と胃がん手術を対象に、死亡率や合併症、コストなどを検証。
- 30,765人の患者データを使用。
- BMIと転帰との関連はU字型になっており、BMI23程度が患者の死亡率や罹患率、コストなどで最も低かった。
- 米国で見られた「肥満パラドックス」は本研究では見られず。
講義では、この文献を査読する立場になったらどのようなコメントをするか?といった内容でした。出た案を書いてみます。
- 胃がんと大腸がんを一緒に解析してしまっている。→手術の内容は大きく違うので解析は分けるべきではないか。
- 肥満患者率が2%ほど→データ解析には少なすぎるのでは?(実際の日本の肥満人口と変わらないが)
- 胃がん手術の重大な合併症(死亡率が高い)である膵液ろうの有無が、DPCデータを基にした研究では分からない。
- 日本人は肥満患者の手術に慣れておらず、このために欧米と結果に差が出たのではないか。(→これは個人的にはなるほどと思いました。)
- 腹腔鏡手術と開腹手術を一緒に解析している(変数に入れていない)。肥満患者と非肥満患者のアウトカムの差に影響しているのではないか。
- 切除マージンやリンパ節転移の有無に言及されていない。術前と術後でステージが変わる可能性があり、ステージ別の解析に用いられているステージが術前のものなのか術後のものなのか明言すべきである。
- 全摘か幽門側胃切除かなど術式によって合併症には違いが出る可能性があるため、変数に含めるべきである。
いろんな方の意見を聞くことができ面白かったです。