本日もまた文献紹介です。
ボリューミーな内容なので、何回かに分けてご紹介します。
Reactive oxygen species and hematopoietic stem cell senescence
Lijian Shao, et al. International Journal of Hematology volume 94, pages24–32(2011)
Abstract
造血幹細胞(HSC)は、造血における恒常性を維持し、何らかの障害を受けたときに自己複製、分化・増殖などを通してそこから回復するという役割を障害にわたって担っているが、これらの機能は活性酸素の影響を受け得る。活性酸素は、細胞の代謝によって内因性に生じるかあるいは外因性のストレスにさらされた場合に生じる。生理的レベルでは、分子シグナルとしての活性酸素機能は、HSCの分化・増殖・動員など様々な細胞機能を制限することが可能である。しかしながら、様々な病的状況が原因で活性酸素の異常な産生が起きてしまうと、これによってHSCの自己複製を阻害し、HSCの老化を招いてしまう。この結果、HSCの早期消耗と造血機能不全につながってしまう。このレビューは、HSCにおける活性酸素発生の仕組みと、活性酸素がHSCの老化を招く機序に関する近年の知見の概要を提供することを目的としている。特に活性酸素によるHSC老化を仲介するp38マイトジェン活性化プロテインキナーゼ-(p38)-p16Ink4a (p16)経路の役割に注目したい。
Introduction
・50年以上前にDenham Harmanが老化のフリーラジカルまたは酸化ストレス理論を提案した。正常細胞代謝によってフリーラジカルかつ/または酸化ストレスが産生され、活性酸素と抗酸化物質の不均衡が、様々な高分子に障害を与える酸化ストレスにつながるとした。
・加齢に伴う酸化ストレスが生物の寿命を短縮するかは議論の余地あり。
→しかし活性酸素の産生増加が様々な加齢性疾患の発症に関与していることは分かりつつある。
・しかし酸化ストレスに対する感受性は全ての細胞で同じではない。その中でもHSCは(その後の分化細胞と比較すると)酸化ストレスに敏感である可能性がある。
・HSCの酸化的損傷は、HSC老化と早期消耗を誘発し、マウスの寿命を間接的に短くする可能性がある。
The hierarchy of the hematopoietic system and HSC niche ~造血システムの階層とHSCニッチ~
・造血系は階層的に組織されており、HSCはその最上位にあり、自己複製・分化・増殖能を持っている。定常状態においては静止期にあり、様々なストレスにさらされると、造血系が枯渇しないよう自己複製や分化へ働く。
・多能性前駆細胞(MPP)と造血前駆細胞(HPC)は自己複製能が限られているか、ない細胞。これらの分化・増殖が正常造血を維持している。溶血や感染などの際に反応する。
・化学療法や放射線療法などの外因性ストレスでこれらが枯渇するとHSCが再産生し、恒常性を維持している。→HSCが障害を受けるか自己複製能が阻害されると造血システムに長期的障害が生じ、骨髄不全などに至る。
・通常、HSCは静止期にあり、骨内膜にあるニッチ内に存在している。ニッチは自己複製を支持する特別な環境を提供している。
・Wnt、BMP、TPO、IL-3、IL-6など様々な可溶性因子を介したニッチ間の相互作用によって実現されている。
・静止期HSCは代謝率が低くおそらく酸化的損傷を引き起こす活性酸素も少ないと考えられる。
・またニッチは血管(血流)と離れており、低酸素状態である。ニッチ酸素濃度は1%未満と考えられている。→低血液潅流→HIF-1α発現↑
・活性酸素を産生するミトコンドリアの酸化的リン酸化回路を制限し解糖系による代謝を主とすることにより、HSCが受ける酸化ストレスは少なく済み、これによって自己複製能が維持されている。
・低酸素条件でヒト骨髄HSCを培養すると細胞増殖↑
しかし正常酸素条件下で培養すると細胞増殖↓
→活性酸素産生がHSC自己複製調節に重要な役割を果たしている。
Oxidative stress in HSCs ~HSCの酸化ストレス~
・HSCが酸化ストレスに敏感であることはATM-/-マウス(加齢に伴う造血機能の進行性障害を来たす)で最初に証明された。抗酸化物質であり、細胞内の活性酸素の働きを阻止する働きがあることが知られているN-アセチルシステイン(NAC)を投与すると、HSC機能が回復し造血障害を防ぐことができる。
→ATM-/-マウスのにおける造血障害は活性酸素によるHSC消耗が原因と思われる。
・FoxO(Fox1, 3, 4)ノックアウトマウスでは造血異常来たす。HSC数と長期的再増殖能はこれによって著明に減退。これは活性酸素産生増加によるものと考えられている。NAC処理するとこの効果は逆転する。
・FoxO3の単独欠損で、3種のFoxOノックアウトとほぼ同様の効果が観察される。→FoxO3はHSCの主要な制限因子と思われる。
・スーパーオキシドジムスターゼとカタラーゼ発現の転写因子調節がFoxOの主な役割。
※スーパーオキシドジムスターゼ(SOD):細胞内に発生した活性酸素を分解する酵素。酸素消費量に対するSODの活性の強さと寿命に相関があるとされている。(Wikipediaより)
・活性酸素産生増加とそれに関連したHSC機能不全はファンこにー貧血などいくつかの疾患や加齢などの病的条件下にて
観察されている。
・慢性酸化ストレス→HSCのDNA損傷・HSCクローン原生機能の阻害・HSC老化誘導と関連。NAC処理によってこれを阻害可能。
Cellular sources of ROS in HSCs ~HSCにおける活性酸素の細胞源~
・活性酸素はミトコンドリア代謝の副産物の1つ。活性酸素の主の供給源。
・Bmi-/-マウス:ミトコンドリア機能異常→活性酸素産生増加
・TSC-/-マウス:ミトコンドリア代謝と参加活性増加→活性酸素増加
・HSCはその後の分化細胞と比較して、ミトコンドリアがより少ない。
・HSCはミトコンドリアによる酸化的リン酸化回路ではなく主に解糖系を利用。
・病的条件下で活性酸素が増加するのはミトコンドリアが原因?→まだわかっていない。
・細胞は厳格に制限されたNADPH oxidases (NOXs)ファミリーを通じて活性酸素を産生する。→NOXを介したミトコンドリア外の酸素消費がヒトHSC内因性細胞呼吸の約半分を占める。
・NOXによる活性酸素産生は多くの疾患発症に関与している。
・HSCにはNOX1, 2, 4あり→HPCにはNOX1, 2あるが4はない。HSC分化の際にNOX4はダウンレギュレートされるよう→これがHSC機能調節に関与しているのでは
・放射線照射をするとNO1, 2発現は変化しないのに対してNOX4発現はアップレギュレートされる。→今後NOX4ノックアウト実験などが必要。
・シクロオキシゲナーゼとリポキシゲナーゼも活性酸を産生。
・リポキシゲナーゼ欠損マウス由来HSCは移植後再増殖能↓
→標準的Wntシグナル伝達減少による
・シクロオキシゲナーゼとリポキシゲナーゼの病的条件下での役割は未だ不明。