こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】NOTCHと低酸素の組み合わせでHSC増殖効率アップ?

文献紹介。

 

Araki D, Fu JF, Huntsman H, et al.

NOTCH-mediated ex vivo expansion of human hematopoietic stem and progenitor cells by culture under hypoxia.が

Stem Cell Reports. 2021 Sep 14;16(9):2336-2350.

 

※NOTCHに関して

NOTCHは過去にも何度も登場している。Delta(DLL1,3,4)またはJagged(JAG1,2)がリガンドでNotch(哺乳類ではNOTCH1,2,3,4と4種類あり)が受容体。Notchシグナル伝達は、様々な臓器・細胞の発生・分化に関与している。造血幹細胞(HSC)に関しては自己複製に関与している可能性が示唆されている。

※過剰発現によって自己複製の増加や分化阻害につながると報告される一方で、ノックアウトしても自己複製に影響しないとの報告もあり。

 

このDelta1を用い、HSCを体外で培養できる培地も過去ブログで紹介している。

これは既に臍帯血移植で臨床試験も行われている。

【文献紹介】Notchを介したヒト臍帯血前駆細胞培養で移植後早期生着が可能に - こりんの基礎医学研究日記

 

※低酸素に関して

ニッチは低酸素状態(骨髄は生理的に低酸素状態)にあり、それが幹細胞の維持に重要であるという内容の記事は過去にも書きました。

おおまかなまとめ↓

  • 健常者の骨髄穿刺液の平均pO2は54.9 mmHg/平均SpO2 87.5%と低め。
  • 低酸素状態がHSC維持に寄与している可能性がある。
  • 低酸素状態はまた幹細胞の多能性維持に寄与するとも指摘されている。
  • 低酸素かた組織を守るタンパク質低酸素誘導因子(HIF)がHSC維持を媒介していると報告されている。

この両者を同時に活性化することでより効率的なHSC体外増殖ができるのではないか?

を検証したのが今回の論文。

 

【本文】

  • DIXを培養液に添加すると、総細胞数は濃度依存的に細胞増殖速度は低下。
  • しかしCD34+細胞はDIX添加によって総数や%が増加。
  • これに低酸素状態を組み合わせるとさらに増加が見られた。
  • RNA seqを行ってみると、低酸素+DXIでは、NOTCH経路の活性増加が明らかになった。
  • この過程にはHIF-1αも関与していることが実験的に証明された。
  • 最適なDIX濃度下+低酸素条件にて培養するとLTR-HSCは約5倍もの増殖が見られた。
  • またCD34 +細胞コンパートメント内のLTR-HSC frequencyも大きく増加。
  • 低酸素はLTR-HSCのNOTCHを介した増殖改善にどのように寄与した?
    →単一細胞RNA seq実施し調査→造血の軌道パターンを調査。
    →Controlと比較して、低酸素+ DXIに曝露されたHSCでは、合計27の遺伝子で(すべてダウンレギュレーション)差が同定された。
  • 低酸素シグナル伝達経路とAHRシグナル伝達経路の間の既知の分子クロストークに関与する遺伝子の発現低下が見られた。
  • 小胞体ストレス(ERストレス)に関連する遺伝子発現が最も優位にダウンレギュレートされていた。
  • 低酸素は、LTR-HSCのDXIを介した増殖の課程で生じる小胞体ストレス応答経路を軽減させる効果がある。
  • アポトーシス細胞は正常酸素濃度培養で低下。
  • 小胞体ストレスを介したアポトーシスROS産生増加を抑える。