こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】低酸素による造血幹細胞ニッチの調節~後編~

前回記事の続き(後編)です。

 

前回の記事はこちら↓

【文献紹介】低酸素による造血幹細胞ニッチの調節~前編~ - こりんの基礎医学研究日記

 

Hypoxia Regulates the Hematopoietic Stem Cell Niche

 
【ニッチ細胞に対する低酸素の影響】
 
①間葉系細胞・前駆細胞への影響
HSCの他にも骨髄には幹細胞が存在
→mesenchymal stem and progenitor cells (MSPCs)
・MSPCは骨髄の血管周囲領域に存在し、骨・脂肪・軟骨などの複数の間葉系細胞に分化できるとされている。
・MSPCはHSCに隣接して局在→ケモカインCXCモチーフリガンド12(CXCL12)、幹細胞因子(SCF)などのHSC支持因子を発現している。
→HSCニッチ細胞として機能する。
・MSPC集団は低酸素状態かつHIF-1αが高発現→これが未分化状態での細胞維持に関与している可能性がある。
 
②内皮細胞
・胚造血において、内皮細胞からHSCを生成するためにHIF-1αは重要な役割を果たしている。
・内皮細胞におけるSCFやCXCL12発現は、HSCの維持に重要。
・しかし低酸素が内皮細胞を介してHSC維持に寄与しているという報告は少ない。
・HIFは胚やある種の腫瘍の内皮細胞で発現。しかし骨髄内皮細胞で発現しているかは不明。→さらなる研究が必要。
 
③骨芽細胞
・骨芽細胞は内膜に並んでいる→HSCニッチとして重要な役割を果たしている。
・SCFやCXCL12などを発現している。
・また血管内皮増殖因子VEGFを発現している。
・骨系列細胞osteolineage cellsにおいてHIF-1αが欠損すると、血管形成が不十分になり骨髄腔形成に問題が生じる。
・骨芽細胞由来のnon-canonical Wntタンパク質はHSC休止期を維持している。
・ストレス条件下ではcanonical Wnt↑ & non-canonical Wnts↓となり、細胞周期が回り始める→休止期HSCが減る。
・さらに骨芽細胞はHSCによる赤血球生成にも寄与。
・低酸素→エリスロポエチン分泌→HSCからの赤血球生成↑
・HIF-1αおよび/またはHIF-2αを欠損させると…エリスロポエチン↓かつ赤血球前駆細胞
 
白血病幹細胞に対する低酸素の影響】
白血病の内いくつかのタイプはleukemic stem cells (LSCs)によって維持されている。
・骨髄微小環境、ニッチに局在し、腫瘍の発生、進行、薬剤耐性、および転移に関与している。
・HIFが腫瘍形成に重要。
・患者由来のCML前駆細胞は、正常酸素条件下よりも低酸素条件下での培養でより高いCMLコロニー精製能力とBCR-ABL TKIに対するイマチニブに対する耐性を示した。
・正常酸素状態で培養すると、生着能低下。
・Wntシグナル伝達はT-ALLの自己複製に寄与。
・一部の白血病は正常酸素条件下でもHIF-1α活性化。AML幹細胞など。
 
【結論・今後の課題】
・HSCとニッチはHIFシグナル伝達を介して低酸素骨髄微小環境において維持されている。HSCでの低酸素応答をより詳細に調査することでHSCとニッチをin vitro, in vivoで操作するための新たな戦略の開発に役立つ。さらに白血病治療に役立つ可能性がある。