久しぶりに臨床関連の文献紹介です。講義で扱った文献です。
Menees DS, et al.
Door-to-balloon time and mortality among patients undergoing primary PCI.
N Engl J Med. 2013 Sep 5;369(10):901-9.
- これまでST上昇型心筋梗塞の際には、患者が病院に到着してからPCI(冠動脈インターベンション)を実施するまでの時間、いわゆる"Door-to-balloon time"の短縮が死亡率低下につながるとされてきた。
- これに伴って、全米ではDoor-to-balloon timeの短縮が試みられ、実際に短縮傾向にある病院が多いが、しかしそれは本当に死亡率低下につながっているのかを検証。
- いわゆるリアルワールドデータを用いた解析。CathPCI Registry of the National Cardiovascular Data Registryに2005-2009年までの間に頭側されている患者96738人のデータを検証。
※リアルワールドデータ(Real World Data)とは・日常診療から得られる患者データの総称。
・病院や科で集めているデータベース、電子カルテデータ、レセプト・DPCデータなども含まれる。
・RCTで除外されてしまう高齢者や合併症を有する患者データもとることができ、外的妥当性や実施可能性という点ではRCTより優れている(逆に内的妥当性に関してはRCTより劣る)。
詳しくは別記事で↓ - 2005年から2009年までの間にDoor-to-balloon timeは短縮され、米国のガイドラインで推奨されている90分以内のPCIを達成できた患者の割合も2005年の59.7%から2009年には83.1%まで上昇。
- しかし、死亡率は変化なし。75歳以上の高齢者、前壁梗塞、心原性ショック患者などに限定しても死亡率は変化なし。
【筆者らの考察】
- ACC(American College of Cardiology)もAHA(American Heart Association)もDoor-to-balloon time短縮するよう全国的にキャンペーンを実施。その甲斐あって目覚ましい改善が全米で見られたが死亡率改善にはつながらず。
- Door-to-balloon time短縮が死亡率改善につながるかということに関するこれまでのデータも一貫性がなかった。多くの交絡因子が関与しているからと考えられる。
- 例えばimmigration bias(重症患者の方がPCIの前に血行動態安定化などに時間を要しPCIまでの時間が長くなってしまう傾向にある)などの関与もあったかもしれない。
- Door-to-balloon time短縮はもう限界ではないか?それよりもtotal ischemic time=総虚血時間を短縮するために患者教育を実施したり、医療施設間の移動を短縮したりなど、症状発症から治療までの時間を短縮することを考えた方がよいのではないか。
- 観察研究であること(ランダム化比較試験ではないこと)、短期(30日以内)の死亡率しか比較していないがもっと長期で見た時の死亡率に差が出てくる可能性がある、primary PCI患者のみの調査であったため全てのST上昇型心筋梗塞患者に当てはまらない可能性がある、などのLimitationがある。