臨床研究に関する講義を聞いたので、その内容を要約です。備忘録的な感じです。
★RCT=ランダム化比較試験(randomized control trial)
・臨床研究のゴールドスタンダード。
・介入群と対照群を無作為に割り付ける方法。
・あらゆる臨床試験で問題となる交絡因子を除外する最も優れた方法。
(未知の交絡因子を調整できる可能性がある方法はRCTと操作変数法の2つだけ)
・しかし多大な時間、お金、労力がかかり、実現困難なこともしばしば。
(救急・外科領域の手技や疾患、希少疾患には不向き)
★リアルワールドデータ(Real World Data)
・日常診療から得られる患者データの総称。
・病院や科で集めているデータベース、電子カルテデータ、レセプト・DPCデータなども含まれる。
・RCTで除外されてしまう高齢者や合併症を有する患者データもとることができ、外的妥当性や実施可能性という点ではRCTより優れている(逆に内的妥当性に関してはRCTより劣る)。
**************************************************************
【実際の臨床試験におけるRCTとリアルワールドデータ】
~大腸穿孔に対するPMXは有効か?~
1.RCT
Cruz DN, Antonelli M, Fumagalli R, et al.
Early use of polymyxin B hemoperfusion in abdominal septic shock: the EUPHAS randomized controlled trial.
JAMA. 2009;301(23):2445-2452.
・イタリア10施設で行われたRCT。
・合計64人の患者で検証(PMX群34人vs標準ン治療群30人)。
・PMX群で有意に死亡率が低く、明らかな有意差が出たため試験途中で終了。
・腹腔内GNR感染症による敗血症患者の28日死亡率を改善するため標準治療に組み込まれるべきであるとした。
※問題点:対照群とPMX群の生存曲線が相似形でない。標準治療群では観察開始後5日以内の死亡者が多く出ていたがPMX群ではそのような徴候はなかった。参加者が少なかったがためにランダム化がうまくなされず、標準治療群にたまたま重症患者が集まってしまったのでは?また同文献は死亡率50%以上と異常に高い死亡率であり、現状を反映していない可能性がある。
2.リアルワールドデータ
Iwagami M, Yasunaga H, Doi K, et al.
Postoperative polymyxin B hemoperfusion and mortality in patients with abdominal septic shock: a propensity-matched analysis.
Crit Care Med. 2014;42(5):1187-1193.
・日本のDPCデータベースを使用。
・下部消化管穿孔の病名がつき、入院当日に開腹手術をしており、入院当日に昇圧剤を開始している症例を対象とした後ろ向き研究。傾向スコアマッチングを採用。
・590人vs590人で検証。死亡率はPMX群17.1%、未使用群16.3%。
・PMX群と未使用群はほぼ同様の生存曲線となり、2群に有意差はなし。
・消化管穿孔に対するPMXは死亡率減少効果なし。
※問題点:観察研究であり、未測定交絡因子がある可能性がある。また対象としている患者の定義では、敗血症性ショックではない患者も含まれている可能性がある。
その後のRCT
・2015年フランス15施設で行われたRCT:有意差なし(むしろPMX群で死亡率高い傾向)。
Payen DM, et al. Early use of polymyxin B hemoperfusion in patients with septic
shock due to peritonitis: a multicenter randomized control trial. Intensive Care
Med. 2015;41:975-84.
・2018年北アメリカ55施設で行われたRCT(症例数449例と多く対照群に偽治療を施すなど徹底した管理下で実施):28日死亡率に有意差なし。
Dellinger RP, et al. Effect of Targeted Polymyxin B Hemoperfusion on 28-Day
Mortality in Patients With Septic Shock and Elevated Endotoxin Level: The
EUPHRATES Randomized Clinical Trial. JAMA 2018; 320: 1455-1463
RCTとリアルワールドデータの長所、短所を生かした(?)上記の戦いは面白いですね。しかし以前勤めていた病院で結構PMXやっていましたが、これらを見ると総じてエビデンスは微妙そうです。しかし超重症患者に限定すればもしかしたら結果は変わるかも?という気もします。