こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

公衆衛生レクチャーで学んだこと⑫~疫学に関するさまざまな用語の解説~

公衆衛生に関するレクチャーを受けました。それで新たに学んだこと、よくわからなくて後で調べたことなどをメモ的に書いていきます。

 

Prevalence=有病率

疾患を有している割合を示す。A point in timeの測定。疾患以外にも、例えば喫煙や抗血栓薬の内服のように、暴露・治療に関する測定も可能。

有病率=(疾患/暴露などを有している人の数)/(全体の人数)

 

Incidence=罹患率

特定の期間(over a specified time period)新たに疾患を発症した人を計測する。Incidence proportion=発生割合やInicidence rate=罹患率の計算が可能。

 

Rate Ratio=率比

率比=(問題としているグループのrate)/(比較するグループの率比)

Ex. (女性の糖尿病罹患率)/(男性の糖尿病罹患率)

→女性は男性の何倍糖尿病になりやすい?

 

 リスクにしてもオッズにしても, これは時間要素の入っていない指標ですったとえば,時速100 kmで走る車も時速50 klllで走る車も,自転車より早いことは確かです.その意味では自転車より早いということで同じになります。しかしながら,両者のスピードはかなり違います。これを勘案するような指標として,率(rate)やハザード(hazard)が使われることもあります。率では頻繁に起こしやすいかを表し,ハザードではすぐに起こしやすいかを表します。年に2回イベントを起こす人も年に1回起こす人も,オッズやリスクは同じ値になりますが,率は2倍になります。また,1か月以内にイベントを起こす人と1年目に起こす人の危険度は違うでしょうが,オッズやリスクでは同じ値になります。ハザードではイベントを起こすまでの日数を勘案しますので,早期に起こすほうがハザードは高く計算されます。こういった場合の群間比較にはオッズ比やリスク比よりも,率比(rate ratio)やハザード比(hazard ratio)を使ったほうがよいのです。そのためには,いつ起こしたかといった時間の情報が必要になります。

折笠秀樹「オッズ比とリスク比の違い」薬理と治療 vol. 47 no. 3 2019

http://www.med.u-toyama.ac.jp/biostat/Difference%20between%20odds%20ratio%20and%20risk%20ratio(JPT,%202019Mar).pdf

 

Competing risk

目的以外のアウトカム(イベント)のこと。例えば、アウトカムを冠動脈疾患による死亡と定義しているとき、それ以外の死亡、悪性腫瘍での死亡や交通外傷での死亡などがCompeteing riskに該当する。 

 

Loss of follow-up

患者がアウトカムに達したか分からない状況。例えば週1回のフォローアップを1年間続けるといったような厳しいフォローアップ基準を課すと追跡できない患者が増加してしまう。

 

※Competeing riskは累積罹患率計算などの際に問題となる。詳しくは以下参照。

 

例えば物質Qはマウスに腫瘍を発生させます。そこでマウスに物質Q2年間与えて影響を比較しました。すると大量投与では肝毒性が強く多くが半未満で死亡してしまったためほとんど腫瘍の発生をみませんでした。一方中等量与えたものでは2年後多くのマウスで肝臓腫瘍が観察されました。この結果をどう考えたらよいでしょうか?

 

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このような場合にもincidence rate が効果を発揮します。肝毒性で早期に死亡してしまったマウスはperson-year (mouse year?)で考えるとそのウエイトは小さくなります。よって肝臓腫瘍を発生したマウスのウエイトがあがりcompeting risks の問題を解決することができます。

 

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非喫煙者の冠動脈疾患で死亡する割合(cumulative incidence)が喫煙者のそれより高いとします。喫煙は冠動脈疾患を抑制すると結論してしまってよいのでしょうか?喫煙者の多くは冠動脈疾患を発症する前に肺癌や慢性呼吸器疾患で死亡することが多く、cumulative incidence でみると喫煙の冠動脈疾患発生を過小評価してしまう可能性があります。よって上記のように結論するのは危険です。このような場incidence rate で評価するべきです。よってcompeting risks の存在下でcumulative incidenceを直接計算するとincidence rate(IR)あるいはIRから計算しなおしたcumulative incidence 比べ、実際のデータを過小評価してしまうことになります。以上のようにloss of follow-up, competing risks の問題から臨床研究においてはincidence rate が可能な限り好んで用いられます。

「疾患発生頻度の測定」

http://dr-urashima.jp/pdf/eki-2.pdf

 

 

Attributable risk=Risk difference=リスク差

(曝露群の累積発生率cumulative risk)-(コントロール群の累積発生率cumulative risk)

Ex. 虫垂切除術を受けた患者の中で術後感染を起こす確率について考えてみる。

虫垂切除を受けていない患者(他の手術)の術後創感染発生率 100人中1.3人

虫垂切除を受けた患者の術後創感染発生率 100人中5.3人

リスク差は4.0人:100人中4人が虫垂切除術によって術後創感染を生じた。

Attributable proportion=寄与割合はリスク差を全発生率で割ったもの。上記の例で言うと4.0/5.3=75%

虫垂切除術後創感染を生じた患者のうち75%は手術そのものではなく虫垂切除術によって生じた。

 

Population attributable risk=人口寄与危険度

一般人口からその危険因子が除去され た場合どれくらい病気が減少するかを示している。

Ex. 1000人中肥満者が70人いる。

運動習慣がある人は800人、そのうち30人が肥満。

運動習慣がない人は200人、そのうち40人が肥満。

全体の肥満割合は70/1000=7% 運動習慣がある人の中の肥満割合は30/800=3.75%

このときのPopulation attributable risk%は、、、

(0.07-0.0375)/0.07=0.46

肥満者のうち、46%は運動習慣がないことによって肥満になっている。