こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

精巣破裂に関する文献紹介

本日は臨床に関することです。

 

先日の当直の際に、精巣破裂の症例を診ましたので、いくつか文献を読んでみました。

日本語文献1つと英語文献1つです。

 

 

1.精巣外傷の概説(日本語文献より)

土屋ふとしら.「精巣外傷で出血は止まっているが経過観察でよいか」.臨床泌尿器科. 2011; 65(5). 299-300.

・精巣外傷のうち、最も多いのは挫傷。受傷原因としては、喧嘩、スポーツ、交通事故、落下事故である。

・主な症状:局所の激しい疼痛、吐き気、嘔吐、下腹部痛などを伴いショック症状をきたす場合もある。

・大きな外力が働いたり、恥骨・大腿骨に強く押しつけられた場合に、精巣白膜が損傷して、精巣実質が脱出した精巣破裂に至る。

・精巣の鈍的外傷の約48%に破裂が起こる。

・破裂後3日以内が手術のゴールデンタイム。受傷後3日以内に手術を行うと精巣温存率は90%であるが、3日を過ぎると45%に激減するとの報告あり。

~診断~

・エコー:精巣の輪郭の不整像、白膜の連続性の消失、実質内の低エコー領域の存在などを観察。感度:64% 特異度:75%

MRI:T2強調画像もしくは造影T1強調画像が白膜の描出に優れている。エコーよいも高い診断率で再現性も高いが検査までアクセスが課題。

・血腫が存在すると画像的診断が難しくなる。精巣破裂は80%で血腫を伴うことから、血腫の存在のみでも早期の手術が好ましいとの意見もある。血腫の大きさにより手術適応を決めるという意見もあるが、エビデンスはまだない。

 

2.精巣鈍的外傷後エコーによる精巣破裂診断の精度

Powers R, et al. Usefulness of Preoperative Ultrasound for the Evaluation of Testicular Rupture in the Setting of Scrotal Gunshot Wounds. J Urol. 2018;199(6):1546‐1551.

・フランスブザンソン大学泌尿器科での研究。

・1996-2006年に陰嚢鈍的外傷のために受診した33人の患者を対象とした後方視的研究。14-86歳(平均30.2歳)。外傷から泌尿器科コンサルトまでは平均2.6日。

・全患者でエコー検査施行。その後全患者で手術施行。

・48.5%(16人)に精巣破裂を認めた。

・身体所見だけで精巣破裂の診断ができた症例はなかった。

・精巣破裂16例のうち、白膜損傷をエコーで診断できたのは8例のみ。(4例は偽陽性=エコーにて誤って白膜損傷と診断。) 感度:50% 特異度:76%

・低エコー、精巣実質の異質性、精巣輪郭の不整、直接的な損傷サインがあるかを基準として用いる→感度:100% 特異度65%

・エコーで偽陽性だった患者も精巣破裂はなかったものの重症外傷と関連していた。

・22例がエコーで血腫が確認され、そのうち21例が外科手術でも血腫を認めた。

・2人の患者はエコーで明らかな外傷が示唆されなかったが(腫脹や疼痛が激しくエコーが困難だったなど)、手術を行った。安全性のためには疑わしければ手術したが精巣破裂なし。

・精巣摘除率は早期手術で6%、手術遅延で45%と報告されている→早期手術は多くの文献で推奨。

・単にエコーをするだけでは検査精度は十分ではないが、チェック基準を定めることで検査精度を上げることができる。

 

3.私見(感想)

文献を探してみて思ったのですが、すごく少ないですね…90年代の文献が主だったりします。あまりActiveな分野ではなさそうですが、緊急疾患ではあるので、押さえておきたいです。

 

2番目の文献での感度100%はちょっと若干疑問がありますが(笑)、これは泌尿器科医がやるか専門外の医師がやるかでまた変わってくるとは思います。

 

しかし漠然とエコーをやるのではなく、注目するポイントを定めてエコーをやるという姿勢は重要だと思います。

 

以上です。